下京西部医師会報No269掲載記事より
『南口腔ケアセンター』紹介
歯科衛生士 藤井 富美子
《浅い歴史ですが‥・》
2〜3年前「在宅介護」が注目される中、「歯科はどうなっているの?」とやきもきしながらも、積極的に動けていないために情報も得られていませんでした。数名の歯科衛生土が個人的にホームヘルパーの講義を受け、在宅訪問に備えていた頃、地域の高齢者サービス(デイサービス)と手を結び、お口のことで困ってられる方の在宅訪問診療・口腔ケアを南区歯科医師会が提案され、参加させていただきました。
デイサービスの健診では、2週間前に利用者・家族の方にアンケートで、日頃の手入れの仕方、毎日の食事の様子、お口の事で困っておられることなどをたずねておきます。また、毎日のケアに少しでも役立てていただこうと、まず スタッフの方に口腔衛生指導を受けていただき、意識を高めてもらっています。
《「南口腔ケアセンター」が開設されました!》
他の区でも訪問歯科診療事業は行われていますが、昨年4月 南区歯科医師会は「寝たきり老人歯科保健事業」の年齢制限をとっぱらい、対象外の方にも利用してもらえるよう、より積極的に取り組むために開設されました。患者さんや介護者、福祉関係スタッフからも直接電話・FAXで相談・申込みを受けつけています。歯科医も歯科衛生士も登録制で、現在歯科医20名・衛生士9名で動いています。
《仕事内容は‥・》
デイサービスでの健診結果や、訪問看護の看護婦さん・介護支援センター・病院・診療所・直接本人さんからの『訪問診療申し込み』で、まず患者さんのお宅へ歯科衛生士が伺う事から仕事が始まります。主訴はもちろん、全身状況・かかりつけ医・服薬状況・社会サービスの入り方・―週間のスケジュール・家族の介護状況、歯科は機械や材料が多いので、先生の訪問の際の駐車場も調べます。
この「下西ネット』では依頼先からそのような情報がいただけるので大助がりです。その分、前もっで性格など注意すべき点も教えていただき、ドキドキして訪問することもあります。先生の治療終了後2〜3回の訪問で終わることが多いですが一生お忖き合いすることになりそうな方もおられます。
《お年寄りの口腔ケア》
多くのお年寄りが義歯に不満をもっておられます。私もその不満は長い間、義歯の不出来と思っていました。口腔粘膜の状態や口腔乾燥、麻痺や不随意運動、高齢による筋力そのものの低下などが原因で、思うように使えないことがある事を訪問の中で初めで知りました。虫歯も若い人・元気な人とでは大違いです。『歯頚部う齲』‥・歯肉より下の部分の虫歯で、ホキッと歯冠部全体が折れます。
最近注目されているのが「誤嚥性肺炎が口腔ケアで予防できる」という報告。寝たきりになられた原因の多くに脳血管障害があり、嚥下反射や咳反射が鈍くなり、ご自分の唾液一つ飲み込むのに肺や気管に入ってしまう!余程口の中を清潔にしておかないといけないのに、歯磨きしようにも、洗面所に行けない、手の動きが充分でない、歯や歯肉の状態が複雑で汚れが着きやすく取れにくい、唾液の出が悪く、舌や頬の動きも悪く自浄作用そのものが悪い!
毎日の手入れを自分でしてもらうため、先程の事前調査の段階で、洗面所に一緒にいって蛇口の高さや捻り具合、食卓の椅子の引き具合、座った高さ・姿勢も見せていただきます。『なんで歯科治療にそんな事まで話さなあかんの?』とけげんな顔をされますが、大事なことです。
《これからもよろしくお願いします》
初めてのお宅を訪問するのは緊張しますが、新しい出会いの始まりでもあり、心ワクワクなのは皆様も同じではないでしょうか。主訴の解決に努めながらも、本当は何が大事かを先生とも相談して勧めます。抜歯の際の麻酔・止血時間、麻酔からくる嚥下障害・誤嚥……。全身とのかかわりで気になることがある時、『下西ネット』を通じていただく情報はありかたいです。何よりこの地域に住むお年寄りにとって大事なことです。
今後、「口から食べて元気になる」「最後まで口から食べる」を目標にすれば、まずます両方で協力し合わねばなりません。
歯科診療室では考えもしなかった痴呆の方、長年の介護で疲れておられる家族、その患者さんにかかわっておられる様々な職種の方などとのコミュニケーション、全身疾患をかかえての在宅での療養にどう関われば良いのか……。我々はお口のトラプル解決に訪問するのですが、そこで終わっていては診療室が在宅に変わっただけです。お年寄りの生活全体の中で口腔衛生指導を行うという新しい仕事につけて本当に感謝しています。
介護保険導入後 歯科の訪問はどうなるのか、その後、医療はどうなるのか?見当つかない事もありますが、皆で先に見本作ってしまえたら……と思っています。