病源菌 第2話
2000 1/24
私は昔、研究所と呼ばれるところにいた。
人を殺す細菌を放つ生体兵器。
私はその実験体。
だから、私はいつも一人だった。
菌が漏れないように透明な囲いで隔離されていたから。
ある日、起こった衝撃が私を解放した。
地震。
私を閉じ込めていた透明の囲いが砕けていた。
いつもあの扉の向こうには何があるんだろうと思っていた。
扉の前に立つと、扉は音もなくスッと開いた。
初めて見る扉の奥。
ただ通路が続いているだけだった。
だけど、その先には希望が見えていた。
通路を曲がろうとした時、誰かにぶつかった。
いつも私の世話をしてくた人。
私を認めた一瞬、その人の顔は悲しそうだった。
「おいで。」
私が憎くはなかっただろうか。
あっけなく自分の命を奪う私が。
だけど、その人は私を抱きしめてくれた。
初めて人に抱いてもらった。
暖かくて、とても気持ちが落ち着いた。
その人はいろいろな事を教えてくれた。
私が人に死をもたらすこと。
他にもいろいろなことを。
「女の子はね、もっと身だしなみに気を使うものだよ。」
私の髪をくしが何度も往復した。
優しく、優しく。
そして、赤い布を髪に結わえてくれた。
「どう?」
鏡に映った自分。
初めて見る自分の姿。
何がきれいなのかはわからなかった。
だけど、私はその人のつけてくれた物を気に入った。
それがその人が最後にしてくれたこと。
まったく動かなくなったその人を見て、
初めて死がなんであるかを知った。
ごめんなさい。
私の身勝手さがあなたを殺してしまった。
髪に結わえた赤い布。
布を通して思い出される記憶。
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