男は墓を掘る。己の生きた証として。
男は己の一生のほとんどを墓を作ることに費やした。
いわば、その行為こそが男の全てなのかもしれない。
自分が死んでも墓が残る。
そこに自分が存在したという証になる。
この墓はそう簡単になくなることはないだろう。
人のように簡単には。
自分を知る人間が皆、死んでしまえば自分の存在は忘れられる。
だが、墓があればそれは己の存在の証明となる。
そして墓は人よりも長い間、そこに残るだろう。
例え、墓の主が誰かを誰かが知ることはなくとも、
そこに誰かがいたということの証になるのだ。
墓は男自身であるといっても過言ではあるまい。


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