丘の上にたどり着き、綱を解きほぐし「よし」の声とともに束縛から逃れた犬は自由を得て疾風となり駆け廻る。眼下には小川が流れ数軒の家がありその後、つまり私の立っている対岸は森となっており、数キロ先には幾多の喜びや悲しみを蔵(かく)した巨大な団地が広がっているのだが、そうした人間の構築物が見えないのは幸とも言える。ここちよい風が森や小川を伝って丘を駆け上がり、汗ばんだ体を冷してくれる。茜色に染まって行く空に鳥達が遠くへと、やがて
しみとなっ行く。日常の慌ただしさを逃れ一時の充足を憶える。これが幸でなくて何であろう。
きのうの様な遠い日、遠い日の様なきのう、愛しき日々を想い起こす。
佐々木 和
略歴
1951 横浜市に生まれる
1976 多摩美術大学油絵専攻卒業
1987 上野の森美術絵画大賞展入選
1994 伊豆美術祭公募展大賞受賞
1996 画集出版記念として小品展を
ギャラリー鉄斎堂にて開催する
その他 個展、グループ展多数