xx そういう関係2 xx   ― 交わる関係 ― 6

 

 免許を取って、そんなに経っていないであろう浩二の運転中に声をかけていいか分からず、僕はしばらく助手席で黙って前を見ていた。

 しかし、それがいらぬ心配だったことは、すぐに判明した。。

 余裕な様子で、浩二はハンドルを操っている。

「うまいね」

 思わず褒めると、浩二がふふんと鼻を鳴らす。

 笑いながら、僕は今言うか、言うまいか、迷っていた。

 浩二を試すような真似をしてしまったことを…謝らなければ…。

 思うが、言うのは勇気がいった。

 せっかく浩二とうまくいくかもしれない、という時に…。

 僕はアメリカに行くことで、浩二の誠実さを試した。

 自分が試されたことを知ったら、浩二は怒るかもしれなかった。

 プライドが高い浩二のことだ。

 そんな、人にそれと知らず踊らされるようなマネ、普通では許すはずがなかった。

 でも、これしかなかったから…分かって欲しい。

 僕も変なところで意固地なので、いつまでも言わずに浩二と付き合うことはできなかった。

 どうせ言うなら、今…。

 僕は最悪、機嫌を悪くするくらいであってくれ!と祈りながら、口を開く。

「浩二」

「……ん?」

「謝らなきゃならないことが…」

 ちょうど、軽い渋滞に巻き込まれトロトロと車を進めていた浩二が前の車に合わせてストップする。

 浩二は僕のほうに顔を向けたが、僕は前を向いたまま言葉を進めた。

「僕は…浩二を、試した。何も言わずに、アメリカに行って…浩二が本当に女の子たちより僕を選んだのか…僕を…思ってくれているのか…試した」

「………」

 浩二の反応が気になって、僕は浩二のほうを向いた。

 浩二は無表情で、何を考えているのか、読めない。

 僕は目をきつく閉じた。

「なぐっても、いいよ。でも…お願いだから、軽蔑しないで…嫌わないで…」

「…それで、お前が俺を信じられたんなら、いい」

 穏やかな浩二の声に、僕が恐る恐る目を開くと、そこには驚くほど優しい浩二の顔があった。

「でも、僕の気がすまないよ…。後で一発殴って」

 また少し進んだ前に併せて、浩二も車を少し前進させる。

 そして、僕の方へ腕を伸ばした。

 僕はパッと目を瞑る。

 …予想した衝撃は来ず、少し間を置いてパチと軽く僕の頬が鳴った。

「バカ。俺がお前を殴れるハズがない…こんなに大事なのに」

 !!!

「…………うぅ…」

「泣くなよ…織。これで泣かれると、今までの俺がどんなにお前に酷いことをしてきたか…思い知らされる…」

「うぅ…ふ…ご、ごめん……」

 謝りながらも、僕は涙を止めることが出来なかった。

 こんなに、自分が洗われるような涙は知らない。

 今までの心の苦労が、すべて濾しとられてゆくようだ。

「織…織…悪かったな?今まで、辛い思いさせて、ごめん」

 そんなこと言われると、余計涙が出ちゃうじゃないか!

 思いながら、僕は必死で涙を拭った…。

 

 家に着くと、浩二は僕の前を歩いて奥の寝室へ向かう。

 アメリカに発つ前ここへ来たときはダイニングで話していたので、寝室は本当に久しぶりだった。

 僕が出て行ったときのまま何も変わっていないように見えた。

 僕が使っていたベッドもきちんとベッドメイクされていて、シーツも新しい。

 僕の視線の先をよんで、浩二が苦笑した。

「お前が…俺を放って行くのが、悪い」

「…?」

「お前のベッドで、何度も寝たよ」

「誰が?」

「俺が。で、何度も一人でイッた」

 瞬間、理解して赤くなった僕に、浩二はニヤッと笑った。

 でも、すぐに真顔に戻ると、僕の顔を両手で包み込んだ。

「マジ。お前を…抱きたかった…」

 僕たちはおでこをくっつけ合って、瞳を合わせた。

 そのまま、唇に口付けられる。

 浩二の舌が、僕の唇を舐めて…ちょっと開いた隙間から口内に侵入する。

 甘いお互いの唾液が混ざり合う。

 キスを交し合いながら、僕たちはベッドに倒れこんだ。

 浩二の手が、僕の衣服を剥ぎ取ってゆく。

 あらわになった胸元に、浩二が唇を這わせる。

「ね、浩二。キタナイ…僕、旅行帰りだし…」

「シャワー浴びるのなんて、待てない。それに、汚くなんかねーよ」

 それだけ言って、浩二は胸の突起に吸い付いた。

「んんっ…」

 背中に痺れが走る。

 身をよじらせる僕を体で押さえ込んで、浩二はなおも同じ所に口付け続ける。

「や!…や…ん」

「や、じゃないだろ?…ん?」

「ううう…」

 快感が強すぎて、瞳に涙が滲んでくる。

「織…織…かわいいv」

 親指で、僕の涙を拭った浩二は、やっと唇を右胸の突起から動かしてくれた。

 次は、体中を端から辿ってゆく。

 僕の体が跳ね上がる所々で浩二は唇を止め、僕の肌を歯を立てないように食む。

「んうー。あ、あ…」

「いい声…激カンジる…」

 上からどんどん下まで行った唇は、僕のズボンで邪魔されるところで止まった。

 浩二はさっさと自分の服を脱ぎ捨てると、くったりとなった僕の体を浮かしながら、下着ごと僕のズボンを取り去った。

 プルンと飛び出た僕のソレは恥ずかしく濡れている。

 羞恥にいたたまれなくなって、身を反転させようとした僕を止めて、浩二は言った。

「恥ずかしがらなくていい。もう、俺もカンジすぎ…」

 浩二に腰を擦り付けられる。

 お互いの立ち上がったものが擦れあって、その親密な感覚に僕は眩暈がした。

 浩二が…変わった…。

 僕はそのことを、身をもって知らされた。

 もし、アメリカに行く前に浩二に抱かれていたら、留学なんてしなくても浩二を信じてしまっていたかもしれない。

 それほど、浩二の愛撫は優しくて…。

 僕の後ろに入れた指を、浩二はゆっくりと動かしている。

 1本から始まって、いまは3本…。

 そこまで増やすのに、長い時間をかけてくれて…。

「浩二…もうっ…辛い…だろっ?いいよ…イレて…」

「本当に…大丈夫か?お前を壊したくない…」

 もう、浩二のモノは痛いほど張りつめているだろうに、僕の心配をしてくれる。

「大…丈夫だよ。僕がっ…少々のことでは壊れないことは…知ってるだろ?」

「ごめん。ごめん…織。どうして、俺はあんなひどい抱き方ができたんだろ…」

 思わぬところで浩二の罪悪感を刺激してしまったらしい。

「違っ…責めてるんっ…じゃ、ないよ。あの時は…あん…あれで、良かったんだ。僕は、浩二に抱いてもらえて…嬉しかった」

 浩二が、いままで見たことのないほど優しい顔を近づけてきて、僕の唇を奪った。

 そして、指を抜いたところに自身をあてがう。

 僕の中いっぱいに浩二がおさまってゆく…。

 言いようのない、充足感。

 幸せに…僕はいっぱいいっぱい涙した。

 

 

 …いいニオイがする…?

 僕は鼻をフンフンとさせながら、目を覚ました。

 …ここは?

 見慣れた天井が目に入る。

 昨日の出来事が、どんどんと思い出されてくる。

 ………浩二!?

 近くにあったはずの人肌がなくて、僕は飛び起きた。

 昨日あったことは…幻?

 すがる思いで、浩二が“いた”証拠を探す。

 それは…探すまでもなく、見つかった。

 体が、少し痛む。

 そして、ベッドに残る浩二のニオイ…。

 じゃ、浩二はどこ?

 僕はベッドから降り、シーツを腰に巻きつけて引きずりながら寝室のドアに向かう。

「浩二?」

 恐る恐るドアを開けて、呼ぶとキッチンに立っていた浩二が皿を両手に持ったまま僕を振り返った。

「よぉ、織。ちょうど良かった。飯に呼ぼうと思ってた所だ」

「…え?…って、朝食?浩二が?」

 一緒に暮らしていた頃、すべての食事は僕が作っていた。

 浩二は料理の初歩も知らなかったハズだ。

 別人のような浩二がテーブルにおかずを並べていくのを僕はボーゼンと眺めていた。

「ほら、織。とりあえず、これでも着とけ。またすぐに脱がしてやるけどな」

「…バカ」

 つぶやきながら、差し出されたローブを纏う。

 ゆっくりと食卓についた僕に、浩二は照れたように笑った。

「俺が、料理するとは思わなかった?」

 僕は黙って、肯く。

「そうだな。1年前は、何もできなかった。…お前が、何も言わずにアメリカ行って、無茶苦茶荒れて…でも、お前をあきらめきれないって分かってたから…決めた。イイ男になって、もう一度お前に惚れさせようって」

「もともと十分、イイ男だったよ」

「でも、あのままの俺では、お前に戻ってきてもらえない、と思った。だからできることから頑張った。車の免許とって、料理、本見ながら作るようにして、大学の勉強ちゃんとやって…」

「…バカ…どうするの?あれ以上にイイ男になっちゃって…僕は…」

 僕の頬に当てられた浩二の手は、玉ねぎの匂いがした。

 何もかもが、愛しい。

「……もう、俺から離れるな」

 命令口調は昔のままの浩二は、新たに魅力を加えて数段パワーアップしていて…望まれても離れてやるものか、と思った。

 

 



xx END xx

2000.04.05 脱稿





作者あとがき…ならぬ言い訳

うおー、終わった!長かった!
最後のほうは、自分の文章が嫌いで嫌いで…。
でも、終わってしまったら愛しい作品v
まただいぶたってから、改稿させて頂きます。
こんなんですが、MARUKOさまへ、愛を込めて(笑)




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