xx 友情≧愛 xx

 

 付き合っている人がいる。

 その人の名前は朝倉英一。

 繊細な外見、そして無口な彼。

 私には彼が何を考えているのか解らない。

 もっとも、それがいいのかもしれない。

 思考の読める単純な人間とは付き合っていても面白味を感じないから。

 それが原因でいろんな人と付き合い出してはすぐに別れた。

 そんな私が英一とは半年も続いている。

 相手の心が解らずに、ほんのちょっと相手に脅えながら付き合うその快感。

 それを、味わわせてくれる英一が愛しい。

 人間の心とは厄介なもので解ってしまえば興味を失ってしまうのが分かっていて、 解ろうとする。

 英一の心が知りたい。でも知りたくない。

 アンビバレンスを抱えた私の心。

 天秤がほんの少し”知りたい”に傾いたとき、それは起こった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 英一はいつもあまり多くを語らない。

 しかし、私の話しを聞いていないわけではないらしい。

 たまに返してくる返答は驚くほど的確だ。

 英一の助言で救われたことは何度もあるし、返事が少なくても英一との会話は 私にとって刺激的で退屈したことは一度もない。

 私が彼に「付き合ってください」と言ったとき、彼はしばらくの沈黙の後、 「いいよ」とだけ答えた。

 その間のとりかたは絶妙で、いいかげんに軽く返事しているようにも、いやいや OKしているようにも聞こえなかった。

 たまに話しの流れから「私が好き?」「私を愛してる?」と聞くことがある。

 そんな時、英一はちょっと笑って「好きだよ」と答える。

 たまらなく嬉しい。

 けれど、不安になる。

 英一には親友(?)がいる。

 西寺優人という。

 何というか、色気のある人でイイ男(私なりの男への最高のホメ言葉)だ。

 なぜだか、つい先日まで死にそうな顔をしていた。

 なにも私には言わなかったけれど、英一は理由を知っているらしかった。

 西寺に生気が戻ったのは、あの日。

 英一が彼を保健室に連れていってからだ。

 何があったのかは知らない。

 けれどあれから彼らの間の空気が親密になったような気がする。

 ちょっとムカツク。

 男相手に嫉妬しているらしい。

 だから、ある日英一に聞いた。

「ね、英一。よくある問いだけどさ、崖から私と西寺君が落ちかけてます。片手で 崖に引っ掛かってる状態ね。で、一人しか助けられません。どっちを助けますか?」

 英一は額にかかった髪をかき上げながら苦笑した。

 その仕草にいまさらながら、ホレ直す。

 私って、バカみたい・・・。

「おまえ・・・それシチュエーション設定して聞いてる意味ないんじゃ・・・。 結局おまえと優人のどっちが大切か?と聞きたいんだろ?」

 私は本物のバカらしい・・・。

「・・・そう。答えて」

 開き直って英一に答えを迫る。

 英一は何と答えるのだろうか。純粋に英一の答えが知りたくなる。

 しばらく英一はじっと床を見つめていたが、やがて決心したように伏せていた視線を上げた。

「・・ゆ・・・」

 英一の口から声が漏れた途端、背後から彼の首に腕がまわる。

「英一があんたの方に腕を伸ばす前に、生命力旺盛な俺が空いた手を伸ばしてこいつの腕、取っちゃうからさ、英一に選択権ナシね」

 西寺優人・・・。

 いつから聞いていたのだろうか、いつの間にか英一の後ろに現れた優人が ニヤニヤ笑いながら英一の肩に顎をのせている。

 スキンシップ過多だっつーの。

「ええーい!西寺優人!英一から離れろー」

「嫌だね。おまえ知らないの?こいつ抱き心地良くてさー、もう離れらんね」

「そのくらい知ってるわよ!!」

 問題発言連発の二人に英一の顔が強ばる。

 そして・・・。

「二人で死ね。俺はどっちも助けない」

 英一は背後から抱きつく優人に肘鉄を食らわせ、去っていった。

 腹部をさすりながら優人が笑う。

「あーあ。まぁ、安心しなね。俺あいつをあんたから取る気、ないし」

「何言ってるの。英一は私のものじゃないわ」

 英一はあの時、”優人”と答えようとしていた。

 それを、優人がさえぎったのだ。

「ほんと、イイ男ね。あなた」

 思わぬことを言われ、優人は言葉につまったらしい。右手で口元を覆っている。

「私も何だかんだといいながら、その辺の女の子達みたいに英一を独占したく なったのね。英一と俗な付き合いをする気はないわ。これから彼とはもっと違った 関係を築くことにする」

 私より優人が大事な英一。それを私の前で言おうとした残酷な英一。

 でも大好きだわ。

「・・・あんたも、イイ女だぜ」

「それはどーも」

 優人の言葉に強い口調で返す。ちょっと感謝の念を込めつつ・・・。

 でーも、女の恨みってコワイのよー。

 あなた達ネタに、ホモ小説書いてやるからね!?

xx END xx

1998 脱稿




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