xx 見えない幸せ xx
「義明さん。体の調子が宜しくないんですから、外出は控えた方が…」 「いえ、大丈夫ですよ。お母さん。車で行きますしね」 母の心配を振り切って、直江は車を出した。 高耶さんとの約束を破るわけにはいかない…。 久しぶりに二人で会うのだ。直江は自分の体の不調など気にしていられなかった。 待ち合わせの場所で高耶を拾い、高耶の希望通り海へ車を走らせる。 細かく降り始めた雨を気にせず、高耶は砂浜に飛び出してゆく。 「元気ですねぇ」 苦笑しながら直江は傘をさすと、高耶の後を追う。 夕暮れ近くの海は、妙な陰影をもって、人を誘っていた。 おいで、おいでをする波に目が吸いつけられる。 「お前、傘なんてさすなよ。気持ちいいぜ。霧雨が肌にあたって」 高耶の声に、直江は現実に引き戻された。 10月の海はもうすでに直江には肌寒かったが、高耶にとってはそうではないらしい。 言われるままに、直江は傘を閉じる。 海なんて…この人の前では、池のようなもの。 すべてを…征服しているようだ…。 吹いてきた風に髪をなびかせ、じっと海と対峙する高耶を直江は見つめ続けた。
直江は、案の定、家に帰ると上がってしまっていた熱に、母親に猛烈に怒られた。 そして、次の日はその母親の見張りの下、一日まるごと布団の中で過ごすことになり、それでもまだ熱のせいで体が思うように動かないまま直江はその翌日を迎えた。 その日、檀家に頼まれ事のあった母は後ろ髪を引かれつつ朝から家を出ていった。 もちろん、父も兄弟も仕事に出ていていない。 一人になった直江は、昨日母親が枕元に飾った花を見やった。 何でも昨日、”新井”と名乗る男から、母が受け取ったらしい。 上がって行ってくれと言ったが、遠慮された、と母は言っていた。 直江の知っている”新井”といえば、”高坂弾上”しかいなかった。 どうして、自分が風邪を引いたことをヤツは知っているのか。 これは、”お前は見張られている”ことを知らせるメッセージなのだろうか。 ボウッとした頭で考えるが、何も確信の持てる答えは出てこない。 お昼頃までウトウトとしていると、ドアのベルが鳴った。 仕方なく、直江は夜着がわりのゆかたの上に羽織りを着て布団から出ると、近くのインターフォンを取る。 「はい?」 「あの…仰木と申しますが…」 「高耶さん!?」 「ああ、直江か。声、かすれてて分からなかった」 「ちょっと待ってくださいね」 直江は慌てて玄関へ向かうと、ドアを開けた。 ドアの向こうには、まぎれもなく仰木高耶、その人が立っていた。 「どうして?」 直江の質問には答えず、高耶は眉をしかめた。 「そのかっこ…やっぱりホントだったんだな」 「何がですか?」 「昨日、高坂が”お前がオレのせいで風邪ひいてる”って、言いに来た」 「何故そんなことを?」 ますます高坂の意図が分からなくなる。 「さぁ?でも、お前が風邪をひいているのは事実なんだな?」 強い調子で言われ、また今の自分の格好も手伝って直江は肯定するしかなかった。 「ま…まぁ…でも、別に高耶さんのせいじゃ…」 「ホントか?…とにかく入れろ。で、寝てろよ。誰もいないのか?」 「はい。母がちょっと今日は用事で出てるんで…」 直江を布団に押し込むと、高耶は枕元で正座をし、頭を下げた。 「とりあえず、悪かったな。オレはお前の調子が悪いのに全然気がつかなかった。海行った日だろ?無茶させたな」 「別にそのせいじゃ、ありませんって。元々風邪ひいてたんですし」 「でも、それで悪化したのは事実だろ?頭ぐらい、下げさせてくれ」 高耶の潔い態度に、直江の悪い虫がうずいた。 「では、今日は私の言うこと、聞いて下さいますか?」 「ああ、そのぐらいしてやるよ」 何の躊躇もなく高耶は頷く。 彼は風邪をひいてもかわらない、直江のズルさに気付いていなかった。 「本当に?」 念を押してくる直江に、怪訝な顔をしながらも、高耶は頷いた。 「何がして欲しいんだ?食事つくってやろうか?オレ、上手いぜ?」 「いえ…あまり食欲は…」 弱った直江を目の当たりにして、高耶は心配げな顔になった。 何と言っても、これは自分の責任なのだ。 「何かして欲しいことがあったら、言えよ」 その言葉を待っていた素振りを出さずに、直江は内心ほくそえんだ。 「…体を拭いて頂けませんか?汗をかいてしまって」 「分かった」 用意をしに、立ち上がった高耶。 高耶さん…あなたは素直すぎる…。 時に、歪んだ欲望を持つ自分を、恥じてしまうほど…。 直江は複雑な感情を込めた目で高耶の背中を見送った。 浴衣の胸元をはだけ、腕を抜いて裸になった直江の上半身を高耶は丁寧に、熱くぬらしたタオルで拭いてゆく。 何度かタオルを洗面器で洗いなおして、拭き終わると高耶は直江に聞く。 「これで、いいか?」 すると、直江はイヤな笑みを浮かべた。 「下半身が…まだなんですが?」 高耶はギョっと目を見開いた。 「オレに…やれと?」 「さすがに、母親も昨日上半身しか拭いてくれませんでしたね」 「自分でやれ」 いくら寝たことのある間柄とはいえ、そんな恥ずかしい願いは高耶には受け入れがたかった。 「高耶さん」 口の端を直江はクッと持ち上げた。 高耶は精一杯の虚勢を張って、睨みつける。 「俺の言うこと、聞くって…言いましたよね?」 「……!…それはっ…」 「こんなこと、言われると思わなかったから?でも、そんな言い訳は通用しませんよ。男が…いや、あなたが言を違えるわけですか…?」 そこへ、話を持ってこられると、高耶は弱かった。 そして、それを直江は知っていた。 プライドの高い高耶さん…どうします? 「言ったことは守る。自分で脱いで横になれよ。そのくらいは自分で出来るだろう?」 精一杯自分のペースを守ろうとしている高耶の努力が見て取れて、直江は笑みを深くした。 高耶は直江に背を向けた。シーンとした和室に、わずかな衣擦れの音が響く。 「脱ぎましたよ?」 高耶が覚悟を決めて後ろを振り返ると、直江はうつ伏せになり、布団に横たわっていた。 高耶は足を、そして、引き締まった男のお尻を拭いてゆく。 「気持ちイイですよ。高耶さん」 高耶は聞こえないフリをして作業を続けた。 「出来たぞ」 その声に答え、反転する直江の体を、泣きそうな顔で高耶は見た。 「おまえっ…恥ずかしくないのかよ?」 「ありませんねぇ。女の方たちは俺の体を見て、皆口々に言いましたよ。”キレイだ” ”ウットリする” ”見てるだけでイッっちゃいそう”…挙句の果てには”この大きいのを今すぐちょうだい!”」 「やめろっ。聞きたくねぇ」 「おや、そうですか。でも高耶さんも、好きなだけ見て下さい。感想を頂けると、嬉しいんですが」 「自分の言葉でコーフンしてんじゃねーよ。この万年勃起症が!」 直江のモノは既に意思を持つかのように、天を突いていた。 「あ…そんなことを言いますか?自分のことを棚に上げて」 「!!」 「あなたはもう感じている。もう…ビンビンだ。そうでしょう?」 「ちがっ…」 「では、証拠を見せて下さい。脱いで、見せて。高耶さん。今日はあなたは俺に逆らえない」 ゆっくりすることが、唯一の抵抗であるかのように、高耶はノロノロとズボンのベルトに手をやった。 ジーンズを足から抜く高耶を、直江は舐めるような目で見ている。 痛いほど強く自分に突き刺さる視線を感じ、高耶は下着に掛けた手を止めた。 「何をしてるんですか?高耶さん。それでは”証拠”が見えない…」 「オレはっ…お前ほど自分の体に自身を持ってねーんだよっ、このナルシストが!」 言いながら、高耶は思いきって一気に下着を脱ぎ捨てた。 半分勃ち上がったモノが直江の目にさらされる。 「どうして?高耶さん。こんなにキレイなのに」 「見んなっ…」 直江は体を横たえたままで、高耶の素足にすがりつく。 …俺に…似合いの格好かもしれない…。 直江は高耶に気付かれないよう、自嘲の笑みをもらす。 「座って下さい」 触れてきた直江の体の熱さに今更ながら驚きながら、言われるままに高耶は直江の枕元にひざまづいた。 「勃ってますね、高耶さんの。俺の言葉に…カンジましたか?」 ただ高耶は直江を睨みつける。 「高耶さん、今日は…食欲はないんですが、性欲はあるんですよ。…でも、残念ながらいつものようには抱いてあげられないですから…見せて下さい」 「…何をだ」 聞きたくなさそうに、高耶は聞いた。 「高耶さんの、ヤッてる所」 「できな…」 言いかけた高耶の言葉を直江が途中で継いだ。 「…くないでしょう?何ですか?あなたはオナニーの仕方も知らない?では、教えてあげましょうか?ほら、まず自分のお○んちんを持って」 言われるまま動いた方が、自分のやり方を見られるよりは恥ずかしくないような気がした。 高耶はそろそろと右手を自分のモノに這わせる。 「そう。握って、擦って。もっと早く。ほら、ますます勃ち上がってきたでしょう?気持ちいいんですね。左手では下のタマをころがして…そう、うまいですよ。ああ…もう白い液が先から漏れてきた。手でおちん○ん全体に伸ばして。濡れた手を…そう、わかってるじゃないですか…後ろに入れるんです」 腰を前に突き出し、後ろに指を入れるのに高耶は必死になる。 風邪をひいているとはいえ、ここまでさせておいて直江が最終的に入れてこないワケがなかった。 その時の苦痛を少しでも減らすためには…。 高耶は潜った左手の中指に、人差し指を添えてゆく。 痛みを散らすために右手は懸命に前を扱いていた。 「高耶さん」 呼ばれて、高耶は涙の滲んだ目をそちらへやる。 直江が高耶の姿をじっと見つめながら、自分のモノを扱いていた。 「今日は…俺も、そう何回も…というワケにはいきません」 息を乱しながら直江は告げる。 「どうせ…イクならっ…あなたの中で…イキたい…」 いつになく乱れた様子の直江を、高耶は哀れに感じ、自発的に動いた。 直江の体を跨ぎ、膝をつく。 そして、直江の熱いモノに手を添え、それの上へ腰を下ろしてゆく。 「そんな…哀れむような目で…見ないで」 いくら、直江自身の先走りの液で濡れているとはいえ、それは大きかった。 高耶は直江の先の部分を少し自分の中に向かえ込むだけで、痛みに耐えられず、いったん腰を引く。 しかし、直江を凝視するのを止めようとはしない。 「”同情”してやるよ。直江」 途端、直江は下から腰を突き上げた。 「あぁぁぁぁ―!!」 高耶が高い声を上げる。 「ふふふ。全部入りましたよ。臆病なあなたに任せていては、いつまでたっても終われない」 直江の腰の動きに、高耶の体は揺さぶられた。内襞が直江のモノで擦られる感覚に、背筋がゾクゾクする。 「おっ…く病な…のは…お…前だっ!」 直江の激しい突き上げをくらいながらも高耶は直江を追い込む言葉を止めようとはしない。 「あなたは!…あなたは、どこまで俺をっ!!」 直江は体位を正常位に変えると、より激しく出し入れを始めた。 「あっ…はぅっ…直江!痛いっ…」 高耶の必死な声に、直江はやっとのことで我にかえった。 「すいません…おや、あなたのカワイイモノが小さくなってますね。元気にしてあげましょう。ほら、少し俺が揉んであげただけで。どうしてでしょうねぇ、揉みほぐしているのに…逆にどんどん硬くなっていきますよ?」 前からも後ろからも激しく攻めたてられ、高耶は快楽に溺れた。 「う…あぁ…もう、出る…」 「何が?」 聞きながら、直江は前を触っていた手を止めてしまった。 「あ…なお、え…」 「何が出るんですか?言わなきゃ触ってあげませんよ」 「いや…だ」 きつく目を閉じ、高耶は首を振る。 「言って。高耶さん。何が出るの?おしっこ?」 大人の男の口から漏れる卑猥な言葉はますます高耶を煽った。 けれど、どうしても言うことはできなくて…高耶は自分で自分のモノに手を伸ばす。 「ダメな人…」 その手を途中で掴み、阻止しておいて高耶の顔を覗き込む。 「…さ…触ってくれ。イキたい!!」 涙を流し、高耶は哀願した。 「まぁ…許してあげましょう」 根元から、激しく擦り上げられ、高耶の体は歓喜に震えた。 先端から、白い液を吹き上げる。 ドピュッ、ドピュッと断続的に精液が飛び散った。 一足早く達した高耶を見て、直江は腰を大きくまわした。 「くっ…」 食い縛った歯の間から声をもらし、思いのたけを高耶の体の中へ注ぎ込む。 そして、そのまま高耶の上へ崩れ落ちた。 「おい…」 しばらくして、高耶が声をかけても直江は動かなかった。 仕方なく高耶は自分の中から萎えた直江を引き出した。 「バカ…ヤロ…」 あまりにも情けない直江に、高耶は怒る気も失せてしまう。 「お前なぁ…早く風邪治せよ。調子狂っちまうぜ。まぁ…弱ってるお前を煽るオレもオレだが」 高耶の胸に顔を伏せている直江。 高耶は額に汗ではり付いた髪をかきあげてやる。 「熱いな。また熱上がったか?そんなにしんどいならヤんなよな」 直江の下から抜け出し、高耶は洗面器の中にあったタオルで直江の体を拭いてやる。 今度こそ、表の下半身まで。 しかし直江は意識を飛ばしていたため、その幸せを知ることはなかったのだ。
―オマケ― 「おい、手下1よ。こいつら、ホモやってんぞ。いや〜、あの景虎殿がねぇ…」 とある屋敷の中。高坂弾上はカラスに向かって話しかけていた。 「おまえの偵察のおかげで、直江が弱っているのを知って、あいつらがどんな会話をするのか花につけた盗聴機で聞こうと思ったら…」 「直江、お前エロすぎだ…よし、この録音したテープを景虎に聞かせてやるってのはどうだ?」 カーカー、とカラスは同意の声を上げた。 「ははは。面白くなりそうだ」
xx END xx 2000.02.07 脱稿 2000.02.16 改稿 作者あとがき…ならぬ言い訳 何で私って、こうグロいHしか書けないかな〜(泣) |