その時まで僕は優しかった
2000 8/6


第一笑

地面に弱りきった蝉が落ちていた。
僕は蝉を樹につかまらせてあげようと指を蝉に近づけた。
蝉は意外な程しっかりと僕の指につかまった。
僕は蝉の生命力に感動すら覚えた。
しかし、そいつは腹が空いていたのだろうか。
そいつはその空腹を満たすべく、口先を僕の指に突き立てていた。

「うぎゃ〜〜〜!」

その時まで僕は優しかったのかもしれない。
僕はとっさにそいつを指先から振り落としていた。
そいつらの口先は固い木の皮すら容易く貫通するほどである。
幸いにも僕の指に穴は開いていなかった。
もし僕が我慢さえしていれば、
そいつは世界でも希であろう血を吸う蝉となれたのだろうか。
しかし、それは考えたくもない恐ろしい話ではある。


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