2000年4月に,京都芸大に念願の日本伝統音楽研究センター(以下「研究センター」)が開設されます。その研究センターの教員に,法に基づく任期制が導入されようとしています。法制化「任期制」は,以下に述べるように,問題の多い制度です。もし,任期制が導入されれば,センターでの研究だけでなく,大学全体の教育・研究に支障をもたらすと考えられます。法制化任期制導入に強く反対し,設置者である京都市に再考を求めます。
法制化任期制とは
大学間の人的交流の促進と研究の活性化を名目に,文部省が法制化した制度です。従来から,国内の研究所や一部の大学で実施されていた紳士協定に基づく任期制とは異なり,任期を明確に(たとえば5年というように)決めて研究者を採用する,法に基づく強制的な任期制です。法制化任期制は,後述の紳士協定に基づく自主的任期制を作ることができない分野に対するひとつの提案でしょうが,研究者を効率よく異動させるためには,さまざまな条件(各大学・個々の研究者の協力,全国的なマネジメント組織)が整わないと,制度そのものが維持できないだけでなく,その研究分野・組織の衰退を招きかねないと考えられます。ちなみに,法制化任期制を導入している大学・研究機関は,現在のところごくわずかです。
以下は,法制化任期制のメリット(○)とデメリット(▼)について,考えられるところを列挙したものです。
制度そのものの問題点
▼ 少数の研究所・大学が任期制を実施しても効果が少ない
▼ 転出ポストが少ない分野では,失業することになるので,制度が維持できない各組織としては,任期制がうまく機能すれば
○ 組織の人的交流が促進される
○ 組織の若さが保たれる
というメリットがあるものの,つぎのような問題も生まれます。
▼ 研究者の間に,任期制教員と任期なし教員の差別が生じる
▼ 優秀な人材の確保が困難である(任期付きポストは1ランク低く見られる)
▼ 優秀な外国人研究者は,任期つきではまず来ない
▼ 任期が限られているので,責任感が欠如しやすい研究面では…
○ 研究環境(人・設備)の変化による刺激と活性化
○ プレッシャーによる活性化
▼ 長期的な研究が困難
▼ 論文の乱作
▼ つぎのポスト探しというプレッシャーによる研究意欲の低下大学は国民や市民の血税の上に成り立つので,その限られたポストを有効に活用するのは研究者の義務です。いちど就職してしまえばサボっていても安泰という態度はもちろん許されるものではありませんが,法制化された任期制はデメリットが大きく,これが広く導入されると分野によってはかえって研究の衰退を招きかねません。じっさい,法制化任期制を導入している大学はほとんどなく,あったとしても助手の1ランク下の短期ポストに使われているぐらいです。いま大学が求められていることは,法制化任期制を導入することではなく,それぞれの大学・分野が,つぎに挙げる「紳士協定に基づく任期制」のような,真に大学の活性化に役立つ任期制を検討し,全国的な協力の下で機能させていくことだと考えます。
紳士協定に基づく任期制
湯川秀樹博士が1949年にノーベル物理学賞を受賞したのを機に,京大に基礎物理学研究所が設立されたさい,理論物理の若手研究者が中心になって,全国の大学の協力の下に苦労して自主的に任期制を築き上げました。これは,研究所のポストを研究者の共有ポストと位置づけ,任期(ふつう5年±2年のように幅をつける)が来たらどこかの大学がその研究者を受け入れ,空いたポストは後進に譲るというものです。この紳士協定に基づく任期制は,その後,理学系の研究所を中心に広がり,今では,採用は公募制でオープンに行う,同じポストに長期間居座ってはならない,内部昇進を抑制する,組織的に転出先を確保する,というのが理学系研究者の常識になっています。これは,法制度に基づく任期制ではなく,全国の大学の協力の上に成り立つ任期制なので,紳士協定に基づく任期制などと呼ばれています。紳士的任期制は,物理を中心に理学系で数十年も前に始まった制度ですが,いまでは人文系の研究所などでも採用されています。芸術系では,研究者の絶対数や大学数が少ないことから紳士的任期制はあまり普及していませんが,納税者の理解を得るために,早急に紳士的任期制の検討が必要と考えます。京都芸大では,組織としての人的交流はまだ十分活発であるとはいえませんが,5年ごとに教員が相互に評価しあうチェック制度があります。また,30年ほど前から教員人事にはオープンな公募制を採用して人的交流の促進をはかっています。
日本伝統音楽研究センター
伝統音楽の本場である京都に日本音楽を研究する組織を,という長年の要望を実現するべく,2000年4月に京都芸大に開設される研究所です。すでにある美術学部,音楽学部につぐ,京都芸大の3つめの組織になります。日本音楽の研究,諸外国の音楽との比較研究などを行います。世界における,日本音楽の中心的な研究組織として機能するとともに,西洋音楽中心の音楽学部との共同研究,関連する研究諸機関との共同研究,海外との研究交流が期待されます。また,日本の文化を世界に向けて発信するセンターとして,文化都市京都にふさわしい役割も期待されています。
お願い
大学側は10人前後の研究者での研究センター発足を目指していましたが,財政事情の悪化などで出発時の研究者の数が抑えられました。さらに,一部の教員に法制化任期制が導入されようとしています。これでは,優秀な研究者や海外からの研究者に来てもらうことができません。また,センターの教員が二分されると,センターの運営や人間関係が危ぶまれます。
民間で人事がたいへんきびしい状況である折り大学も世間に従え,という単純な論理で法に基づく任期制を導入すると,取り返しのつかないことになりかねません。人的資源の活用は大学の義務ですが,それは,大学・分野が独自の任期制を築くことで実現するべきことがらであると考えます(その意味で,わたし自身は紳士的任期制には大賛成です)。設置者である京都市には法制化任期制の再考をお願いするとともに,市民のみなさんのご理解をお願いいたします。
![]()
京都芸大に建設中の研究棟。この建物の
6〜8Fに伝統音楽研究センターがはいる。
* このページへのリンクは自由です。勝手にリンクしてください。
市政に対する意見(京都市広報課)
- 京都市の市政に対する意見をここから投稿することができます
ここは,大学教員 藤原隆男の個人ページです。 ページの内容については,藤原隆男にすべての責任があります。
kyoto-Inet の個人ページへ戻る
2000/01 T. Fujiwara fujiwara@kcua.ac.jp