雨童-あめわらし-
2000 9/10
「婆、雨が降るよ。」
「たくさんたくさん、大粒の雨が降ってくるよ。」
童女は嬉しそうに外に駆け出した。
空は青く青く澄んでいる。
青い空は雨が降りそうな気配など微塵も感じさせない。
それでも、童女がそう言えば必ず雨は降った。
「ほんに、あの子は雨童じゃのう。」
にわかに空が曇り、ぽつぽつと小さな雨が降り始める。
雨はすぐに地面を叩くような土砂降りに変わった。
その中を童女は楽しそうに駆けていた。
童女の村は貧しい村だった。
毎日、食べていくのがやっとの小さな村。
土地が痩せてあまり作物がとれないのである。
村を移したいのはやまやまだった。
しかし、それをするだけの余裕はなかった。
新しく土地を興すのは非常に手間がかかるのである。
山一つ越えた所にある村もまた小さかった。
しかし、蓄えのある裕福な村だった。
童女は老婆と共にその隣村にやってきていた。
時に物々交換のために村の人間は隣村に足を運んだのだ。
「婆、あれは何?」
童女が村の中央にある祭壇を指差した。
そこでは老婆が何やら祭壇に祈りを捧げていた。
「あれは雨乞いをしているのさ。」
「今の時期は雨が降りにくいからね。」
「ああやって、雨を降らせてもらうんだよ。」
「うちの村でもしてもらえばいいのに。」
「雨乞いしてもらうには貢ぎ物がたくさんいるんだよ。」
「ほら、見てごらん。」
老婆が指差した先にはたくさんの供物があった。
「雨が降ったら雨乞い師はあれを全部貰うのさ。」
「もし、私が雨を降らせたらあれの半分貰えるかな?」
「もちろん貰えるともさ。」
童女の突飛な質問に老婆はそう答えていた。
もちろん、それは本心からではない。
童女に対する他愛もない嘘のはずだった。
それは老婆が村長と交渉をしている時だった。
「もし明日、私が雨を降らせたらあれの半分貰ってもいい?」
村の中央にある貢ぎ物を指差し、
童女は子ども特有の無邪気さで村長に頼み込んでいた。
「もちろんだともさ。」
誰もが童女の言葉をただの戯言だと思い込んでいた。
子どもの真似事で雨が降るわけがない。
そう誰しもが考えていた。
「天神さん、竜神さん、雨の神様。」
「この辺り一面、雨を降らせておくれ。」
童女の掛け声とともに空が曇った。
そして、雷が落ちると同時に雨が辺りに降り注いでいた。
雨を降らせる娘がいる。
その噂はたちまちのうちに拡まった。
噂はどのように拡まったのだろう。
かの地に一人の娘あり。
その美しさ玉の如く。
娘が祈りに天も涙する。
天神様に愛されたその娘、雨乞い姫と名を申す。
それは童女が旅にでる前の物語。
これをきっかけに童女は各地を旅するようになるのである。
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