発明の裏
2001 6/3


博士がすっごい発明を完成しました。
なんと、博士は転送機を作ってしまったのです。
あっ、ちなみに私は博士の助手です。
一応、女の子なんですよ。

「じゃ、ちょっと試しに入ってごらん。」
そう言って博士は私の身体をポッドの中に押し込みました。
ちょっとばかり嫌な予感はしました。
だけど、それよりも好奇心の方が大きかったのです。

「それじゃ、いくよ〜。」
博士はポチっと何かのスイッチを押しました。
ヴォンという音と共に転送機が稼動を始めます。
次の瞬間には私は隣のポッドに移っていました。
博士の見える位置が変わっているので間違いありません。

「きゃああああ・・・」
何か悲鳴のようなものが何処かから聞こえた気がしました。

「博士、今の声は何ですか?」
私は思わず博士に尋ねていました。

「断末魔の叫びじゃないかなあ・・・。」
博士は私から顔をそらすようにして、ボソっと呟きました。
なんだか、すっごい不審です。

「それって、どういう意味ですか?」
私は博士に詰め寄っていました。
こう見えても、私は格闘技を習っているので結構強いんですよ。
もちろん、博士なんてイ・チ・コ・ロです。
すると、博士は(渋々)転送機について詳しく説明してくれました。

「この転送機はね、こっちに入れたものをあっちで構築するものなんだよ。」
「これはわかるね?」
博士は説明のため、りんごを転送機のポッドの中に置きました。

「それで、転送機が稼動したとするね。」
博士はりんごを隣の転送機のポッドにも置きました。

「この状態を、君はどう思う?」
博士は私を振り返り、質問してきました。
どういう意味でしょう?

「りんごが2つありますね。」
私はとりあえず、ありのままの状況を答えました。

「そうだね。」
「じゃあ、君は元のりんごをどうすればいいと思う?」
また、博士が尋ねてきます。
博士は何が言いたいのでしょう?

「どうすればいいって何ですか?」
私には博士の質問の意図がよくわかりません。

「だって、この状態だと同じりんごが2つあることになるじゃないか。」
「だとすると、元のりんごは必要ないと思わないかい?」
博士は転送元のポッドにあったりんごをガリッっとかじりました。
それで、なんとなく、博士の言いたい事がわかったような気がしました。

ようするに、転送元の物体は転送先で複製されると。
それで、転送元の物体は必要ないので処分してしまうと。
あれ?
だとすると、あの悲鳴は転送元の私の悲鳴?

「は、博士、もしかして元の私は死んじゃったんですか?」
私は思わず博士に詰め寄っていました。

「う、うん。」
「2人いても仕方ないしね。」
ショックです。
あまりにもショックです。
開いた口が塞がらない感じです。

私は博士をボコボコにした後、心に誓いました。
二度と博士の発明の実験台にはなるまい、と。
あ、でも、博士の助手はやめませんよ。
だって今の時代、勤め先がなくなると困るじゃないですか。


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