外国人住民基本法(案)

前 文

 今日の国際社会は、地球と人類の存亡に関わる重要な課題に直面している。世界の各地に発生する民族的・宗教的紛争、貧困と飢餓などは、国際社会の平和と安定の維持、ならびに人道の確立を危うくし、人びとの移動を余儀なくさせている。そのため日本社会においても、就学、就業などを目的とする人びとの国境を越えた移動が急増し、外国人住民の定住化が進行している。このような国際化の潮流は、日本社会を、国籍、民族、文化および宗教的に多様な社会へと急変きせている。
 そして国際化に伴う日本社会の変化は、日本政府と人びとの考えと行動を、歴史的に支配してきた「単一民族国家観」から多民族社会観へと、その価値観を転換し、外国人の人権と民族的・文化的独自性を尊重して共生することを強く求めている。そのため、外国人を治安管理の対象とした外国人登録法、出入国管理及び難民認定法は、その法目的を含めた根本的な変革を迫られている。また、日本の植民地政策および戦争責任に対する歴史認識が正され、それに基づき、旧植民地出身者への戦後補償および人権の確立が強く求められている。
 国際社会は、世界人権宣言、国際人権規約、難民条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約および移住労働者権利条約と、外国人権利宣言ならびにマイノリティ権利宣言など、外国人およびマイノリティの権利保障に関する共通基準を採択し、世界各国が国内的に受容し実施することを求め続けている。
 日本社会が外国人と日本人の共生と真の国際化を達成し、新しい時代を迎えるためには外国人の人権と民族的・文化的独自性、そして地域社会の住民としての地位と権利を包括的に保障する法律の制定が不可欠であると認識し、「外国人住民基本法」を制定する。

第一部 一般的規定 

第1条(目的と定義)
1. この法律は、外国人住民の人権と基本的自由および民族的・文化的独自性を保障し、外国人住民と日本人住民が共生する社会の構築に資することを目的とする。 
2. この法律の適用において「外国人住民」とは、在留資格、滞在期限その他在留に伴う条件の如何に関係なく、日本国籍を保持することなく、日本国内に在住する者をいう。
第2条(権利享有と保護の平等〉
1. すべて外国人住民は、その国籍、人種、皮膚の色、性、民族的および種族的出身、ならびに門地、宗教その他の地位によるいかなる差別も受けることなしに、日本国憲法、国際人権法およげこの法律が認める人権と基本的自由を享有する権利を有する。
2. すべて外国人住民は、いかなる差別もなしに、この法律による保護を平等に受ける権利を有する。
第3桑(囲および地方公共団体の義務)
1. 国および地方公共団体は、この法律が認める権利をすべての外国人住民に保障するために、立法、行政および司法、財政その他必要な措置をとらなければならない。
2. 国および地方公共団体は、人種主義、外国人排斥主義、および人種的・民族的憎悪に基づく差別と暴力ならびにその扇動を禁止し抑止しなければならない。
3. 国および地方公共団体は、すべての外国人住民に、この法律が認める権利の侵害および差別的行為に村し、裁判所その他の国家機関によって効果的な保護および救済措置を受ける権利を保障しなければならない。

第二部 出入国および滞在・居住に関する権利

第4条(滞在・居住権の保障)
1. すべて外国人住民は、法律が定める正当な理由および適正な手続きによることなく、その滞在・居住する権利を制限もしくは剥奪されない。
2.すべて外国人住民は、何時でも自由に出国し、その滞在期限内に再入国する権利を有する。
3. 外国人住民で、旅券を所持できない者は、日本国外の旅行に必要な証明書の交付を受ける権利を有する。
第5条(永住資格) 
1.永住資格を有する外国人住民の子孫は、申請により永住資格が付与される。
2.外国人住民の子として日本国内において出生した者は、申請により永住資格が付与される。
3. 日本国籍者または永住資格を有する外国人の配偶者で、3年以上居住している外国人住民は、申請により永住資格が付与される。
4.外国人住民で引き続き5年以上居住している者は、申請により永住資格が付与される。
第6条(恣意的追放の禁止) 
1. すべての外国人住民は、法律が定める正当な理由および適正な手続きに基づく決定によることなく日本国外に追放されない。
2. 追放決定の当該外国人住民は、自己の追放に反対する理由を提示し、当該事案の再審査を受ける機会と裁判所の決定を求める権利を有する。
3.永住資格を有する外国人住民は、いかなる理由によっても追放されることがない。
第7条(家族の再会と家庭の形成)
すべて外国人住民は、日本においてその家族構成員と再会し、家庭を形成し維持する権利を有する。

第三部 基本的自由と市民的権利および社会権

第8条(基本的自由・市民的権利) 
 すべて外国人住民は、日本国憲法および国際人権法が保障する基本的自由と市民的権利、とくに次の自由と権利を享有する。
a.非人道的な、または品位を傷つける取り扱いを受けない権利、および生命、身体の自由と安全についての権利。
b.日本国の領域内において自由に移動し居住する権利、ならびに日本国を自由に離れ、かつ戻る権利。 
c.刑事上の罪および民事上の権利と義務の争いに関する決定のため、公平な裁判所による公正な裁判を受ける権利、とくに自己の理解する言語によって裁判を受ける権利。
d.私生活、家族、住居もしくは通信に対して恣意的ににもしくは不法に干渉されない権利。
e.思想、良心の自由についての権利。 
f.宗教の自由、とくに習俗によってこの自由が侵されない権利。
g.意見を持ち自由に表現する権利。
h.平和的に集会し、結社する権利。
i.直接に、または自由に選んだ代表者を通じて政治に参与し、公務に携わる権利。
j.いかなる国籍も自由に取得し離脱する権利。
第9条(経済的・社会的権利) 
 すべて外国人住民は、日本国憲法および国際人権法が認める経済的、社会的および文化的権利、とくに次の諸権利を日本人住民と等しく享有する。
a.労働、職業選択の自由、および労働条件ならびに同一労働同一賃金に対する権利。
b.住居についての権利。
c.緊急医療、保健衛生および社会的サービスに対する権利。
d.社会保険および社会保障に対する権利。
e.教育を受ける権利。
f.研修および訓練を受ける権利。
g.文化活動に参加する権利。
h.一般公衆の使用を目的とする施設またはサービスを利用する権利。
i. 財産を所有し自由に処分する権利 
第10条(特別措置の保障)
 すべて外国人住民は、第8条および前条の権利享有を達成するために必要な特別措置を求めることができる。
第11条〈公務につく権利〉 
 永住資格を有する外国人住民は、日本の公務につく権利を有する。
第12条(社会保障・戦後補償に対する権利〉
 すべて外国人住民は、日本国民に適用される社会保障・戦後補償の関連法律の施行時に遡及して平等に適用を受ける権利を有する。

第四部 民族的・文化的および宗教的マイノリティの権利

第13条(マイノリティの地位)
 すべて外国人住民は、国際人権法が保障する民族的、文化的および宗教的マイノリティの地位を有する。
第14条(マイノリティの権利)
 すべて外国人住民は、国際人権法がマイノリティに保障する権利を、個人的に、および集団的に、とくに次の諸権利を享有する。
a.自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰し、かつ実践し、および自己の言語を使用する権利。
b.自己の言語、文化、歴史および伝統について教育を受ける権利。
c.前項(a)および(b)の権利を享有するために必要な活動に参加し、団体を結社し維持する権利。
d.自己の民族的・文化的および宗教的独自性の維持と発展に関連する国および地方公共団体の意思決定に参加する権利。
e.民族名を使用する権利。
第15条(国および地方公共団体の責務)
 国および地方公共団体は、外国人住民の民族的・文化的および宗教的独自性を保護し、外国人住民がその独自性を維持し発展させるために必要な立法、行政、財政その他必要な措置をとる責務を有する。

第五部 地方公共団体の住民としての権利

第16条(住民の地位)
 すべて外国人住民は、地方自治法第10条が認める地方公共団体の住民として、「日本国民たる住民」と平等な権利を享有し、負担を分任する。
第17条〈住民として登録する権利)
 すべて外国人住民は、住民基本台帳に基づく住民登録をする権利を有する。
第18条(サービスの提供を受ける権利)
 すべて外国人住民は、住民としての生活を営むために必要な、自己の理解する言語による情報を含む、地方公共団体のサービスを受ける権利を有する。
第19条(自治の参加)
 すべて外国人住民は、地方公共団体の意思決定および地域社会の住民活動に参加する権利を有する。
第20条(政治的参加)
 地方公共団体に引き続き3年以上住所を有する外国人住民は、地方自治法が住民に保障する直接請求ならびに解散および解職の請求についての権利を有する。
第21条(参政権)
 永住の資格を有し、もしくは引き続き3年以上住所を有する外国人住民は、当該地方公共団体の議会の議員および長の選挙に参加する権利を有する。

第六部 外国人人権審議会

第22条〈審議会の設置)
 国および地方公共団体に、この法律の実施に伴う諸問題を審議する機関として「外国人人権審議会」(以下「審議会」と称する)を設置する。
第23条(審議会の権限)
1. 国に設置される「審議会」は、この法律の実施に伴う諸問題を審議し、必要な事項について関連政府機関に勧告する。
2.地方公共団体に設置される「審議会」は、この法律の実施に伴う諸問題を 審議し、必要な事項について地方公共団体の長に勧告する。

    ●1998年1月15日
    ●「外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会」第12回全国協議会で作成

第13回 KCCJ人権シンポジウム声明

在日大韓基督教会(KCCJ)宣教奉仕委員会社会部、在日韓国基督教会館(KCC)、在日韓国人問題研究所(RAIK)、西南在日韓国基督教会館(西南 KCC)は、「21世紀の在日同胞とKCCJの宣教」という主題のもと、2001年2月11日から13日まで、京都のクリスチャン・アカデミー‘関西セミナーハウス’において第13回 KCCJ人権シンポジウムを開催した。

 このシンポジウムには在日大韓基督教会をはじめ、日本キリスト教協議会、日本基督教団、日本キリスト教会、外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会〈外キ協)、在日大韓基督教全国教会女性連合会から41名が参加した。

 在日同胞は、日本の植民地支配によって日本への移住を余儀なくされ、解放後も祖国の南北分断によって日本にとどまらざるを得ず、戦後も一貫して政治的に抑圧され、社会的に疎外され、経済的に搾取され、苦難の生活を強いられてきた。そのような中で、1977年の第1回以来24年、13回にわたって行なわれてきたこのシンポジウムは、在日大韓基督教会が在日同胞と日本社会にどのように応答していくべきかを教会宣教の立場から問うてきた。そしてその中から入管法改悪反対、行政差別反対、民族差別撤廃、指紋押捺拒否の闘いを各教会、各地において展開してきた。私たちは今日にいたるまで、世界教会、母国教会、日本の教会の熱い連帯と協力があったことを覚えると共に、神が私たちと共におられ、私たちを強め導いて下さったことに感謝する。

 1980年代から外登法の抜本改正運動を担ってきた私たちは、多くの日本人キリスト者とともに外キ協を組織し、その運動を共に担う中で、昨年4月、指紋制度全廃を勝ち取った。そして1998年、在日同胞と近年著しく増加した移住労働者とその家族の基本的人権を守るため「外国人住民基本法」を提起するにいたった。これはこれまでの私たちの運動の結実であり、日本社会を「共生社会」に導くためのものである。

 さらに昨年6月、南北首脳の出会いによってもたらされた南北共同宣言は在日社会においても新たな和解の機運をもたらし、東アジアの平和と共存に向けて在日大韓基督教会の果たすべき役割を確認した。また日本における新たなナショナリズムの台頭は、日本社会のみならず東アジアの平和への脅威となっており、私たちはこれに抗し、多元化社会の実現に向けて努力を傾けていくことを決意した。

 私たちは、昨今の国会での外国人住民への地方参政権論議が、外国人住民の地域社会への政治参加の権利のあり方からスタートしながらも、いつの間にか国籍取得の論議へとすりかえられていることに反対する。地方自治、住民自治に日本人も外国人も平等に参画するという本来の意味での地方参政権の論議のあり方が問われている。

 私たちは、在日同胞、移住労働者とその家族が日本社会において基本的人権が守られ、地域社会で生き生きとした生活が営まれるよう地方自治に積極的に関わっていくことの必要性を確認した。

 私たちは、今回のシンポジウムの成果を踏まえ、在日大韓基督教会の宣教100周年にむけ、以下のことを課題として取り組むことを決意する。

1.「外国人住民基本法」制定に向け、各教会において署名運動、学習会、スーパーパイザーの養成に取り組む。
2.「共生社会」の実現こ向けて地方自治、住民自治に積極的にかかわる。また、在日外国人の基本的権利としての地方参政権を求める。
3.世代間、男女間、国籍の違いによる葛藤を克服し、多様さを豊かさとしうる教会形成を推進する。
4.6・15南北共同宣言を強く支持すると共に、在日社会における分断を克服するため和解と協力を進める。また、朝鮮民主主義人民共和国と日本の国交正常化交渉において、日本政府が過去の植民地支配を謝罪し、誠実に賠償に応じることを求める。

2001年2月13日

第13回 KCCJ人権シンポジウム参加者一同
在日大韓基督教会〈KCCJ)宣教奉仕委員会社会部 
在日韓国基督教会館(KCC)  
在日韓国人問題研究所(RAIK〉 
西南在日韓国基督教会館(西南KCC)