果て 1/x -hate-
2000 8/2


「お帰り、お母さん。 晩ご飯できてるから暖めようか?」
私は立ち上がって、母の夕飯をレンジにかけようとした。
母は帰ってくるのが遅い。
いつも、夕飯が冷めてから帰ってくる。

「食べてきたからいらない〜。」
やや呂律の回らない口調で母が答えた。
また飲んできたんだ。
母は嫌なことがあるとお酒を飲んでくる。
そういう時は当然、なにかいっしょに食べるわけで夕飯は食べない。

「わかった。」
たまには食べてくれたらいいのに。
そんなことを思いながら、夕飯をラップで包んで冷蔵庫にしまった。
それでも、この夕飯は朝にはなくなっている。
母が朝に食べるからだ。
それが母なりの優しさなんだと思う。

「お母さん、話があるんだけど・・・。」
私は机につっぷした母を揺さぶった。

「な〜に〜、お母さん疲れてるんだから明日にしてよ。」
眠そうな声で母が答えた。
明日じゃ遅いのに。
心の中ではそんな風に思っても口では何も言えはしない。

「わかった。」
とりあえず、私は母に返事を返しておいた。
母は朝早く出勤するから、朝に話す時間はない。
酔った母は嫌いだ。
でも、仕方ない。
母は私の為に苦労している。
女手ひとつで私を育てているのだから、さぞ大変だろう。
だから、私はそれ以上、母に何も言えなかった。

鏡に私の顔が映っている。
だんっ!!
私は手を鏡に叩き付けていた。
かしゃ、かしゃん。
落ちた鏡が割れてそんな音を立てた。
痺れた手を伝って何かが床に落ちた。
血だ。
素手で鏡を叩いたらこうなるのは当然だよね。
私は鏡を片づけてから、手に包帯をまいた。
明日は授業参観がある。
それを伝えたくて母を待ってたのに。
伝えても来ることはできないんだろうけど。
なんなんだろう、私って。
言いたいことも言えない自分が嫌い。


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