発明の裏 その2
2002 11/16
博士が新しい発明を完成させたようです。
そんなことは博士の様子を見れば一目でわかります。
さっきから私の周りを妙にうろちょろしているのです。
「・・・で、何か用なんですか?」
私は大きく溜息をつくと、博士に声をかけました。
「いや、あの・・・新しい装置ができたんだけど・・・。」
博士はすごくおどおどした調子で喋りました。
まるで何かに怯える小動物のようです。
それでいて何かを期待するかのように私を見るのです。
「・・・それで?」
私はそれはもう冷ややかな視線を博士に送りました。
「実験に付き合ってほしいなあって・・・。」
博士は指をくりくりと胸の前で回して、照れくさそうにしています。
もっと怯えるのかと思ったのに、この反応は予想外です。
「はいはい、わかりましたよ〜・・・。」
博士の助手としては手伝わないわけにはいけません。
お仕事しないと給料泥棒なんて誰かに言われちゃいますから。
「でも、この前みたいなのはいやですよ?」
私はにっこり笑って博士に、かわいく握りこぶしを作って見せました。
「う、うん・・・。」
博士は脱兎の如く実験室の方に駆けて行きました。
まあ、実験の準備がいろいろあるんでしょう。
私はというとのんびり歩いて実験室に行くことにしました。
どうしてかって?
何があってもいいように・・・です。
か弱い女の子にはそういう心の準備が必要なものなのです。
「・・・で、どれが新しい発明なんですか?」
私は実験室につくなり周りを見回していました。
見たところ、何か増えた様には見えません。
「これ・・・なんだけど・・・」
博士が指差したのは複製機(博士いわく転送機)でした。
「どうみても、転送機じゃないですか・・・?」
私はくるっと複製機の周りを一回りしました。
見た感じ何も変わってはいないようです。
「入ってみればわかるよ。」
博士は複製機のコントロールパネルをカチャカチャといじっています。
私は機械には弱いので博士が何をしているのかさっぱりです。
もっとも、博士以外の人に何をしてるかわかるとも思えませんけど。
「絶対にいやです。」
私はにっこり笑って丁重にお断りしました。
入ったが最後どうなるかわかったもんじゃありません。
元の私なんか前の実験で死んじゃってるぐらいです。
「・・・で、これは何なんですか?」
「物質還元装置だよ。」
「何です、それ?」
「あー、物体を原子の大きさに分解する機械というか・・・。」
「何に使うんですか?」
「主に廃棄物の処分かな・・・?」
「廃棄物って例えば?」
「実験でできた副産物とか・・・いろいろ。」
「・・・・・。」
すごく気になります。
でも、あえて聞かないことにしました。
世の中には知らないほうがいいことがたくさんあります。
博士が実験で作ったものなんて、ろくでもない物に決まってます。
「例えば、ここにリンゴを入れてスイッチポン!」
博士は機械にリンゴを置くと、ポチっと何かのスイッチを押しました。
ヴォンという音と共に物質還元装置が稼動を始めます。
瞬く間にリンゴが分解されて上に吸い上げられていきます。
まるでどこぞの掃除機を見ているかのようです。
「おおっ、すごいですね〜・・・。」
私は思わず感心してしまいました。
人間、こういう物を見ると素直に感動してしまうものなのです。
「すると、あら不思議、こっちにリンゴが・・・。」
博士が隣のポッドを空けると・・・。
なんと、リンゴが転送されているではありませんか。
「すごい、すごい!」
ぱちぱちぱち。
私は思わず拍手してしまいました。
「いったいどうやったんですか?」
「転送機で転送して還元装置で還元しただけだよ。」
博士はこともなげに教えてくれました。
複製機で複製して、物質還元装置で還元する?
「それって、前と変わらないことないですか?」
「処分がスムーズに済んでるじゃないか。」
博士は恐ろしい事をさらりと言いました。
道徳心が欠如してるんじゃないでしょうか?
そういえばさっき、入ってみればわかるよとかなんとか・・・。
「博士、さっき私をコレに入れようとしませんでした?」
私は、にっこりと極上の笑みを浮かべました。
博士は身の危険を察したのか逃げようとします。
もちろん、そんなことはさせません。
休日を勉学に費やすのと運動に費やすのでは運動能力に歴然とした差があるのです。
私は博士に、しっかりとお灸を据えて思いました。
普通でない人が作る物は、やっぱり、普通の物にはならないんだなあ・・・と。
後日談
この発明は大いに広まりました。
移動時間が極端に短くなる画期的な発明だとかなんとか。
世も末ですね。
真相を知る私には恐ろしい限りです。
みなさんも、転送機にはご注意を!
博士の助手より。
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