強姦被害を考える

2006年12月15日
弁護士 藤 本 一 郎




はじめに
 何より断っておきたいのは、私はフェミニストでもホモでもないし、普通の女性に興味と関心を持つ健康・健全な男児である、ということです。ただ、何故か、私の広く薄い?人付き合いのせいか(自分では広く濃く、と思っているのですが・・・)、それとも、私のやや女性的な?性格のせいか、強姦の被害に遭った、または遭いそうになった、という話を時々聞きます。ただ、よくよく考えてみると、これは決して私にSpecialな話ではないような気がします。

 我が国の強姦事件の認知件数は年間2000件前後です。しかし、実際は「強姦が蔓延している」が「表に出てこない」だけなのではないでしょうか。

 何故表に出てこないのでしょうか。私なりに5つ理由を挙げてみます。

 第1には、強姦の加害者が被害者の良く知っている人であることが多いからです。正直私は道で知らない人から強姦された、という話を聞いたことはありません。会社の上司、友人、幼なじみ、そんな人が加害者になってしまうのです。そんな場合に、被害を申告することに躊躇する被害者の気持ちは分からないではありません。

 第2には、被害を公表したくないという被害者の気持ちがあるからです。刑事・民事の手続を行うにしても、事件が一般に知られたら、何か恥ずかしいと思う気持ちを被害者が持つことは理解できます。

 第3には、証拠の問題です。強姦の件で何か加害者から謝罪を受けたい、被害を回復したいと思うのは、事件の翌日ではなく、数ヶ月経った後でしょう。この時、加害者は既に事件を忘れてしまっていることもよくある話です。のみならず、被害者側にも、当時そういうことが起きたことを証明する証拠が全然ない、ということもあり得る話です。証拠がないのに事件とした結果、相手方から逆に名誉毀損で訴えられる、ということがあったら、被害者が二重に苦しむことになりかねません。

 第4には、被害者側の無知が挙げられます。強姦の件で加害者から謝罪と損害の回復を受けたいと思っていても、一体どうやればいいのでしょうか。そもそも、自分が受けた被害が「強姦」なのかどうなのかすら、あやふやな場合も少なくないでしょう。知識も知恵もなく、結果的に諦めるしかない、と思っているひとは少なくない筈です。

 第5には、相談を受けることができる人が少ない、ということです。私の経験則からすれば、この種の相談は、実は女性に対して、ではなく、頼れる男性の側にする方がラクなようです。しかし、全ての女性がそのような男性を有している訳ではありません。

 私は、最初にも述べたとおり、健全健康な男性の1人として、男性の性欲については十分理解しているつもりです。そして「モテナイ君」の代表として(キショくはないつもりですが、カッコ良くもないという意味で)、女性をそこに持ち込むには、人一倍努力してきたつもりでした。だからこそ、その過程をすっ飛ばして、強引に女性を襲ってしまうのは、なんちゅうか、ルール違反やという思いが強くあります。そんなルール違反が蔓延してしまえば、マトモに女性を口説こうというまともな男性諸君も、マトモに口説かれようと待っている女性諸君にも有害であることは明らかです。

 という訳で、このような被害に遭った場合の対処法について、糸口となる知識を提供できれば、という思いで、本稿を書いてみました。より具体的な相談を弁護士である私にしたいという場合は、一定の条件のもとで初回無料の法律相談を提供していますので、宜しければ利用してみて下さい

そもそも、強姦とは??
射精がなかったら、被害にならない??

 強姦とは、第1には、刑法に違反する犯罪です(刑法177条)。つまりは、逮捕・起訴され、有罪となれば、懲役刑を受ける可能性のある重い犯罪です。また、その被害を回復する方法としては、刑罰以外に、民事上の手段として、謝罪の要求や損害賠償の請求をすることができます(不法行為、民法709条)。

 ではまず、いかなる行為が刑事上の「強姦」になるのでしょうか。これも法律家である私は、当たり前のことのように思っていたのですが、かつて「相手がイカなかった(射精されなかった)から強姦じゃないと言われた」という類の相談を受けたことがあるので、ここで明確にしようと思い書いた次第です。

  刑事上の強姦あれこれ

 まず、177条だけを見てみましょう(以下、○○条と述べる場合は「刑法」の条文です)。

(強姦)
第百七十七条  暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

 つまり、「強姦」とは、(1)暴行又は脅迫を用いて、(2)「姦淫」するということです。

 (1)暴行又は脅迫、は分かりますよね?別に怪我とかしなくても良いんです。

 じゃあ、(2)「姦淫」とは何でしょうか。分かりやすく言えば、「ペニスを膣に挿入すること」です。

 何が言いたいかといえば、「射精したかどうか」「濡れたかどうか」等々は一切関係なく、たとえ射精していなくても、男性の性器であるペニスが、女性の性器である膣に、少しでも入れば、「姦淫」となる訳です。「射精していないから刑事事件にならない」ということはないし、「射精していないから未遂」ということにもなりません。入れば、既遂なのです。

 なお、姦淫がないということになっても、強制わいせつ(176条)等が成立する余地がありますが、今回は強姦被害にテーマを絞るので詳細は書きません。

 13歳未満がどうのこうの、と書いてありますが、これは、13歳未満であれば、(1)の暴行・脅迫がなくても強姦罪になるということです。じゃあ、13歳以上に対してであれば、暴行・脅迫をしてなければ強姦罪は成立しないから、罪にならないのでしょうか。確かに刑法177条は成立しませんが、178条が成立する可能性がありますので、今度は178条を見てみましょう。強姦との関係では第2項だけを見れば良いので、第2項だけを引用します。

(準強姦)
第百七十八条
2  女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条の例による。

 つまり、暴行・脅迫の代わりに、心神喪失・拒絶不能を利用したりして「ペニスを膣に挿入」した場合も、177条の強姦と同様に処罰されるということです。女性がぐてぐてに「酔った」ことをいいことに姦淫してしまうことが典型例です。例の某大学アメフト部の「鍋パーティー」の事件はこちら(準強姦)だったと思います。

 強姦も準強姦も、刑事上は3年以上の有期懲役です。ところで、3年というのには意味があります。執行猶予をつけられる最上限の懲役が3年なのです(25条)。よく強姦罪は軽い軽い、と批判されますが、それでも、特に既遂の場合、情状酌量の余地がない場合は、実刑となる可能性が高い重い犯罪なのです。

 さらにこの「3年」という刑が重くなる場合2つと、軽くなる場合1つを見てみましょう。

(集団強姦等)
第百七十八条の二  二人以上の者が現場において共同して第百七十七条又は前条第二項の罪を犯したときは、四年以上の有期懲役に処する。

(未遂罪)
第百七十九条  第百七十六条から前条までの罪の未遂は、罰する。

(強制わいせつ等致死傷)
第百八十一条  第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2  第百七十七条若しくは第百七十八条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は五年以上の懲役に処する。
3  第百七十八条の二の罪又はその未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。

 178条の2,181条が重くなる場合、179条が軽くなる場合ですね。

 178条の2は、「集団強姦罪」「集団準強姦罪」で、刑の下限が1年上になっています。初犯実刑の可能性がより高くなるといえるでしょう。

 ちなみにこの「集団」罪は平成16年刑法改正で導入された比較的新しい罪で、その背景には、早稲田大学の「スーパーフリー」と呼ばれたサークルによる集団強姦事件が社会問題化したことがありました。

 181条は、怪我をしてしまったり、殺してしまった場合の刑の加重です。特徴は、(1)たとえ怪我させたり殺す意思がなかったとしても、181条の適用があること、(2)強姦そのものは後で述べる「未遂」であったとしても、致死傷があれば181条に該当し得ること(1項参照)、(3)集団強姦罪・集団準強姦罪に該当する場合の致死傷は更に重くなること(3項参照)、です。

 なお、処女を強姦した場合は、処女膜の破損が「致傷」になりますので、177条・178条・178条の2ではなく、181条2項・3項に該当することになります。

 逆に軽くなる場合が「未遂」(179条)なのですが、強姦などの未遂罪とはどんな罪でしょうか。

 典型的なのが、強姦する意思で暴行または脅迫を行ったが、「ペニスを膣に挿入」しなかった場合です。つまり、実際には「ペニスを膣に挿入」しなくても、強姦未遂罪という犯罪は成立する可能性があるということです。軽くなると言いましたが、これは未遂減刑と呼ばれる刑の減軽(43条前段)を受けることができる、ということです。言い換えれば、仮に「集団強姦罪」のように、4年が最短の刑期である筈の罪を犯していても、未遂ならば執行猶予の可能性が大きくなるという訳です(減刑には未遂減刑のような「法律上の減刑」と酌量減刑と呼ばれる減刑(66条)という2種類の減刑があります。未遂であれば減刑のチャンスが2度あるということですね)。なお、この場合、加害者が自らの意思で中止した場合は、刑の免除も選択肢に入ってきます(43条後段)。

 ところで、強姦罪は典型的な、「親告罪」とされます。親告罪ってナンでしょうか。

(親告罪)
第百八十条  第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 2  前項の規定は、二人以上の者が現場において共同して犯した第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪については、適用しない。

 つまり、強姦罪・準強姦罪の場合は、被害者からの「告訴」がなければ、刑事裁判にならない、ということです。
 警察が勝手には動いてくれない、と解釈して頂いても結構です。
 被害者であるあなたのプライバシーを守るためなのですが、逆に言えば、被害者であるあなたがすごく怒っていても、あなたが動かない限り事件にならない、ということでもあります。

 但し、集団強姦罪・集団準強姦罪(178条の2)や強姦等致死傷罪(181条)の場合は、親告罪ではありません。あなたの意思と無関係に刑事事件になることがあります。

 ところで、告訴はいつでもできるのでしょうか?

 かつて、親告罪の告訴は、加害者を知ってから6ヶ月以内しかできないという規定がありました(刑事訴訟法旧253条)が、これは平成12年の改正で撤廃されています。

 じゃあ永遠に告訴できるか、というと、犯罪には時効がありますので、時効期間経過後の告訴には刑事的には意味がありません。具体的には、現在の刑事訴訟法に基づく場合、「無期懲役」の罪がある強姦等致死傷罪(181条)の場合は15年、それ以外の強姦罪(177,178,178の2、179条)については、10年です。但し、この時効期間は平成16年改正で延びたところですので、平成16年12月31日までに発生した強姦犯罪についての公訴時効は、それぞれ、10年、7年です。もしも平成16年12月31日以前の古い事件の被害を訴えたい場合は、古い規定の方が適用されますので、注意が必要です。

民事上の強姦あれこれ

 刑事上はいま述べたとおりですが、民事上も、女性の貞操というのは保護すべき価値があり、仮に財産的損害が発生していなくても精神的損害が発生するのは明らかですから、これを不法に侵害すれば、不法行為(民法709ないし710条)として、損害賠償の対象となります。なお、これは一種の名誉権を侵害するものですので、金銭賠償に留まらない適切な処置を求めることも可能でしょうが、実際に判決で何かを得ようとなると、被害者側もプライバシーを守りたいと思うでしょうから、難しいかもしれません(例えば謝罪広告という訳にはいかないでしょうし・・・)。

 民事上は、既遂だから、とか、未遂だから、とか、集団だから、といった条文上の区別はありません。しかし、そういった手段や結果の相違、反復継続性が損害賠償額に反映されるのが普通です。

 では、いくら位が妥当なのでしょうか。全く事案によります。

 まったくもって個別具体的に検討されるべきですが、敢えて数字を出すとすれば、刑事上強姦既遂罪といえるような被害が発生した場合の民事上の損害賠償額については、過去の判例から検討して100万円程度から1000万円程度の間に収まるのではないかと予測します。

 その判例の全てを挙げるのは本稿の目的から逸れますので妥当ではないと思いますが、最近はやや高額化する傾向があると思います。例えば、カルト宗教で教祖が「祝福」という名目で性的暴行をした「聖神中央教会事件」の場合、個別事情を勘案して1人あたり1100万円から220万円の損害賠償を認めています(京都地裁平成18年12月1日判決)。

 いずれにしても、被害者と加害者の身分関係(例えば労働上の上司と部下であれば拒絶が困難な事情も生じることから被害額が高額化する傾向)、被害の程度(未遂か、既遂か、怪我したか、精神的な被害が残ったか、妊娠や性病が発生したか)等々、諸般の事情を総合衡量して損害賠償額は決められます。

 注意して頂きたいのは、後でも具体的に述べますが、これらの金額は「判決」の場合です。特に加害者は、判決となれば、失うもの(風評など)が多いでしょうし、特に親告罪の場合、被害者が告訴すれば刑事事件となる訳ですから、示談で解決し刑事事件としない利益が大きいでしょう。従って示談の場合、力関係からして事案によっては判決となれば払われるであろう額よりも高額となることが十分あり得ます。しかし逆に、下がることもあり得るかもしれません。示談は相手が合意しなければいけない訳ですから、加害者が実際にお金を持っていなければ合意しづらいからです。

 私個人は、ここで被害者が目指すべきモノは金銭的満足そのものではなく、謝罪を形として表すための金銭ですので、特に示談の場合、相手方の有する資力や地位から勘案して、被害の実態からしてきちんとした謝罪といえる額、で合意すべきだと考えています。

 なお、民事上の損害賠償請求にも時効があります。「損害」「加害者」を知った時から3年、事件発生から20年のいずれかが経過すれば損害賠償請求できません(民法724条)。

適切な解決を得るための戦略
 強姦被害に遭った、悔しい、何とかしたい。

 なるほど、刑事罰と民事上の損害賠償のことも理解した。しかし、どうすれば単なる泣き寝入りにならないですむのでしょうか。

 刑事・民事という2つの「手」がある訳ですから、被害者の手段としては、

(1) 警察・検察に事件を刑事事件として「告訴」する
(2) 弁護士などを通じて、損害賠償請求や謝罪請求という形で、民事上の請求(任意交渉)を行う
(3) 弁護士などを通じて、損害賠償請求や謝罪請求という形で、民事上の請求(民事裁判)を行う

という3つの「やり方」があると思います。

 (2)(3)については、まずは(2)裁判外で交渉し、決裂した場合(3)民事裁判とする場合と、、いきなり(3)民事裁判として訴えるという2タイプがあり得ます。

 金銭的な解決は余り望まない、とにかく相手を罰して欲しいという場合は、(1)の解決をオススメします。

 但し、警察や検察が動くには、それなりに「証拠」が必要です。何故なら、刑事事件では「疑わしきは被告人の利益に」ということで、疑わしいが証拠がなければ無罪となるからです。

 加害者が実際に射精し、その精液が残っている場合は、これを保存できれば最良です。DNA鑑定によって加害者を特定することができるからです。しかし、勿論被害者の供述そのものも、もしも信用できる場合は証拠になります。信用できる供述と思われるためには、何か補足的な証拠があると良いです。例えば、当時の電子メールや、きちんと定期的に記録しておいた日記などは、有力な証拠となり、それと一致する被害者の供述の証拠としての信用性が高まることになります。

 なお、性交渉そのものが証明できても、強姦等で処罰されるには、更に暴行・脅迫・拒絶不能などの事情を証明しなければなりません。加害者と被害者が恋人や夫婦の場合は、特に注意が必要です。そうではない場合、同意がなかったであろうことを示す証拠が何かあるか、良く考えて見て下さい。

 なお、警察や検察への相談のやり方ですが、「被害届」だけではまずいかもしれません。「告訴」がなければ親告罪は起訴できませんので、警察などは、まず「被害届」だけを出させて、捜査し、本当にこれは罪になると言う確信が持てる場合にだけ被害者に「告訴」を勧めてきます。この結果、折角警察に協力したのに、目的である加害者を刑事裁判で訴えるということができない可能性もあります。このあたりに不安がある場合は、やはり弁護士にきちんと相談すべきです。

 謝罪を求める場合は、結果として金銭的解決になるでしょうが、示談による解決の余地があるなら、まずは(2)民事上の任意交渉をオススメします。
 この場合、いきなり裁判をする訳ではないですが、加害者が事件を争ってくる可能性がありますので、やはり、相手方と交渉する前に、証拠があるかどうか、しっかり検討することが必要です。

 (2)まず任意で交渉し、うまくいかない場合、場合によっては(1)の手段を併用しながら、(3)民事裁判も行う、ということになるでしょう。何故(1)を併用するかといえば、刑事事件において、示談が成立していれば罪が軽くなりますし、親告罪の場合告訴の取り下げとなればそもそも起訴されないことになりますので、それを1つの「圧力」として示談を促すことができるからです。

 なお、(3)は勿論ですが、(2)についても、交渉を自ら、ないし友人にお願いしてやるのは余り望ましいことではありません。相手方が仮に事件の存在を争う場合、被害者側に十分な証拠がなければ、脅迫によって金銭を奪おうとする「恐喝」だとして、逆に刑事事件となったり、民事上損害賠償請求をされる可能性があるからです。また、仮に交渉を弁護士ではない友人にお願いし、実際に取得できた金銭の一部を報酬として支払う場合、弁護士法違反となる可能性があります(弁護士でないモノが「事件屋」をやったことになる)。また、「示談書」を作成するのを法律の素人が行うのも危険です。但し、弁護士にお願いするなら当然弁護士報酬がかかることになりますので、弁護士にお願いしてでも依頼する価値があるかどうかについては、自分の心と、依頼するかもしれない弁護士に良く相談して決めましょう。

 (2)任意交渉のその他のメリットとしては、仮に証拠が少ない場合でも、交渉できるということでしょうか。

 なお、(2)示談となる場合、引き替えに告訴しないこと(既に告訴している場合は取り下げること)等を約束せねばならないことがあり得ます。特に(1)刑事事件として告訴している状態で、(2)示談を締結する場合、仮に告訴の取り下げまで合意しなかったとしても、かかる示談の存在が、刑事裁判で考慮され、「情状」により罪が軽減される可能性がありますので、お金より処罰を優先させる場合は、特に注意して下さい。他方(3)民事裁判の場合は、別に相手方と合意する訳ではないのですから、告訴しないことを約束してあげる必要はありません。

 以上の相違をよく踏まえて、(1)(2)(3)の手法を使い分けましょう。

事件とすべきか、黙っておくべきか??
 何が強姦か、そしていかなる武器が被害者にあるかを学びました。

 (1)刑事事件として告訴するか、(2)民事事件として任意交渉するか、(3)民事裁判に訴えるか、それとも黙っておくか。

 (1)から(3)いずれの方法をとるとしても、嫌な事件を思い出し、他人に説明しなければならない負担が生じます。

 (1)刑事事件となれば、自ら証人として出廷するようなこともあるかもしれません。(3)民事裁判でもその可能性があります。証人尋問は一般に公開されますので、他人が事件を知ってしまうことになります。これは加害者も恐れるものですが、被害者にも負担です。

 そういう意味では(2)示談は比較的プライバシーへのダメージが少なくなります。しかし、被害者側がいかに秘密裏に交渉しようとしても、「逆切れ」した加害者が、「恐喝」として逆に打って出ることがあるかもしれません。やはり一定のプライバシーへのダメージは覚悟する必要があります。証拠不足でかえって罪にならず、損害賠償も受けられないことだってあるかもしれません。

 じゃあ黙っておいた方がいいのでしょうか。既に強姦被害を受けている被害者が更にダメージを受けるいわれはありません。

 ただ、あなたが黙っていることで、第2,第3の強姦被害が発生するかも知れません。

 性犯罪者の再犯率が高いことは良く知られています。この理由の1つに、なかなか判明しないこともあると言われています。もし多くの人が被害を訴えでないとすれば、加害者は、訴え出てくる方が例外、「運が悪い」だけだと思ってしまうかもしれません。

 色々と、被害者が訴え出るのが難しい事情があるのは事実ですが、余り黙ってしまうと、それが加害者を助長するかもしれない、このことは心に留めて頂いた上で、適切な判断をしましょう。

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