alpinisme [n. m.: アルピニスム]
語義(1)アルピニスム [alpinisme {F.}]
18世紀、H.B. de Saussureド ソスュールはLe Mont Blanc モンブラン登頂を提唱し、Jachques Balmatジャック バルマとMichel G. Paccardミッシェル パッカールが登頂した。(登頂は1786年8月7日)彼らの登頂に賭ける情熱を後世、Alpinismeアルピニズムと称し、賛えた。以後、アルプスのみならず困難を伴いながらも情熱を傾けて登山することをアルピニズムと呼び、登山の代名詞となった。
語義(2)本格的な登山
一般的にアルピニスム alpinisme は「ピッケルを必要不可欠としたり、岩稜での山岳登攀を含む登山」であり、ある特定地域の登山行為だけでなく、このような障碍を乗り越えながら行う登山をもアルピニスムと呼ぶ。また、日本では「困難を伴う」と呼ばれている「危険な冒険的要素を含む登山」(欧州的表現)という意味合いも含む。また、「本格的な」という言葉のない、いわゆる「登山」とか「一般縦走」という言葉はランドーネ randonnee とかトレッキング trekking 、登高 ascension が妥当な場合もあるが、特に娯楽登山やスポーツ登山の場合はこう呼ぶほうがいいと思われる。つまり「本格的な登山」 alpinisme は、「山岳登攀を含む登山」という意味合いと「冒険的登山」という意味合いを持つ。
Alpinisme アルピニスムという言葉の語源はフランス語。ドイツ語ではBergsteigen, 英語ではmountaineeringをアルピニスムの対訳語として使い、かつフランス語 Alpinisme をほぼそのまま借用して使っている事情は全く日本語のカタカナ用語と同じこと。ちなみに、大きな英語辞典(webster's,etc.)を開くと alpinism アルピニズムの語源はフランス語 Alpinisme であると表記されてる。日本の国語辞典では原語が alpinism という英語表記で書かれてることが多いので注意が必要。
「アルピニスムが好きです。(j'aime l'alpinisme.)」とフランス語で言った場合は、「登山が好きです。」よりもむしろ「山岳登攀が好きです。」という意味合いになります。
なお、「アルパインスタイル」le style alpin という言葉は、ヒマラヤなどの高所登山の方法の一つを示す言葉で、酸素や固定ロープを使わずに、アルプス登攀と同じやり方で登ることを意味する。つまりは、日本の冬山登攀と同じスタイルで登るということでもある。
山に登ることとして「登山」、この語が使われたのは1834年、天保5年の戸隠山信仰について書かれた信濃奇勝録に見ることが出来る(信州大学、戸隠信仰研究者、牛山佳幸氏曰く)が、実際には江戸中期ごろからの用語ではないか、とのことである。明治期に入ってマウンテニアリングの訳語としても用いられて現代でも山岳活動を表わす意味に最も使われている言葉である。勿論意味の変遷はあったとしても、日本の登山史を辿る上で、これが明治期以降の西洋アルピニスムからの造語ではないことを特筆しておこう。
我々は普段、日本の山を巡りながら「日本式登山」と言わず、単に「登山」と言っています。しかしながら、場所が変われば登り方も変わり、又、さまざまな登山形態があると言うことだけは知っておくべきだろう。
また「登山」という言葉自身が「アルピニスム」より歴史も深く、語義も豊富なものをもっていますから、どんな定義も言い足りないものがあるように感じられます。登山観にたいする議論を時々見かけるけれども、それは「登山」を自分勝手な考えに(例えばアルピニスムに)押し込めようとしているからではないか、と小生は考えます。
最近、フランス語の文章で le montagnisme (モンタニスム)という言葉を見かけます。これは、英語の mountaineering の訳として使われています。我が国の「登山」はフランス語に訳す場合、この le montagnisme(モンタニスム)が適当ではないだろうか、と考えています。Alpinisme はアルピニスムというカタカナ日本語だけに用いるべきであり、「登山」にはこのモンターニスムとかマウンテニアリングだけを訳語として使えば良いのではないだろうか。ま、小生の用語集には旧来からの解釈を採用しているのですが、、、
ところで、先ほども申しましたが登山という言葉は輸入語でなく江戸時代から有る言葉ですが、明治時代にアルピニスムが輸入されてから、どうも登山の捉え方が各人、異なるような気がしてなりません。
修行、スポーツ、娯楽、体育、冒険、探検、その他、いろいろな考え方の中で揺れ動いているのが「登山」という言葉の実態のようです。
アルピニスムという言葉はフランス語ですが、英語ではmoutaineering「山をやる」という言葉に訳され、日本語でも、それではとばかり、「登山」という対訳語が付きましたが、実のところ、alpinismeは、「山岳登攀する」という言葉に近いのです。なぜなら、alpinismeの発祥が「アルプス登山」であり、未知の世界の開拓こそが、初めてモンブランを1786年に登頂したときに付けられたアルピニスムという造語だったからです。
翻って日本では、未知の世界の開拓というよりも、自己修練とか修行という言葉とともに古くから語られていたのが「登山」だったと考えます。例えば、日本ではアルピニスムを言うとき「より困難を求めて」とよく言いますが、それさえ、宗教的な次元の、修行的な感覚でいっている気がします。
どちらが、正しいかというより、「登山」の意味とアルピニスムの意義が元々違うのだという認識がされないゆえに、時々、わけの分からない議論になります。先鋭的な登山は云、と言うときの議論は「ヨーロッパ的な登山スタイルが正しい」という説や「より困難を求めて」の行為こそアルピニスム登山の本質であると言うようなことで議論がでますが、、、
アルピニスムと登山の違い。これは、現代にいたる日本登山史上の注目すべき問題であることでしょう。
(up date 98.2.18)
関連用語(1)
hymalayisme [n.m.:イマレイスム] ヒマラヤ登山
andinisme [n.m.:アンディニスム] アンデス登山
alpinisme が「登山や山岳登攀」というアルプス登山に限定せず、一般行為をも示すのにたいして、 hymalayisme 「ヒマラヤ(における高所の)登山」や、andinisme「アンデス(における高所の)登山」は明らかに地域性を持っている言葉です。これらはある地域を特定した高所登山の活動を示しています。
ヒマラヤなどの高所登山においても le style alpin アルパインスタイル もしくは l'expedition legere 軽装遠征 と言う言葉があるが、これは la technique de siege 包囲法などの l'expedition lourde 重装備登山 にたいして en style alpin アルパインスタイルで(alpinisme アルプス登山と同じ方法で)という意味。
関連用語(2)
(a) escalade alpine [n.f.エスカラード アルピーン] アルプス登攀
地域を限定した(アルプス山群における登攀活動:フリー及び人工)という意味です。
80年代にMichel Piolaが「モンブラン山群ルート図集1,2」(なんと500本のルート!。もちろんレビュファルートもPiola達によって評価を改められて記載されている。)を完成させ、モンブラン山群は falaise de montagne「山のフリークライミング岩壁」としても格好の場を提供している。(Le Topo du massif du Mont Blanc 1,2) 用語集参考文献欄参照
(b) ascension [n.f.アサンスィオン] 登高(登山、登攀)
漠然とした登高を表わし登山及び登攀行為を示す言葉です。
(c) montagnisme [n.m.:モンタニスム] 登山
この言葉は mountaineering の対訳語として用いられています。英語とフランス語は本当に互いにしょっちゅう影響し合っているようです。日本語の「登山」に最も近い言葉でもあります。
(d) terrain d'aventure [n.m.:テラン ダヴァンチュール] アルパインクライミング
なぜ、「冒険地域」(直訳)がアルパインクライミングという意味になるのか、と思う方々も多いと思います。しかし「危険を冒す、偶発的な事故の起きる可能性のある世界」と書けば納得されるかなと思います。
ちなみに、le grimper en terrain d'aventure も同義語でアルパインクライミングの意味です。
付録 「登攀等級」について
フリークライミングのグレードはフレンチグレードが国際的標準になろうとしています。
アルピニスムの世界では登攀等級はUIAAグレードとフランスグレード(1級から7級まで)はほぼ同じです。今、フランス式のフリークライミンググレード(現在、1級から8級まで)はこれらアルパイングレードとの脈絡を保ち、クライミンググレードの一貫した評価の基準と成ろうとしています。
フレンチグレードとは言っても昔からあるアルパインの1〜6級評価の延長なのです。歴史的な登攀級数の評価方法であり、フリークライミングという新しいジャンルの評価にもアルパインクライミング評価との一貫性を保ち続けています。難度1級から5級までの補助級数は[-]マイナス、ノーマル、[+]プラスのまま利用し、登攀難度5級からは新しい補助級数a,b,c (最近はこれにも[+,-]があるが)となっています。
なお、5、6級は [マイナス,ノーマル,プラス] や [a,b,c] がまだ、ルート開拓された年代により混在しています。
たとえば6a と言えば「ああ、6級マイナーだな。」と感じられるクライミンググレードの古くからの連続性意識はクライミングの歴史や難度を実感して辿る上で非常に大切である。温古知新。ヨセミテグレードとの比較は仏和山岳用語集第4部を参考下さい。