xx Because I Love You xx   ― the latter half ―

 

 僕は真っ直ぐ家に帰り、家からシキの母に調子が悪くて行けなくなった旨を伝えた。

 おばさんは、とても心配してくれて少し心が痛んだ。

 が、嘘は言っていなかった。

 心の調子が…悪い。

 キュッと締め付けられる胸の辺りを押さえて、僕はベッドに倒れ込んだ。

 シキが自分から、離れて行ってしまう気がした。

 それも、自業自得なのだ。

「もう、一緒に帰らない」と告げたのは自分なのだから。

 けれど、自分のエゴでシキを縛り付けるのは、もっと嫌だった。

 僕とシキのつながりは、”一緒に帰ること”それがすべてだった。

 帰る途中で、気が向けば二人で遊びに行ったし、どちらかの家へ行って、ダラダラと過ごしたりもした。

 けれど、わざわざ休みの日に待ち合わせて…というような会い方はしたことがなかった。

 一緒に帰らなくなれば…?

 それでも、僕はシキと一緒にいたいよ…。

 それを望むのは、一緒に帰ることで彼を縛り付けるのと、あまり変わらないような気もする。

 でも、一ヶ月いや、二ヶ月に一度でもいい。

 僕が休みの日に誘ったら、シキは応えてくれるかな?

 家に遊びに行ったら、入れてくれるかな?

 いろいろ考えているうちに、僕は寝入ってしまったらしい。

 インターホンの鳴る音で、僕は目が覚めた。

 …父さんは…今日は出張で帰れないって言ってたっけ…。

 僕はだるい体を何とか起こし、玄関へ向かう。

 寝起きのスッキリしない頭を抱えながらドアを開けると…シキがいた。

「…あ、えーと…」

 シキは恐い顔をしていた。

 シキが怒った顔なんて、初めて見る。

 …無理もないか。

 今日見ようって言ってたビデオ、シキ楽しみにしてたもんな…。

「ごめん。急に調子悪くなっちゃって…。今まで寝てたんだ。ホラ…頭、ボサボサだろ…って、え?」

 シキは入口に立っていた僕をグッと押して、強引に中に入りドアを閉める。

「真奈美と言い合って、調子悪くなった?」

 抑揚のないシキの声。

「…なんで?」

「何で知ってるかって?お前なぁ、あれだけの人の前でやりあってて、オレの耳に届かないワケないだろ?」

「………」

 でも、どうして…怒ってるの?

 ビデオのせいではないような気がして、僕は急に不安になった。

「…お前、真奈美にオレを返せって言われて、ホイホイと渡せてしまうワケだ。…そこら辺のモノみたいに」

 あ…!

 言われて気が付いた。

 僕はシキの思ってることなんて関係なしに、自分勝手に渡すだの渡したくないだの…。

 自分の欠点をまざまざと見せつけられたような気がした。

 僕は…人間として、人を思いやる能力に欠けている…。

 いつも、自分が中心なのだ。

 自分が、自分勝手になるのがイヤで、シキを解放した気でいたが、その行為こそが、自分勝手だったなんて…。

 弁解する言葉もなかった。

「ごめん…。お前を、お前の意思に関係なく、真奈美ちゃんに返したりして…悪かった、よ…確かに、モノ扱いみたい…」

「違うっ!オレが言いたいのはっ…」

 シキは心の中のものを吐き出すように言った。

「どうして、お前がそんなに簡単にオレを捨てられるのか、ってことだ!」

「捨ててなんか…」

 僕はシキのプライドを傷つけてしまった?

 これで、完全にシキと一緒にいられなくなってしまうのだろうか?

 やさしい、シキにまで嫌われてしまう自分が、情けなくて仕方なかった。

 いや、これで元に戻っただけだ。

 シキとまだ出会っていなかった頃の状態に、戻るだけ。

 別に前より悪くなっているワケじゃぁない。

 そう必死で思うが、幸せだったここ一ヶ月を思い出して、涙が滲んだ。

 そんな僕を見て、シキは突然冷静になったようだった。

「いや、悪かった。オレが一方的にお前に執着しすぎてるんだよな…。お前にも同じものを求めちまって…。そんな勝手なことねーな。…これからは、真奈美と一緒に帰るよ」

 何か、いろいろなことを一度に言われ、僕はパニックを起こしてしまった。

 シキが帰ろうと背を向けたのを見て、一生懸命言わなければならない言葉を捜した。

 シキが僕に執着している…?

「そんなの…知らない。僕はっ、友達にしてもらえてるのかさえ、確信持てなくて…僕は、自分でもイヤになるくらい…シキが…好き…だ」

 涙が、溢れてそれ以上の言葉が続かなかった。

 シキは僕に背を向けたまま何も言わない。

 あせって口にした言葉が、言ってはならない言葉だったような気がして、僕はサーッと血の気がひいた。

 好きだなんて、男相手に言って、軽蔑された?

 でも、好きなんだ。好きなんだ。

 …好きなんだよ…シキ。

 僕はバカの一つ覚えみたいに、心の中でその言葉を繰り返す。

 シキは動かなかった。

 ようやく、僕も冷静になってくる。

「ごめん。最後の、ナシにしてくれる?…僕ちょっと、気が動転してたみたいで…また明日、学校で…」

 それ以上、その場にいられなくて、家の中へ戻ろうとした僕の腕をシキが掴んで引いた。

 そして、そのまま彼の腕の中へ抱き込まれる。

「…んな」

「え?何?」

「ナシになんてすんな!って言ってんだ。何かジェットコースターに乗ってるみてぇ。お前の言葉で、オレは一喜一憂…」

 ど…どういうこと?

 そんな、僕の疑問が聞こえたかのように、シキが答えを口にする。

「今まで、何も言葉にしなかったオレも悪いと思うから、この際ここで言っておくと…オレはお前が好きだ。ホレてるよ。まず…顔が好きだった。だから、声かけた。一度一緒に帰って、性格もいいなぁ、と思った。毎日一緒にいたくて、お前の教室に通った。一緒にいる時間が増えて、ますます好きになった!何で、これだけアプローチしてんのに”友達にしてもらえてるのか”なんて思うんだよ?友達なんて、とっくにこえてるよ。オレにとってのお前は」

 うっわ〜。

 嬉しくて、でも恥ずかしくて、僕は顔を伏せた。

 頭で、シキの胸を押す形となる。

「まぁ…真奈美のことは、ゴメンな。お前と一緒に帰る前から、もうあまり会ってなくて、でも決定的な別れ話はしないまま今まで来ちまった。今日、ちゃんと別れてきた」

「じゃぁ、さっきの!」

 バッと顔を上げた僕に、シキはカッコイイ顔を近づけて笑った。

「ああ、あれはウソ。だって、オレばっかりお前のことが好きなのかと思うと悔しくてな…」

 唖然として開いた僕の口をシキは素早く奪った。

 手…はやい…。

 思いつつも、シキの舌の侵入を許す。

 そして、好きなように口の中をなぶられる。

 ついて行けなくて縮こまった僕の舌を、シキは自分の舌でうまく引き出し、お互いを絡ませ合う。

 背筋に、甘い痺れが走った。

 上あごを舐められて、ゾクゾクする。

 やっとのことで、シキの口から解放されるたかと思うと、今度は声で攻撃された。

 シキは自分の声の効力を…知っている…。

「ガーク。気持ち良かった?オレはすっげー良かったv」

 耳元で囁いていた口が、そのまま僕の耳に軽く食いついた。

 ひゃぁ…。

 骨抜きにされて、崩れ落ちようとした僕の体をシキは腰に手を回して、支えてくれた。

「大丈夫か?ガク」

 その声で言われると、余計に力が入らなくなる。

 代わりに力が集まるのはアソコで…。

 嫌、これ以上感じたら…シキにバレる…。

 思いとは反対に、そこはどんどん熱くなる。

 シキに腰を押し付ける形で、支えられてるのに!!

「ガク、感じてくれてる?…ウレシイ」

 バレてた!

 羞恥で僕は居たたまれなくなった。

 そんな僕をシキは突然、横抱きにした。

「恥ずかしがらなくていい。ガク、もう辛いだろ?楽にしてやるよ…ベッドは?」

 もう、シキの誘惑に逆らえず、僕は二階の自分の部屋を指差す。

「いい子だ」

 キスを一つ、僕の額に落としておいて、シキは僕の部屋に向かった。

 シキの両手がふさがれているので、僕がシキの腕に抱かれたままドアを開ける。

 シキは真っ直ぐベッドへと進み、僕をベッドの端に腰掛けさせるように置くと、自分はその後ろに座った。

 後ろからギュッと抱きしめられる。

 そして、シキは僕のうなじに顔を埋めた。

「愛してる、ガク。オレの手で、気持ちよくなれよ」

 言うと、シキは僕のベルトを外す。

 ジッパーを下ろし、ズボンを僕の腰から拭い取った。

 下はブリーフ一つになってしまい、僕の感じているのがあらわになる。

「や…」

 恥ずかしくて、そこを隠そうとした僕の手を、シキの手が阻む。

「ガク、隠すな。オレ見たいよ」

「そんな!!」

 僕の反論を聞かず、シキは僕のブリーフの中に手を入れてきた。

 直に触れられた途端、僕の体はビクリと揺れた。

 シキは左手で僕を抱きしめ、右手で僕のモノを触っている。

 ゆっくりと、シキの右手が動き始めた。

 僕の下着の中で動くシキの手の動き…それが目に入って、僕は首を横に振った。

「やだ…やだ…」

 もちろん、僕は人の前でイッたことなんてない。

 そんな所、さらせない!

「ん?”やだ、イキそう”?」

 シキが笑いを含んだ声で、聞いてくる。

「ちがっ…」

「オレも”やだ”な。このままじゃガクのカワイイのが見えない」

 言うが早いか、シキは手早く僕の腰を持ち上げ、ブリーフを下ろしてしまった。

 さらされた、僕の立ち上がったモノ…。

「嫌〜!!」

 逃げようとする僕の腰を、シキは捕らえて放さない。

 僕は堪らず、両手で股間を覆う。

「ガク、落ち着いて。本当にイヤ?オレに触られるのなんて…気持ち悪い?」

 シキの真摯な声。

 ………。

「…気持ち悪…くない。恥ずかしくて…嫌なんだ…」

「ごめんな、ガク。恥ずかしい思いさせて。でもオレ、お前の気持ちよがるの、見たいよ。好きな子が喜んでるの、見たいよ。お願いだ、ガク。オレに…させて」

 僕は恥ずかしくて…たまらなくて…でも、シキが好きだった。

 僕が手をどけたのを、シキは了解の印と受け取って、うなじにキスをくれた。

 また僕の体が跳ねあがる。

「ありがとう、ガク」

 言って、シキは手の動きを再開する。

 根元から、擦り上げ、先端を撫で回す。

 恥ずかしい自分を見たくなくて、目を閉じると余計にシキの手をリアルに感じてしまう。

 耳も澄んできて、僕のモノが出す、先走りの液がシキの手と触れ合ってクチュクチュ鳴るのが、大きな音として聞こえてきた。

 あまりに大きい快感を受け止めきれなくて、僕はシキの手から逃げようと、腰をよじった。

 でも、シキの手はそのまま付いて来る。

 僕の体はズルズルと半分ベッドから落ちてしまって、でも胸の部分はシキの腕で支えられているため、僕は前に腰を突き出す格好になってしまった。

 シキの手は止まらず動き続けている。

「余計にHな格好になっちゃったな…ガクが逃げるからだぜ?」

「いや…しんどい…」

 この恥ずかしい体勢から戻して欲しくて、僕は涙目になって頼んだ。

「…残念」

 言いながらも、シキは僕の体をベッドの上に引き上げてくれた。

「ん…んふぅ」

 口から声が出るのを止めようとすると、鼻から恥ずかしい声がもれてしまう。

「そそる声だな、ガク」

「もうっ、もうダメ…」

「いいよ。イけよ」

 激しく続けて擦り上げられて、僕は息を詰めた。

「んんっ…」

 体温を奪われ、身を震わせる。

 目を開けると、シキの手は僕のもので汚れているのが見えた。

「ご…ごめん」

 ぐったりする僕を体で支えて、シキは心外そうな声を上げる。

「何で謝るんだ?」

「何か、僕だけ気持ちよくなっちゃって…シキ、全然…」

「バーカ。オレお前見て、すっげー感じた。後で、思い出して気持ちよくなるからいいよ」

「………」

 言葉を返さない僕に、シキは誤解したようだった。

「あ、ごめん。おかずにされるなんて言われて、いい気しないよな…オレ考えなしで…」

「違うよ…違う」

 気持ち悪いなんて、全然思わなかった。

 それよりも、僕の腰の部分に当たる硬いものに気付いて…僕はある決心をしていた。

「…ガク?」

 僕は、後ろを見ずに手を回した。

 そして、シキのズボンのジッパーを下ろす。

「お…おい」

 うろたえたシキの声を聞きながら、中に手を侵入させた。

 けれど、下着の入口が見つからない。

 僕は床に立って、後ろを振り返った。

「ガク!こら、ガクってば!」

 シキの前をくつろげようとする、僕の肩を彼は少し押し返した。

「僕も、やる」

「…って、オイ…」

「僕も、シキに気持ちよくなって欲しいよ。ダメ?」

「ダメ…じゃない…」

 呆然としながら、でもシキは僕のやるにまかせた。

 僕はシキのズボンを脱がせようとした。

 シキの協力によって、下着ごと足から抜き取る。

 もちろんシキのモノは、もう勃ち上がっていて存在を主張しているようだった。

 女の子たちが、欲しくて堪らないだろうものが…ここに在る…。

 僕は愛しさを込めて、それに触れた。

 手のひらを通して、その熱さ、そして脈打つのが伝わってくる。

 なぜ、僕はこんなことをしているのだろう?

 僕はそろそろと、手を動かした。

 その拙い手淫にもシキは感じてくれているようだ。

 シキの先の割れ目からは、トロトロと白い液が溢れ出している。

「ガク。…オレも、したい…一緒に、イこう?」

 シキは僕をベッドの上へ引っ張り上げて、手早く自分のシャツを脱ぎ、僕のシャツを脱がせると、二人向かい合って横になる。

「ちょっと、重いけどゴメンな」

 そう言って、僕の上に上がってきたシキは腰を揺らし、僕の再び力を持ち始めているモノに自分のモノを擦り付けた。

「あっ…」

 頼りない、一瞬の刺激。

 シキは続けて、腰をうごめかした。

 熱く滑らかな感触が敏感なモノから伝わる。

「ふっ…うんん」

 再び、せりあがって来た快感に、僕は意識を奪われてしまった。

 夢中になってしまって、具体的に何があったかは覚えていない。

 ただ、強い快感の印象のみが、あとに残った。

 最後はシキの手で、一緒に擦り上げられて、二人ほとんど同時に弾けた。

 僕とシキはお互い荒い息を吐きながらしばらくじっと向かい合って横たわっていた。

「何で、こんなことしてるんだろ…」

 僕はボーッとして、思わず先ほど脳裏に浮かんだ質問を口にしてしまう。

 あ、バカ。

 口に出してから、今そんなこと言うべきではなかったことに気付く。

 でも、次の瞬間のシキのセリフに僕は救われた。

「そんなの、愛してるからに決まってるじゃん」

 その答えが嬉しくて、僕は本当に幸せそうに笑ってしまったらしい。

 シキに思いっきり抱きしめられ、苦しいと文句を言った僕にシキは言い返した。

「おまえが、そんな顔で笑うのが悪い」

 拗ねた口調に、僕は自分からシキを抱きしめた。

xx END xx

2000.03.02 脱稿





作者あとがき…ならぬ言い訳

いやぁ、いくつもの小説を平行して書くという芸当は、私はよした方がいいようですね(泣)
よくもまぁ、こんなに似た路線で…
神田さま、ごめんなさい〜。
しかし、最後はH頑張ってみました!入れてないけど…(爆!)




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