京町家幻想曲
二〇世紀そら昏れかかり京町家明治大正昭和平成

鴎外かはた漱石か如月にむしこ
より愁ふる眼
                   (まど)

犬矢來過ぐる風なき梅月におもてゆくもの皆狂ふべし

かにかくに思ひ明かせりあかがねの水盤にたつ黄水仙見ゆ

坪庭の雲はしり去りすきとほる水鏡には貌がうつらず
                         (かほ)

錆いろに壁は移ろひしろがねの瞳の駿馬にはかに出でぬ

肌寒き夜ふけちかくに見上げたり乳房に飾る牡丹唐草

夕ぐれに柔らかき燈を見つめをり太古のこころ身にかえるまで

梁、柱朽ちはてゆかむ如月に櫺子の先に見ゆるものなし

縁側の軋む音ひくく
中ぞらにしんしんと照る月をふるはす
       (ね)


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