月 讀 紀 (つく よみ き) |
|
ためらひの疵のかさぶた思ふ夜はなべて水面に月は映らず (きず) (よ) (みなも) 安 河流れ流れて葦舟のゆくへはてなき常世常闇 (やすのかは) 遙けくもいさちる聲は離れずや高天原を千代に八千代に (たかまのはら) 流れ來て黄泉國にて神となり水蛭子は母を想ひ哭きをり (よみのくに) (ひ る こ) 火之神は水蛭子の念ひめらめらと陰燒くほどの母へのおもひ (おも) (ほと) 素戔鳴の妣への想ひ張り裂けて天照神と「あなにやし、あな・・・」 (すさのを) (はは) (あまてるかみ) 素戔鳴と天照神のかんばせはつゆぞ見分くることあたはざる 母と妣おもひひとしき素戔鳴と水蛭子の魂はゆらにもゆらに しののめに天の眞名井は凍てつきて霰た走る天の浮橋 (あめ)(ま な い) (あめ) 素戔鳴の胸分け行かむ天の雲兄矢の火の粉が雲の秀に落つ (せ や) 魔羅を吸ふ音に目覺めつ磐戸より天照神のかみの額髮 (ま ら) (あまてるかみ) (ぬかがみ) ひさかたの天照神の夢の夢あらうはずなき「月讀忌」など (つくよみ) 月讀がその膕 を 物實に生みし神との永きまぐはひ (ひかがみ) (ものざね) 咎として滿ちては決缺くる月讀をあはれとばかり咲くや木の花 青山 の 鵺鳴きやまず汝が右のみづらの珠がふたつ爆ぜたり (せいざん)(ぬえ) 心戀の天照神はひそやかに今宵鏡に無月を映す (うらごひ) 下戀を癒さむとして勾玉のそびらに舌を這はせつづけつ 天照の白き腕、 背など若月の形の紅きあざあり (ただむき) (そびら) (みかづき) 臘梅の融けて背へと落つるとき素戔鳴の眼の翳消えたり (せな) 月讀を背から抱く素戔鳴の鬚は八拳の黄泉がなるかみ (せな) (いだ) (やつか) 成り成りて成り餘る身ふたつあり觸れ合ふほどに募るせつなさ 素戔鳴の胸裡紅き居待月そゑに月日は昼夜を沸け頒つ (むなうら) 日も月も隠れて久し文月に數多は率寢ずただひと夜のみ (ゐ) 素戔鳴を憑代として荒らかに水蛭子の御靈現はれにけり (よりしろ) この戀はわれならなくに望月に照りはゆる美酒「月下乃雫」 (げつか の しづく) 日も月もともに出でたる中國 國土搖らせ月讀黄泉へ (なかつくに) (くにつち) さへづりを忘れむ雉子翻る水蛭子の眉閧ノ一太刀あびせ (きぎす) 雲閧謔闢の御柱の降り來たり黄泉比良坂貫き通し (ひ) (みはしら) (よもつひ ら さか) 「月讀よ、とりわき誰をたらちねの母の命や思ひたまひし」 (みこと) 冬紅葉消えなば消えね月讀の月の形を御心と知れ (みこころ) |
|