シリーズ 京町家幻想曲/京町家を詠む 京都幻想/二十四節気を詠む 京都大路小路/通り名を詠む |
シリーズ〜京町家幻想曲/京町家を詠む〜 京町家またひとつ消え京都からKYOTOへ變はる春は曙? 格子より洩るる月影やはらかき乳房をふくみ眠る嬰兒(みどりご) 見あぐれば厨子(つし)の二階のむしこ窗(まど)幼きころのわれと眼があふ きつかけは匂天神夢のなか町家暮らしを鐘馗が誘ふ 京町家千客招く一文字瓦(いちもんじ)「入(にゅう)」「入」「入」と連なりてをり 冬ざれに紅殻格子いろあせて壱千年の人のゆきかひ とまどひの夜半(よは)しんしんと雪降りて卯建の上にほら月うさぎ 大屋根のむくりすがしき月の香を詩人の髪にかぎあて睦月 來世にも遇はざるものら大寒の忍びかへしに裂くる月影 使ひ捨ての家建ちならぶこの街に瓦斯燈ともす町家一軒 ありのままのありやうにして無二膏の屋根看板に停まる鳩をり 無用の用に氣づきゐて煙出しよりネズミとイタチ いつか來たやうな氣のする舞良戸の眞闇のやみに胎内回帰 清明の風にあらがふ藍のれん日本知らなば日本人とぞ ぐらぐらの町家がいいと謂ふ君に簾をとほる風をおくらう 天窓に宿るものなき無月なり誰からみてもおかしい日本 やはらかき時の流れに敷かれたる京間畳の上にて眠れ ふさがるる大和天井その日から“やまと”なるもの語る人なし 群雲に望月速し 障子には影絵のきつね見え隠れする 夕ぐれの店の間黙(もだ)す堕天使の涙のごとき光あふるる だいどこに醤油差しのみ置かれたる丸き卓袱台キイキイ軋む 草深き夏の離宮に風果てて木置に眠り続くる葦戸 あかときの火袋いのち生まるるを待つ父親の丸き両肩 零(ぜろ)歳のふかきためいき仲秋に浮きあがる銀(しろがね)の坪庭 50年のちの京都の薄暗き蔵の中にはまたくらがある さかさまにひそむ真実この世にて京間暮らしを知らざる人ら 秋風にゆだねしはずの片戀は箱階段のはこの片隅 寒月の照らす最中(もなか)におくどさん誰も知らない誰も使えぬ 晩秋に腰をかがめて厨子二階もみぢが照らす旧き言の葉 新しき町家は建たず寒き夜の無月をひとつ石にみたてて 指きりのゆびのゆくへを知らざるや漆黒の漆喰の壁、壁 |
シリーズ〜京都幻想/二十四節気を詠む〜 小寒の大屋根青く濡れてをり泣くためだけに泣けぬものらへ 筋違(すぢかひ)はすぢちがひにて大寒のおほゆれにゆれ続くる町家 春立つ日柱に貼りし鉄人のシールのやうな京都、京都 傾いた柱も愛しさのひとつ町家童子は雨水に踊る 啓蟄にアスファルト裂け坪庭の土とおんなじにほひがしたわ 春分に石に惹かるるこころもて瓦の波を探し続けり 清明の夜(よる)はけだるし ミセの間の世界地図からアメリカを消す 雨粒(あまつぶ)を通して視ゆる京町家穀雨の夜に聴くセレナーデ 夕ぐれの立夏の走りめざめつつ夢みるやうに猫ぞみつむる 百年の緑さやけし小満にむしこ窓より子猫七匹 職と住わかつことなく暮らしをり千年さきの芒種のために 薬石の効無き日本夏至の日に京間四畳半の家系図 京町家選挙事務所に使はれて小暑の小雨瓦に消ゆる 棕櫚(シュロ)まねく大暑風なき昼さがり坪庭に伸びつづくる影 辻ごとの地蔵色花そのいろにこころをうつす立秋の朝 壊されし町家の数とひとしきやなまぬるき処暑雨にうたれて 京町家白露したたる漆喰に見覚えのなき落書きのあと 秋分の竹群ささらささら梁われ父となりやがて祖父にも 坪庭の八手はらはら言霊のひとつひとつを寒露に包む 見渡せば土も緑も・・・霜降の風の間(あはひ)にたつ京町家 冬立つ日ビル立ちならぶ限りなき月の鏡に眼(まなこ)つむる魚(うお) 五十年前と後(のち)との京都地圖(ず)竝(なら)べ涙す小雪の夜(よる) 大雪に冴ゆ京町家窓際に逆さの十二月十二日 冬至る二階の窓の内障子仕舞ひ忘れの簾もゆらに |
シリーズ〜京都大路小路/通り名をを詠む〜 官名の下ノ森など 新春の相合図子に人は行き交ふ とこしへに藍の暖簾はゆるるらむわが埋もれ木の下立売通に このみちの果ては釈迦堂まなうらに七つ分れの松はありしが われ想はぬゆゑにわれある如月の梅ふりつむる御前通 千本の玻璃(はり)窓ごしにうつせみの人透きとほる夕べつかのま 鬼の面かしらに載せて老犬は中立売を西へ一条 春風(はるかぜ)に風穴があき かさかさの美福通りに死者へのメイル 天使舞ふ川にありけむ今出川 定家の月を映さざりしか やるせなきいづみと呼びし道をゆく月をはぐくむ清水(しみづ)なりしや 戻橋もどるものあり一条の光かすかにけものの臭ひ |