京都弁への第一歩「はる」

 柔らかな言葉で知られている京都弁だが、年輩の方達の使う京都弁、特に京都の旧市街に生まれ育った人のそれを除けば、今や広い意味での関西弁とそう異なることはない。多分関西以外の人たちからすれば、どれが京都弁で、どれが大阪弁かきっちりと聞き分けることは難しいと思う。日常的に関西弁の中で生活をしている我々でさえ、日頃の生活の中では違いなど余り意識をしていないように思う。

 とはいえ、関西弁の中でも、やはり京都弁は柔らかく、河内弁や泉州弁はきつく聞こえるのだから、ひとことで関西弁といっても、その中には多少の違いはあるのだろう。
 そうした違いは何からくるのか考えてみると、特定の方言=特定の地域のみで用いられる言葉は別にして、関西一円で一般的に使われているにも関わらず、京都弁では特に使われる言葉がある。その代表が「はる」だと思う。

 この「はる」は、関西で広く使われることばで、「先生が言わはる」などのように、簡単な敬語的表現として用いられているようだ。もちろん京都でもこの使い方もする。しかし京都弁で特徴的なのは、この「はる」を、自分が見たり(聞いたりした)他人の行為を、それを知らない第三者に説明する際に使われる場合があることだ。

 例えば1対1で同格の人同士が話しているとすると普通関西弁では、
  A:「昨日なにしてたん?」
  B:「オリンピック見ててん」
となる。ここには問題の「はる」は入っていない。敬語的表現が不要だからである。これと同じ会話が、年齢差がある者の間で交わされると、
  A:「昨日なにしてはったんですか?」
    もしくは「昨日なにしてはりました?」
  B:「オリンピック見ててん」
となる。年下のAが年長のBに対して「はる」を敬語的に使っているのがわかる。

 京都弁が違うのは、この会話で誰か別の人のことを話す場合なのだ。
  A:「昨日Cさん京都駅に行かはったんやて」
  B:「へぇーそーなん」
もちろん、この会話では、Aさん、Bさん、Cさんいずれも同格である。Cの行動を説明するのに、本来ならば敬語的な表現は必要ないはずだが、Cがその場にいないことで「はる」が使われるのだろう。これが京都では当たり前のように使われている用法で、非常に広い範囲に用いられる。

 多少なりとも敬語的な性格があるのでは?とお考えのあなた。そんなことありません。京都では、相手が子供や、猫・犬など、およそ敬語的表現の対象としては無縁の人(動物)にまで、この「はる」を使うのだ。
  「猫が塀から落ちはってん」
  「○○ちゃんがしばかはった」
 相手は猫や自分に暴力をふるった人。どうみても敬語的な表現を使う対象ではない。多分日本語の文法的には正しくないのだろう。でもこの「はる」によって、表現が和らげられ、聞く者に鷹揚とした雰囲気を与えているのは事実だ。

 さあ、みなさんもこの「はる」を使って、柔らかな気持ちになりましょう!(笑)使う際、単に「〜してはる」と言わ、ず「〜したはる」というと、よりネイティブ京都弁に聞こえるようです。


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