病源菌 最終話
2000 1/20


目の前には見知らぬ少年が立っている。

「やっと見つけた。」
顔も知らぬ少年がそう言った。

「誰?」
次の瞬間には私は少年に抱き止められていた。
私に近づくと死んでしまうのに。

「君と会いたかった。」
耳元で少年の囁き声。
誰だろうこの人は。

「僕は君を探していたんだ。」
「研究所を出てから、ずっと。」
研究所・・・聞き覚えのある言葉。
そこは昔、私がいた場所。

「僕はワクチンなんだよ。」
ワクチン。
ウイルスの対抗薬。
ウィルスを殺すもの。
私を殺すもの。

「君を殺すためだけに作られた。」
私を抱き止める少年の手に力がこもった。
身体が締め付けられて少し苦しい。

「ありがとう。」
私の口から漏れたのはお礼の言葉。
別に悲しくはない。
いつも自分がしてきたことだから。
・・・少年の手から力が抜ける。

「殺さないよ。」

「どうして?」

「君を殺したら僕の存在理由がなくなるから。」
「ワクチンはね、ウィルスがあってこそ意味があるんだ。」

私の存在を必要としてくれる人がいる。
そんな人はどこにもいないと思っていた。
初めてできた一緒にいられる人。
私にとって唯一の存在。


[戻る]