「すごく」はごっついか?

 前にも書いたように、今や京都弁といえども広い意味での関西弁とそう大差はない。今回もそれに関連した話である。今回取り上げるのが、物事を形容するときの言葉。文法的にいうところの副詞の使い方。標準語で言えば「すごく○○だ」の、すごくに当たる部分の使い方である。
 非常に珍しいもの、特に大層なものを言葉で表現しようとした場合、形容詞となる言葉の頭に「すごく」をくっつけて使う。「すごく大きな音だ」とか、「すごく強い風」などだ。
 これ関西弁だとどうなるでしょう? 関西に住んでいる人や、少し関西弁を知ってる人なら、もうお分かりでしょう。そう関西弁だと「ごつい」が思い浮かぶでしょう。実際しゃべるときには「ごつい」が「ごっつ」になり、「ごっつ大きな音や」とか、「ごっつ強い風や」などとなる。この言い方は、確か関西出身のタレントのテレビ番組でも「ごっつええ感じ」というのがあったから、ご存じの方も多かろう。
 また最近では、「ごっつ」と共に「めっちゃ」も使われているようだ。これまたテレビ番組の題名になっている。「めっちゃでかい音や」とか「めっちゃ強い風やな」などとなる。
 この二つの言い方は、確かに京都でも使われている。特に最近はテレビなどの影響からか、この言い方の方が主流のような気もする。でも京都にはもう一つの言い方がある。例をあげてみよう。
 例えば、すごく怖い映画を見たことを人に話す時、標準語や関西弁は、
 (標準語)  昨日見た映画は、すごく怖かった。
 (関西弁A) 昨日見た映画なぁ、めっちゃ怖かってん。
 (関西弁B) 昨日見た映画なぁ、ごっつ怖かったわぁ。
こうなるでしょうか。
ところが京都弁だと、
  昨日見た映画なぁ、怖い怖いねん。
となります。そう、すごく・ごっつ・めっちゃといった、怖いという言葉を修飾する語を使わず、怖いという形容詞を2回繰り返すのです。別に「怖い」だけでなく、「寒い」「暑い」「堅い」など一応どんなものでも使えます。
 ただこれは誰もが使うというわけではないようです。使われ方は年齢層と性別にあるようで、年輩の人よりは若年の男性が使うように思います。その上限は高校生から大学生くらいまで、よくいって20代半ばくらいまででしょう。もしかするともとは幼児語なのでしょうか。
 僕のイメージでは、高校生くらいの男の子が、友達同士の会話でよく使うイメージがあります。ですから市バスなどに乗って、通学途中の高校生同士が会話しているのに耳を傾けてみると、結構聞けると思います。
 このようにある程度年代で限られる使い方ですから、形容詞何にでも使えるとはとはいえ、実際には若者が使わないような形容詞、「喧しい(かまびすしい)」「姦しい(かしましい)」といった言葉は使わないですかね。ようは若者が使わないような形容詞や、少し難しい言葉では使われないように思えます。
 一番典型的なのは、ちょっと見たところ怖い感じ(=ヤンキー風)のおにいちゃんが、「怖い怖いねん」といってる姿でしょうか。その場面を想像して下さい。怖いというより、ちょっと笑えるでしょう?


言葉のなぞの最初へ

トップページへ