南口腔ケアセンター(京都)における要介護者自立支援への取り組み
○上田 賢 藤井冨美子 石原孝司 横田 誠 長谷川一弘 徳地正純 林 甫
緒 論 高齢社会を迎え、地域歯科医療は診療室に限定されたものだけでは地域住民のニーズには応えられなくなった。京都府歯科医師会南支部は、平成10年4月に「南口腔ケアセンター」を設立し、要介護者の自立支援に取り組んでいる。今回、その設立経緯、運営マニュアル、活動実績等について報告する。
南口腔ケアセンターの設立
京都市南区は、平成11年1月の推計で人口97,995人、その内65歳以上人口がl5、381人で高齢化率は15.7%(京都市全体ではl6.4%)である。農・工・商・住宅地が混在した、都心部周辺型の地域性で、そのためか、4か所の特別養護老人ホ‐ム、7ケ所のデイサービス・センタ−があるなど、他の区よりも福祉施設が集まっている。
この南区内で開業あるいは勤務する歯科医師50名弱の会員によって京都府歯科医師会南支部は構成されている。当支部では平成8年より地域歯科保健・医療・福祉の融合と充実をめざし、地域幽科委員会を中心として、区内の特別養護老人ホーム、ヂイサービス,センターにおける健診、介護者教室、スタッフセミナ―をはじめ、地域の病院、訪問看護スチーシ・ンでの口腔ケア研修会、地域医師会や医療福祉交流ネットワ−クヘの参加、また、訪問歯科衛生士養成講座の開催などの活動を行ってきた。ボランティア的な活動から始まったこれらの事業も継続していくことによって、徐々に多くの訪問診療、訪問口腔ケア等の二一ズを生むようにな.た。これらのニーズを受ける対外的な受付窓口の明確化、一元化のため、またこれらの二―ズにより組織的に応えていくために、「南口腔ケアセンター」を設立することになった。
南口腔ケアセンターの概要
@目的
・在宅での口腔ケアを普及、充実させることにより、在宅要介護者の健康の保持・増進を図る。
・受付窓□の明確化と事業母体の創設。
・訪問歯科衛生士の育成、組織的活動拠点づくり。
・訪問診療・の支援、充実
A受付・窓口
B運営
・南区を東・中・西,3地区に分け、それぞれに地域歯科委を担当者として配置する。
・支部会員よりアンケートにより訪問診療協力医を募り、その診療所のある地区の訪問診療協力医とする。(現在20名)
・担当となった訪問歯科衛生士は、ただちに利用者の主訴や障害の状況について情報収集し、口腔ケアアセスメントを記入、センターに提出後、利用者宅・施設の地区担当歯科医に訪問診療を依頼する。 また必要に応じ保健所など関係者への連絡を本人または家族、介護者に助言する。
・訪問診療は地区でのグループ診療とし、その中で主治医を決める。主治医はグル−プ内の歯科医師と協議しながら利用者の要望に迅速かつ丁寧に対応する。(図2)
・主治医は、初診日には訪問歯科衛生士を同行し検診および応急処置を行う。その際、「訪問指導記録表」及びΓ訪問歯科衛生指導指示書I」を記入し南口腔ケアセンタ−に提出する。それに基づき訪問歯科衛生士は、口腔ケアプランを立て、口腔ケアおよび指導・訓練を行い、訪問の都度「訪問歯科衛生指導指示&報告書U」を提出し主治医の指示を受ける。(写真2)
・訪問診療に際し、全身管理が必要となった場合はセンタ―のネットワークを使い医科の主治医の協力を得たり、必要に応じ第二次医療機関に搬送し処置することができる。
・本センターにて取り扱ったケースは事例検討会(2か月に1度開催)にて報告・検討する。(写真3)
・会員からのセンター利用申し入れについても同様の取り扱いとし、会員の訪問診療を支援する。
・南支部会員は随時、地域歯科委員会に協力医を申し出て南口腔ケアセンターに登録される。
・訪問歯科衛生士は、訪問にあたり通勤途上等、公務上の事故及び医療事故の保障は各医院の労災保険及び責任賠償保険と南支部のかける傷害保険の併用による。
南口腔ケアセンターの活動報告
設立から平成11年3月までの1年間の訪問診療、訪問口腔ケアの活動状況は以下のとおりである。
平成l0年 4月から平成□年3月までの1年間で、利用者の総件数は 213件 その男女比、年齢分布、申し込み者の内訳は、(図3)、(図4)、(図5)のとおりである。利用者の年齢は 49 歳から 99 歳までと幅があり、平均は 79.7 歳である。「南口腔ケアセンター」では、利用するのに年齢制限はなく 65 歳以下の利用者もかなりあるのが゛特徴である。
特別養護老人ホーム、デイ・サービスセンター、患者(利用者)本人からの申し込みが多いのは、これまでの健診事業等ボランティア事業によって、かなりニーズの掘り起こしが成された結果と思われる。またネットワークの充実から、医師や訪問看護ステーションからの申し込みも増えている。
主訴はやはり義歯に関連したものが圧倒的に多い。(図6)治療内容もこの主訴に対応している。 1ケースあたりの訪問治療回数の分布は(図7)のとおりで、平均 9.4 回で、これもやはり、義歯関連の治療が多いからであろう。
これに対し、口腔ケアの内容の内訳では、口腔内の清掃から摂食、咀嚼、嘸下、発音等の機能訓練まで多岐にわたっており、また、1ケースあたりの平均ケア回数も 12.8 回と治療の平均回数を上回っている。(図8、9)
これは、主訴の改善が、単にそれに対する治療だけでは望めないケースが多いことを示している。要介護者の自立度の向上には訪問歯科衛生士による口腔ケアが不可欠である。
この他、南□腔ケアセンターの事業として、
・特別養護老人ホーム、デイサ−ビスセンタ‐における健診・指導(ボランティア)(写真4)
・特別養護老人ホーム入居者の義歯の名前入れ
(京都府歯科技工士会、歯科衛生士会の協力を得てのボランティア) (写真5)
・訪問歯科衛生士養成講座の開催
・口腔ケア器具の購入、管理
・講師を招いての研修会の開催
等を定期的に行っている。
まとめ
南ロ腔ケアセンターが動きだして、まだ、1年ほどであるが、その利用者は確実に増えてきている。また、申し込み者のデータからもわかるように、ネットワークの充実とロ腔ケアの地域への普及に貢献してきつつある。現在の社会状況から、今後さらに二―ズが高まっていくことは必至である。訪問歯科衛生士のマンパワーの確保や、仕事にみあうだけの手当の保証は急務である。
京都市の委託事業である「寝たきり老人歯科保健事業」で当支部に依頼の来たものについてはすべて南口腔ケアセンターの事業として取り扱い、担当医に市から支払われる事業協力費の一部を一律にセンターに拠出するよう支部会員の承諾を得ている。センターは、もちろん、収益を目的としていないが、設立は南支部からの基金により、運営は支部会員からのセンター利用料(半年毎に更新)と「寝たきり老人歯科保健事業」の拠出金に頼っている状況である。
今後、介護保険制度の実施もにらみ、組織的にも、対外的にも、また資金面でも、いかに地域社会、地域行政のなかに根付かせ、浸透させていくかは大きな課題である。