移動式クレーン


クレーン免許の変遷
年 次 昭和22年11月 昭和27年9月 昭和37年11月 昭和47年4月 昭和53年10月 平成10年3月
改正の内容 免許制度が開始される。 有効期限が5年になる。 有効期限が廃止され、免許の種類がクレーン、デリック、揚貨装置の3種類に分割される クレーン免許が移動式クレーン免許と分割される 玉掛の資格が別途必要となる クレーン免許に「床上運転式限定」が追加される
免許の変遷 起重機運転士 起重機運転士 クレーン運転士 クレーン運転士 クレーン運転士 クレーン運転士
クレーン運転士(床上運転式限定)
移動式クレーン運転士 移動式クレーン運転士
デリック運転士 デリック運転士
揚荷装置運転士 揚荷装置運転士
有効期限 なし 5年 なし
玉掛資格 含む 別途必要

移動式クレーン免許の変遷のポイント
昭和37年11月まで 起重機運転士免許があればすべてのクレーン操作が可能
昭和37年11月より クレーン運転士以外に、デリック、揚荷装置運転士に細分される
昭和47年4月より クレーン運転士が、クレーン運転士と移動式クレーンに分類された
昭和53年10月より 玉掛の資格が別途必要となる

移動式クレーン操作と玉掛け業務に必要な資格
吊り上げ荷重
 0.5t未満 
 0.5t以上1t未満 
 1t以上5t未満 
 5t以上 
クレーン運転者の資格 適用除外 移動式クレーン運転の業務に係る特別教育 移動式クレーン運転の業務に係る技能講習 移動式クレーン運転士免許
小型移動式クレーン
玉掛作業者の資格
玉掛けの業務に係る特別教育 玉掛の業務に係る技能講習

移動式クレーンの運転士免許は、トラッククレーン、オールテレーンクレーン、ラフテレーンクレーン、クローラクレーン、浮きクレーン、鉄道クレーンなどの移動式クレーンの運転に必要な資格である。移動式クレーンの運転資格は、吊り上げ荷重が5t以上の場合は、厚生労働省都道府県労働局長による「移動式クレーン運転士」の免許が必要。移動式クレーンの免許で、クレーンやデリックの運転はできないし、玉掛けも別に技能講習を修了する必要がある。さらに、公道を走行させるためには、道路交通法に基いた自動車運転免許(大型や大特)が別途必要となる。

免許取得までの方法
安全衛生技術センターの学科試験に合格 1年以内 センターの実技試験に合格 合格 労働局へ
免許申請
移動式クレーン取得までの方法はいく通りかある。学科試験と技能試験のいずれにも合格しなければならない。ただし技能試験は指定の教習所で教習を受ければ免除となるので、教習所で技能教習を受けるて試験場で学科に合格するか、またはその逆の順で取得することも可能である。
教習所のお世話にならず、自学自習で学科試験→技能試験を合格する方法もある。現実には学科ならまだしも、技能は独学では少々無理があると思う。いずれにせよ学科試験は安全衛生技術センターにて受験をしなければならない。
自動車の運転免許証と同様に、指定教習所で実技試験免除となっても、学科試験は最終的には安全衛生技術センターで受験しなければならないのである。
指定教習所で実技教習を修了 実技教習修了
指定教習所で実技教習を修了 センターの学科試験に合格
(実技試験免除)
合格 安全衛生技術センター
(財)安全衛生技術試験協会
写真は近畿安全技術センター(兵庫県加古川市)

移動式クレーン運転士試験の内容
試験の種類 試験科目 内 容 問題数 配 点 試験時間
学 科 移動式クレーンに関する知識 種類及び形式、主要構造部分、つり上げ・起伏・旋回等の作動をする装置、安全装置、ブーレキ機能、取扱い方法 10問 30点 2時間30分

力学に関する知識の科目免除者は2時間
原動機及び電気に関する知識 内燃機関、蒸気機関、油圧駆動装置、感電による危険性 10問 30点
移動式クレーンの運転のために必要な力学に関する知識 力(合成、分解、つり合い及びモーメント)、重心、質量、速度及び加速度、荷重、応力、材料の強さ、ワイヤロープ、フック及びつり具の強さ、ワイヤロープの掛け方と荷重との関係 10問 20点
関係法令 労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、安全衛生規則及びクレーン等安全衛生規則中の関係条例 10問 20点
合 計 40問 100点
実 技 移動式クレーンの運転 質量を確認して荷をつり上げ、定められた経路により運搬し、定められた位置に下ろすこと 午前・午後に分けて受験票に記載
移動式クレーンの運転のための合図 荷をつり上げ運搬し、または下ろすことについて、手、小旗等を用いて合図を行なうこと

各科目の点数の合計100点をもって満点とし、各科目ごとの配点がそれぞれ40%以上、かつ、全科目の得点が60点(力学に関する知識科目の免除者については48点)以上の場合が合格になる。なお、受験に不正行為のあった場合は0点である。試験の結果は試験日から1週間で(10日以内)に発表される。合格の場合は「免許試験合格通知書」、実技試験を伴う者の学科試験合格者は「実技試験受験票」、それ以外の場合は「免許試験結果通知書」で受験者に直接通知される。実技試験をこれから受ける人は、学科試験が合格しても「免許試験結果通知書」となり、学科試験不合格の場合も「免許試験結果通知書」として送られてくる。、また、受験した安全衛生技術センターの掲示板にも掲示される。
実技試験は、移動式クレーンを安全、かつ、正確に運転するために必要な技能の有無を判定することができる程度となっている。実技試験で使用される移動式クレーンは吊り上げ荷重5t以上のラフテレーンクレーンかトラッククレーンかが使用される。

移動式クレーンの各部名称
移動式クレーンは大きく下部走行体、上部旋回体、フロントアタッチメント(作業装置)に分類できる。
フロントアタッチメントとは通常、(上部・下部)ジブ、フックブロック、ジブ支持用ワイヤロープ(ペンダントロープ)、ジブ起伏ワイヤロープ、ジブバックストップ(倒れ止め装置)などにより構成されている。Aフレームはフロントアタッチメントには属さない。
補助ジブ
移動式クレーンは必要に応じて、上部ジブの先端に補助ジブを装着して揚程を増すことができる。上部ジブ先端にはジブストラッドがあり、補助ジブを支える柱となっている。ジブの傾斜角と補助ジブ取り付け角度をオフセット角という。
カウンタウエイト
吊り上げる資材と重さのバランスをとるため、車体に取り付けるウェイトのこと。クレーン本体だけでは支えきれない場合、カウンタ・ウェイト用のトラクタを別に設置することもある。
フックの移動(シミュレーション)
WinBASICで少しプログラムを作ってみた。移動式クレーン(クローラ式移動クレーン)のシミュレーションである。ワイヤロープを巻き上げも巻き下げもせず、ジブだけを倒した場合にはフックの位置はどうなるかを計算式を用いて描いてみた。フックは微妙な曲線を描いて一旦地上から離れて、再び地表に近づく動きをとることが分かった。

カウンターウエイト
移動式のジブクレーンで荷を吊り上げる際には、本体側にカウンタウエイトが搭載されている。 一般に、移動式クレーンの総重量は、35t吊りでは約30t、250t吊りでは約210tと、
最大吊り上げ能力と同程度の重量がある。総重量のうち、カウンタウエイト質量の割合は、約20〜35%を占めており、250t吊りクレーンでは約80tになる。 公道を使用して移動する場合は、公道輸送に関する各種法規制の範囲内となる質量および寸法形状に分解して輸送する必要がある。一般的に、分割されたカウンタウエイトは1個あたり5〜10t程度である。

敷鉄板
全長(mm) 全幅(mm) 厚さ(mm) 質量(kg) 一般に1.5m×3(または6m)のサイズで、22〜25mmのものが多い(22mm以上必要)。
一般に質量は約800kg(または約1,600kg)である。
1,800 900 22 292
2,400 1,200 22 518
3,000 1,500 22 802〜810
6,000 1,500 22 1,604〜1,620

移動式クレーンの分類
移動式クレーンの運転士免許は、トラッククレーン、オールテレーンクレーン、ラフテレーンクレーン、クローラクレーン、浮きクレーン、鉄道クレーンなどの移動式クレーンの運転に必要な資格。移動式クレーンの運転資格は、吊り上げ荷重が5t以上の場合は、厚生労働省都道府県労働局長による「移動式クレーン運転士」の免許が必要である。、もちろん移動式クレーンの免許で、クレーンやデリックの運転はできないし、玉掛けも別途、技能講習を修了する必要がある。さらに、公道を走行させるためには、道路交通法に基いた運転免許が別途必要となる。

ブームの形式 伸縮(箱型ジブ)ブーム 機械式(ラチス)ブーム
クローラクレーン クローラ(履帯)を巻いた台車の上にクレーン装置を架装したもので、上部旋回体に原動機、巻上装置、操作装置等が装備されている。クローラは公道走行には適さないがクローラの接地面積が広くアウトリガーを張り出さないでも安定性に優れているため、不整地や軟弱な地盤でも走行できる。 伸縮ブーム式クローラクレーン
(TBCC: :Telescopic Boom Crawler Crane)
ラチスブーム式クローラクレーン
(LBCC: Latticed Boom Crawrel Crane)
ホイールクレーン ホイールクレーン ホイールクレーン タイヤ付きの車軸に支えられた台車の上にクレーン装置を架装したもので前輪駆動、後輪操向。クレーン作業及び走行は上部旋回体の運転室で行ない、クレーン作業と走行の動力には下部走行体の原動機を使用する。 ラチスブーム式ホイールクレーン
(LBWC: Latticed Boom Wheel Crane)
ラフテレーンクレーン
(ラフタークレーン)
ラフテレーンクレーン
(RTC: Rough Terrain Crane/ TBWC: Telescopic Boom Wheel Crane
ラフテレーンクレーンは四輪操舵の操向機構の特徴を持ったホイールクレーンの一種で、狭い路地や建物内への進入が容易に行なえる。走行とクレーン操作は上部旋回体の運転室で行なう。
トラッククレーン 車両積載型
(ユニッククレーン)
汎用トラックの運転室と荷台の間にクレーン装置を架装し、貨物積載用の荷台を備えて荷物の積降ろしを行う。クレーンの作動は走行用の原動機から動力発生装置 (PTO)を介して油圧で作動させる。つり上げ能力は3tt未満のものが多い。  
トラッククレーン
(Truck Crane)
下部走行体に旋回サークルやアウトリガを装備し、上部にクレーン装置を架装したもの。下部走行体には走行用運転室、上部旋回体にはクレーン操作用の運転室がある。トラッククレーンには、走行速度が速く、機動性に優れた油圧式の箱型構造ジブが多い。小型のトラッククレーンはトラックのメーカーが製造する汎用シャーシにクレーンメーカーが上部旋回体を架装している。  
オールテレーンクレーン
(オルタークレーン)
トラッククレーンの高速走行とラフテレーンクレーンの不整地走行を併せ持った移動式クレーン。走行は、下部走行体の運転室で行ない、クレーン作業は上部旋回体の運転室で行う。オールテレーンは主に大型クレーンで生かされ、車両重量を緩和するための多軸方式を採用し、下部走行体と上部旋回体を分割して輸送する。  

ホイール式移動式クレーンの分類と公道走行
  ホイールクレーン トラッククレーン
概 要 ひとつの運転席で走行とクレーン操作が行える自走式クレーン。不整地や比較的軟弱な地盤でも走行ができるほか、狭隘地での機動性にも優れておりその小回り性を生かし、主に市街地などの狭い現場で活躍している。 トラッククレーンやオールテレーンクレーンのキャリアはトラック式キャリアと呼ばれ、上部旋回体を架装するための旋回サークルやアウトリガが取り付けられている。吊り上げ荷重が10t以下のものはトラックのシャーシを補強して使用、10tを超える場合は一般に専用のシャーシが用いられている。下部走行体の運転室で走行し、クレーン操作は上部旋回体の運転室で行う。小型の機種では下部走行体の原動機を走行とクレーン作業の動力として用いるが、大型機では、下部走行体及び上部旋回体の各々に走行用及びクレーン作業用の原動機が搭載されている。
分 類 ラフテレーンクレーン(ラフタークレーン) オールテレーンクレーン(オルタークレーン) 車両積載型クレーン(ユニック/カーゴクレーン)
車 両
車両総重量 8t以上 8t未満 8t以上 特殊車両
ナンバープレート 9ナンバー 8ナンバー 4ナンバー 1ナンバー 8ナンバー
公道走行の資格 大型特殊自動車免許 大型自動車免許 普通自動車免許 大型自動車免許 普通/大型自動車
駆動方法など 前輪、後輪ともに駆動する4WDで、ステアリングも前輪、後輪ともに任意に操舵できる4WSとなっている。 殆どの車輪が駆動し、ステアリングも切れるので、小回りが効く。 前輪が操舵、後輪が駆動で、トラックの荷台の代わりにクレーンが載っている形式。トラックの駆動輪で、後輪駆動が中心。
備 考 現在、日本で生産する50t以下の移動式クレーンの約95%以上がこのホイールクレーンである。 基本的なスタイルはトラッククレーン車と同じだが、ほとんどの車輪が駆動する事、ほとんどの車輪でステアリングが切れるので、小回り効き機動性がある。 車両積載型クレーン。クレーン装置を架装した状態で車両総重量を8t以内に収めれば普通免許で公道を走行できる。そのため最大積載量4t級のトラックがシャシーとして用いられることが多い。運転免許は4t車シャーシの通常5t吊クレーン車では普通免許、これを越える場合は大型免許が必要。490kg吊りクレーンを装着したミニクレーン付トラックでは、クレーン操作に関する資格は必要なく、車両も4ナンバー扱いとなる。


移動式クレーン実技教習体験記
学科試験を合格して1年以内であれば、指定教習所で実技教習を終了すれば安全衛生技術センターでの実技試験が免除となるので小生はこの道を選んだ。自動車運転免許ならまだしも、クレーンの免許はいくらシミュレーションを行ってもちょっと自信がなかったのと、練習ができる場所が兵庫県内に探した範囲内で存在しなかったこと、仮に1回で通ってしまったらクレーンの運転の機会が1回で終わってしまうのは寂しい(そんな訳ないよ)などの勝手な判断によってであった。ここでは、いわゆる学科免除で受講した「移動式クレーン」教習の体験記を紹介しよう。
教習所により若干の差はあるらしいが、基本的に学科免除の場合、教習課程は次のようになる。まず、講習料は\89,250。1日一人当たり、2時間以上の実技教習を行うことができないので、学科免除といえども2、3日に集約して教習するわけにはいかないのである。実技教習は二人一組であり、一人が1時間教習の場合は二人で2時間という具合にお互いの教習に付き合って受講するというパターンである。今回、24名の受講生のうち、学科免除は栗田1名のみであった。学科講習用資料は一人だけ撤収回収されてしまったが、一人だけ午前中の実技教習で帰宅してよいというメリットはあった。

教習時間 時 間 教習内容 教習光景 教習ワンポイント
1日目 8:30-10:40
(1時間)
コベルコ建機教習所の副センター長の挨拶に続き早速の実技教習。使用車両は35t吊りの機械式(ラチスブーム)のコベルコ7035であった。 乗車のあと(1)乗降レバー、(2)ブレーキペダル、(3)ドラムロック、(4)旋回ブレーキの順に確認を行う。1日目は左右の振れを旋回のレバー操作で止めるもの。旋回中心が運転室より左側に存在するので荷の着地点は自分よりちょっと左かなと思う所で丁度よい。ちなみに、機械式クレーンは左右の旋回を中立にしたらニュートラルとなり惰性でよく動く。逆に、故意に荷を揺らしてみると、逆に荷に振られてクレーンの方が共振する。この点は油圧式クレーンと大きく異なる。
2日目 8:50-10:40
(1時間)
使用車両は35t吊りの機械式クレーン。実際の教習では右図のうち、ブーム起伏ペダル、補巻ドラムブレーキペダル、補巻レバー、(クローラ)前進・後退レバーは実際には使用しない。 ジブの前後の揺れをジブの起伏を利用して(アクセルを踏んで高速回転にて)中和する。
3日目 7:50-9:40
(1時間)
合図の教習を受ける。現場によって若干合図の内容は異なるらしい。クレーン運転は、これまでの操作を応用して、バー越え、水平押し出し、壁障害物、水平引き込みなどである。
4日目 7:50-11:40
(2時間)
使用車両は油圧式のコベルコMobile Tower RK120(12t吊り)。この機種は車体に対してジブが大きすぎるので安定が悪く、操作性が各種の車両(油圧式クレーン)の中でも扱いにくい車両であるらしい。そんな訳で製造46台で中止となったらしく、ある意味稀少価値のある車両だそうだ。確かに、すぐに振れて操作しにくい印象があった。 油圧式は油圧シリンダーでジブを起伏するので、とにかく操作が敏感に伝わる。つまり、ちょっとした操作で大きくジブが起伏し容易に前後の振れが生じる。また旋回途中にレバーを中立にすると油圧の影響ですぐに停止するため、これまた容易に左右に振れる。紙一枚のコントロールと云われる所以である。
5日目 7:50-11:40
(2時間)
地上2mの高さで荷を吊り上げ(許容範囲は±20cm)移動し、バー越え、壁障害を練習する。旋回操作は120度の範囲内で、油圧式の場合はジブの伸縮操作は行わない。レバーの複合操作は原則として2レバーまでとする。具体的には、ジブの伸縮は使用しないし、ジブの起伏と巻き上げ下げは同時に行い(水平押し出し、引き込み)、これらと旋回レバーは併用してはならない。
6日目 7:50-11:40
検定
(1時間)
実技試験は、油圧式なら6分10秒、機械式なら5分30分の制限時間があり、これを10秒越えるごとに2点の減点が生じる。合計60点以上が合格である。荷の触れは15〜20cm以内である。実際には、クレーン運転室内のジブ角度(ジブ角40〜55度)のモニターを参考にするとよい。実技試験は合図とクレーン運転からなる。とはいっても合図の試験とは、紙に印刷してある合図のイラストが何の合図かを8つほど尋ねられる程度で、簡易であった。

「玉掛け」について

移動式クレーン操作と玉掛け業務に必要な資格
吊り上げ荷重
 0.5t未満 
 0.5t以上1t未満 
 1t以上5t未満 
 5t以上 
クレーン運転者の資格 適用除外 移動式クレーン運転の業務に係る特別教育
(小型移動式クレーン)
移動式クレーン運転の業務に係る技能講習
(小型移動式クレーン)
移動式クレーン運転士免許
玉掛作業者の資格
玉掛けの業務に係る特別教育 玉掛技能講習

玉掛け(たまがけ)、初めてこの言葉を聞けば、浅間山荘事件の解体用の鉄球を想像されるかもしれないが、実際は、クレーンや移動式クレーンでの荷の吊り上げ作業に必要な、質量目測、ワイヤロープの選定、取り付けなど重要な役割を担う作業なのである。つまり、玉掛けとはワイヤロープやその他の用具を用いて荷をクレーンのフックにかけたり外したりする作業のことをいう。また、クレーン運転士に荷を誘導するための合図を送ることも玉掛けの作業に含まれる。
吊り上げ荷重が1t以上のクレーンを使用する場合などの玉掛は、玉掛技能講習を修了する必要がある。昭和53年10月までは、クレーンや移動式クレーンの免許を所有していれば玉掛の資格はこれに含まれていたが、これ以降は別途、「玉掛け」の資格を別途取得する必要がある。

玉掛の学科および技能講習の流れ
1日目 8:50〜13:45 2日目 8:50〜16:45 3日目 8:50〜16:45

◆学科講習

  • クレーン等の知識
  • 力学に関する知識
  • 玉掛け用具の知識
  • 玉掛の方法
  • 災害事例
  • 関係法令

◆学科講習

◆学科試験(14:45〜)

  • クレーンに関する知識(5点×4問=20点)
  • 力学に関する知識(5点×4問=20点)
  • 玉掛け方法に関する知識(5点×10問=50点)
  • 法令(5点×2問=10点)

合計100点(各項目、責任点として各項目の40%以上)全体として、60点以上の得点が必要。クレーン免許を所有している場合は、力学に関する知識の部分が免除となるので、合計は80点満点で48点以上が必要。

◆実技教習

  • 質量目測・・・H鋼、ドラム缶、円柱、コンクリートの荷を、それぞれ採寸(手の幅やA4用紙などを参考とし)し、質量を目測する。
  • ワイヤーロープ選定・・・上記の質量目測に基いて、適切なワイヤロープを選定する。ロープの太さは、自分の指の太さ(例えば小指16mm、中指20mmなど)を参考にしておく。
◆実技試験
小型トラッククレーン、移動式クレーン(ホイール、クローラ式ジブクレーン)、天井クレーンのいずれかを用いて、荷を運搬する。
荷の確認、やわら、ワイヤーロープなどの玉掛け用具の確認を行い、運転者を呼び出す。
フックにワイヤロープを掛け、荷を巻き上げ、水平移動し、指定された場所(まくら)に着床させる。
補助者と共に玉掛け用具の使用後点検を行い、片付ける。

ロープの選定の実際 次のような円柱の鋼材を吊角30度で2本吊りするときのワイヤーロープを選定せよ。ただし使用するロープの基本安全荷重は次の表の通り。
  ロープ径(mm)と基本安全係数(t) 吊 荷
ロープの径(mm) 基本安全荷重(t)
10 0.83
12 1.2
14 1.6
16 2.1
18 2.7
20 3.3
22 4.0
24 4.8
26 5.6
28 6.5
まずは、荷の質量目測である。予め、自分の指の幅(例えば約22cm)やA4用紙(約30×21cm)の知識を持って、円柱のサイズを測る。
直径30cm、長さ150cmであるとすると、鋼材の比重を7.8として、質量=3.14×01.5×0.15×1.5×7.8=0.83(t)
2本吊で吊角30度の場合は、張力が1.04倍となるので1本あたりには0.83×1.04÷2=0.43(t)
安全係数6(実際の破断荷重の6分の1で吊る)なので、0.43×6=2.58(t)が吊れるワイヤーロープは、表から18mm径以上となる。
このロープを目測で選定して、正解すれば合格である。
同様に、ドラム缶、H鋼材、コンクリート製の異型物についても、重量目測とワイヤーロープの選定を行う。

【参考】明石海峡大橋のメインロープ
昭和63年5月に着工し、約10年の歳月を経て、平成10年4月に開通した、明石海峡大橋。全長約4,100メートルのメインケーブルは直径5.23mmの素線(ピアノ線で1本あたり約4tに耐える)、を127本を束ねたストランドを、290本まとめて直径1.12mのケーブルにしてある。よってケーブルの断面は、約3万6,830本の素線から構成される。素線の材料は1平方ミリメートルあたり160kg重であったが、明石海峡大橋では180kgfの高強度鋼線を使用している。素線の総延長は約30万kmとなり、地球7周半(光の秒速)ほどになる。