98/12/12 佐藤ゼミ合宿 沖縄問題
沖縄問題として、いわゆる沖縄県代理署名訴訟(最判平8.8.28)をきっかけとして、主に憲法95条と現代日本の抱える問題について、少し憲法を離れてたりしつつ検討をしてみたいと思います。


Index


一 沖縄県代理署名訴訟判決

事件の概要

 国は、米軍用地として沖縄県内の土地を提供してきたが、使用期限が終了する土地について、その所有者との合意による使用権限の取得が見込めない状況にあったため、いわゆる駐留軍用地特別措置法の定める強制使用手続を開始した。この手続の過程で、知事は「署名等の代行」を関与することとされている(特措法14条,土地収用法36条5項等)ところ、沖縄県知事(Y)は、署名等の代行を拒否した。

 そこで内閣総理大臣(X)は、地方自治法151条の2第1項,2項により、Yに対し、当該事務を執行するよう勧告し、ついで職務執行命令を発したが、Yはこれらを無視したので、Xは地方自治法151条の2第3項に基づき、代行事務執行を命じる判決を求めたものである。第1審(福岡高那覇支判平8.3.25)ではX勝訴し、Yが上告。

判旨(要約)

  1. 署名等代行事務は、国の機関委任事務に該当し、その主務大臣は内閣総理大臣である。

  2. 職務執行命令訴訟においては、主務大臣の判断の優越性を前提に都道府県知事が執行命令に拘束されるか否かを判断するのではなく、主務大臣が発した職務執行命令がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきものである

  3. 駐留軍用地特措法は、憲法前文、9条、13条、29条3項に違反しない

  4. 沖縄県において駐留軍用地特措法を適用することが憲法前文、9条、13条、14条、29条3項、92条に違反するということはできず95条違反の主張はその前提を欠く

  5. 使用認定にこれを当然に無効とするような瑕疵があるか否かについては、本件訴訟において審理判断を要するものと解するのが相当であるが、本件各土地の使用認定について瑕疵があるとは認められない。

  6. 上告人に対する署名等の代行の申請及び本件調書の作成に違法の点はない。

  7. 上告人の署名等代行事務の執行の懈怠を放置することにより、著しく公益が害されることが明らかである。


二 一につき、憲法問題の検討

 前述判旨2,3,4に関して検討したい。

  1. 職務執行命令訴訟における、主務大臣と都道府県知事の関係(判旨2)

     無責任な言い方を最初から展開して申し訳ないが、私は行政法を全く知らないので、行政法上のことは分からない。

     ただ、判旨において、当然と言えば当然のことであるが、職務執行命令訴訟において、主務大臣が「上」で都道府県知事が「下」という上下関係ではなく、主務大臣の命令の適法要件を検討すべしとした点の理由付けに注目すべきであると思う。
     行政の内部関係とは異なり、たとえ★機関委任事務においても、地方自治の本旨から言って、それぞれ独立の機関であることを前提とせよ、ということを最高裁が明らかにした意味は大きいと個人的には思う。
     高裁の判断では、「国が先行行為として行う使用認定について知事に審査権が与えられているとは言えず、使用認定の違法、無効、違憲を理由として代理署名を拒否することは許されない」とされていた事と比較しても、この点の判示に関しては、地方自治に対する配慮がうかがえる。

    ★地方公共団体の仕事
    固有事務

    地方自治体が自己の責任と負担において行うべき本来的事務

    公共事務
    学校の設置管理、水道・ガス・電力などの事業、病院・診療所などの設置管理、市場・浴場・と場などの設置管理、埋火葬場・し尿処理事業、など
    行政事務
    一般警察事務、消防・水防のための権力の行使、交通の取り締まり(チャリ撤去なども)、未成年者、精神病者などの保護観察の為の規制事務、など
    委任事務

    中央政府または都道府県から処理を委託された事務

    団体委任事務
    地方公共「団体」への委託事務
    保健所の設置管理、伝染病予防その他衛生関係の一定の施設の設置および事業の施行、失業対策、など
    機関委任事務
    首長などの「機関」への委託事務
    戸籍・住民登録に関する事務、国会議員の選挙に関する事務、河川の維持管理、など
    (機関に委任される以上、議会等は口出しできない、とされる)

  2. 特措法の合憲性(判旨3)

     判例は、特措法の合憲性について、「日米安保条約及び日米地位協定が違憲無効であることが一見極めて明白でない以上」「これが合憲であることを前提として」特措法の「憲法適合性について審査」すべきであるとする。これに基づいて、特措法が「憲法前文、9条、13条、29条3項に違反するものということはできない」とする。

    (一) まず特措法の合憲性は安保・地位協定の合憲性と密接に関係する。なぜなら特措法は土地収用法を日米安全保障条約や日米地位協定の実施のために修正するものであるからである。
     この点は行田レジュメ等で検討されると思われるので、関連する資料を後ろに掲載するに留める。

    (二) 特措法の合憲性は、判例も示すように、安保条約等の合憲性と関係する他、もう1つ、土地収用に関する「正当な補償」(憲法29条3項)とも関係する。この点、前述最判平8.8.28は判旨では軽く触れたにすぎない。しかしここでは最判平10.11.10を下に検討する

     すなわち、土地が強制的に収用される事については、正当化し得るとしても、「正当な補償」があるという前提で行われねばならない。ところが、現実には、土地収用に関して、契約地主と、強制収容された地主(いわゆる「反戦地主」)とで、実質的な賃料に相当の格差がある(右図)。つまり、@補償金額と契約金額の格差、およびA両者の課税上の格差、の2点が、憲法29条3項の趣旨から見てどうなのか、このうち、Aが争われたのが、最判平10.11.10である。

     この点最高裁第2小法廷(園田裁判長)は「特別措置法一四条に基づき同法三条の規定による土地の使用に関して適用される土地収用法七二条所定の使用する土地に対する補償金は、所得税法三六条一項に基づき、その払渡しを受けた日の属する年における収入すべき金額として所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきものと解するのが相当」として、Aにつき、特に憲法解釈することなく、土地収用法、所得税法の解釈として、正当とする。

     しかし、憲法的観点からこの判決を正当化しうるか、私は疑問に思う。
     憲法29条3項による補償の程度については、従来から完全補償か相当補償かが争われ、特に、「社会国家的積極目的のための制限の場合には、完全な補償を要しないとする説が有力」(佐藤574頁参照)であって、この見解に基づけば、日米安保のためという重要目的であれば、この程度の差異は正当化されうることになるのかもしれない。
     だが、「財産の剥奪を正当化する「公共のため」ということが、補償の低減までも包含するとすることにはやや論理の飛躍があり、財産権の保証をあまりに相対化するものではないか」(佐藤575頁)。@契約地主に比して(税引き前に)7割しか補償されず、かつ、A(形式的な法適用を遵守するがために)税制上、契約地主と比べて1.5倍もの税金を払わされ、結論的に5割の補償しか受けられずに、強制使用が正当化されることには、(裁判ではAしか問題になっていないとしても)やはり憲法上重大な問題があるといえる。
     29条3項が具体的権利と解されるところ、「当然に憲法上補償請求権が発生」するのであるから、法律の規定を欠いても、「正当な補償」が受けられる筈である。

     尚、後述の沖縄県収用委員会裁決(平成10年5月19日→四)においては、@についても検討がなされているが、独立行政委員会には違憲審査権がなく、専ら法律解釈として、賠償額に不当性はないと判断している。

  3. 特措法の沖縄県への適用の合憲性(判旨4)

     判例は、@沖縄県内の土地を駐留軍に供することがすべて不適切不合理が明白で、国の適法な裁量判断の下に同県内の土地に駐留軍用地特措法を適用することがすべて許されない、とまでいうことはできないから、沖縄県において駐留軍用地特措法を適用することが憲法前文、9条、13条、14条、29条3項、92条に違反するということはできず、A駐留軍用地特措法が沖縄県にのみ適用される特別法となっているものではないから、95条違反の主張はその前提を欠く、とした。

    (一) @について

     この点は、特措法の適法性と別に論じられるべきであるが、運用面においても、特に29条3項に実質的に反する運用がなされている点を重視して、(仮に特措法自体は憲法違反でなくても)運用違憲とする余地があるものと思われる。

     9条関係は、特別にはここでは展開しないが、論じてみても面白いかも知れない。

     あと、13条14条に関しては、例えば米軍の演習による騒音等の被害をどのように考えるのかと関連するものと思われる。安保が合憲だとしても、住民が劣化ウラン弾や爆音にさらされねばならない点を司法判断することは困難なのであろうか・・・。例えば、選挙訴訟のように「違憲状態」とでも宣言することは無理なのであろうか。司法府が住民の幸福追求権をどう守ってあげられるのか、検討の余地があるように思う。

    (二) Aについて

     この点は、私は違憲とするか、少なくとももっと実質的な判断をすべきであったと思う。

     憲法95条は、判例の言うような、単純に1つの自治体に適用される法のみが「一の地方公共団体のみに適用される特別法」となるものではない。
     なぜなら、同条は、国による不当な立法により地方自治体が不利益を受けるのを防止するためのものだからである。
     とすれば、同条の「一の地方公共団体のみに適用される特別法」とは、「特定の」地方公共団体に適用され、その結果、その地方公共団体が不利益・不平等な扱いを受けることになる法律、と解すべきである(佐藤279頁参照)。

     これを沖縄県と特措法において考えるなら、確かに特措法は沖縄県のみに適用されるものではなく、また実際沖縄県以外にも適用されているものである。しかし、在日米軍基地の7割が沖縄に集中している現状からすれば、実質的には特に沖縄県に不利益・不平等を及ぼす法律であるといえ、95条の「特例法」に当たり、住民投票なしには法律は制定できず、従って現行法は違憲無効ではないだろうか

     


三 駐留軍用地特別措置法の改正

改正の経緯

 国は米軍に土地を貸しているが、これは国が地主から借り上げた物である。

 しかし、国が地主から借りられないときはどうするか。通常は土地収用法による土地収用を行うが、米軍地に関しては、その特則である特措法にて行われる。

 すなわち、国と地主との契約がまとまらないとき、国は特措法(土地収用法を準用)により、土地収用委員会の使用の裁決をもらうことで、適法に使用できるようになる。

 ところが裁決には時間がかかる。しかも土地収用委員会は各県の独立行政委員会にあたるものであり、特に沖縄においては国の主張が通るとも限らない。そして97年5月17日に多くの土地の使用期限が切れるのをにらんで、97年4月17日、特措法適用下における土地収用委員会の権限を大幅に縮小する特措法の改正案が成立(衆参にて圧倒的多数が賛成)したのである。

 その内容は2点ある。まず1点目。改正前特措法によると、裁決が出るまでは適法に土地使用が出来ない。そこで@収用委員会の手続きが終わるまでは国が土地を使用できるようにしようとした。

 さて、土地収用委員会は却下(土地収用法47条準用)あるいは使用又は収用(同47条の2準用)の裁決を行う。ここで却下となったとき、その不服(再審請求等)を建設大臣に申し立てることができる(同129条準用)。改正前においては、この却下後には適法に土地を使用することが出来なかったが、A建設大臣への再審請求中は土地を使用できるように改正した。

 国の利益に沿って建設大臣が対処するだろうから、土地収用委員会による却下は法的には占有を不法とすることすらできず、特措法に関する限り、土地収用委員会の権限はきわめて弱くなったのである。


四 三につき、憲法問題の検討

  1.  前述二で検討した「特措法」とは、平成8(1996)年段階での特措法、すなわち、改正前特措法である。そして、改正後において、合憲性が強くなったとはいえないから、前述の憲法29条3項、95条違反は強く疑われる。

     加えて、@Aでみた「改正」は、その違憲の度合い、特に95条違反の度合いを強めるものである。仮に平成8年判決時が95条につき合憲であっても、改正により、違憲となったと評価することもできるのではないだろうか。

     更に、@Aの手続において、適正とは言い難いものがあり、憲法31条または13条の要求する適正手続に反し、違憲となる疑いがある。

  2.  ところで、この法改正後の平成10年5月19日、沖縄県収用委員会は、強制使用の裁決申請の一部について、却下の裁決を下している。しかし、前述@Aの通り、未だ、「不法」占領ということにはなっていない。

     収用委の結論は、約一年にわたり十一回にも及んだ公開審理で、すべての施設に対する地主の意見を聴いた上で導きだしたものである。ところがこれが全く無視されざるをえなくなる訳である。なんの為の土地収用委員会なのか。


五 最後に〜沖縄から安全保障・地方自治を再検討する〜

  1.  以上検討してきたように、沖縄という地方自治体を非常に軽視した国の取り扱いは、復帰20年を経ても全く変わろうとしていない。

     以下、資料のみを並べる。私は、21世紀に向けた、@地方と国のあり方、A安全保障と国民の利益の問題を討論できることを望む。

  2. 自衛隊の実体(出典:平成9(1997)年度「防衛白書」など)

    (一)自衛官
    自衛官272,358人
    即応予備自衛官
    1,373人
    予備自衛官
    47,900人

    (二)陸・海・空
    陸上自衛隊18万人体制 13個師団・2個混成団(戦車1200両)から
    16万人体制 9個師団・6旅団体制(戦車900両)への移行
    海上自衛隊
    10個護衛隊から7個護衛隊への移行
    航空自衛隊
    28個警戒群(戦闘機350両)から8個警戒群・20個警戒隊(戦闘機300両)への移行

    (三)防衛予算の使い道
    (総額49,475億円 平成9(1997)年度)
    人件費食料費43.0%
    装備品等購入費
    18.9%
    維持費等
    18.0%
    *基地対策経費(米軍駐留費用含)10.9%
    施設整備費
    4.4%
    研究開発費
    3.2%
    その他1.4%
    総計100.0%
    *基地対策経費(5000億円強:平9)のうち、
    1611億円が沖縄県の自衛隊・米軍基地に使われています。

      (四)国家予算との対比
    (総額773,900億円 平成9(1997)年度)
    地方交付税交付金20.0%
    社会保障費
    18.8%
    公共事業費
    11.1%
    文教及び科学振興費8.2%
    防衛費
    6.4%
    恩給関係費
    2.1%
    国債費
    21.7%
    その他11.7%
    総計100.0%

    (五)いわゆる「思いやり予算」の実態(単位:億円 平成8(1996)年度) 
    1, いわゆる「思いやり」分2,735
    2, 1,を含めた、防衛施設庁分の負担総額4,631
    3, 政府保有地賃借料設定試案1,546
    4, 2,3,を除いた政府負担総額212
    政府米軍駐留費用負担総額(2+3+4)6,389

  3. 沖縄県の実態(出典:沖縄県HP)

    (一)県の土地に占める米軍基地の割合(平成8年1月1日現在)
    県名割合基地面積(千m2)
    沖縄県(1位)10.73%243,062
    全国(平均)0.26%(合計)984,873
    尚、沖縄県が提供している施設は合計40。全国の7割に当たる。

    (二)都道府県民所得(平成6年度)
    県名所得額(万円)対平均
    沖縄県(47位)21271.2%
    東京都(1位)441148.3%
    全国298100.0%

    (三)新卒者の無業者率(平成8年度大卒者比)
    県名比率人数
    沖縄県(1位)39.5%1,073
    東京都(40位)14.4%21,082
    全国15.7%(計)80,366

    (四)都道府県の自主財源(平成7年度)
    県名金額(百万円)比率
    沖縄県(47位)141,64022.4%
    東京都(1位)5,276,63975.3%
    全国(計)25,367,32948.0%


六 参考資料等


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