理科実験実習講座   南丹高校   12月3日(金)
 
 
 
 

生徒を外に連れ出そう!  -南丹高校地学野外実習の紹介-



 
 

1 はじめに
 南丹高校は、まだまだ自然の多く残る亀岡盆地の北部に位置している。周りを田んぼに囲まれ、近くに大きな川や池があり、山の緑が目に飛び込んでくる、たいへん自然に恵まれた環境にある。南丹高校に赴任したとき、その地の利(?)を生かし、この地域の自然環境を知ることをテーマとした授業が何かできないかと考え、以来、地学の授業では毎年野外実習を実施してきた。
 そもそも地学が対象としている自然界の事物や現象は多岐にわたっているが、どれも簡単に実験室に持ち込めるものではない。普段の授業では写真やビデオ、模型、小さな標本等で対応しているが、やはり何といっても本物と接するのとは違う。生徒は自然の中での体験が不足している、というか、地学的な視点で自然と接した経験があまりない。本物の自然と直接接することが授業をより深く理解する手助けにもなる。そういう視点からも、野外実習を大切にしていきたいと考え取り組んできた。

2 野外実習のテーマ
 地学の野外実習といえば、まず考えるのは地層の観察である。クリノメーターを持って走向傾斜を測る、ハンマーを使って岩石を調べる、うまくいけば化石採集。しかし残念ながら、南丹高校の周辺には、田んぼは広がっているものの、地層の観察や化石採集のできる露頭は近くにはない。そこでどのような内容の実習ができるかいろいろ考え、試行錯誤の結果、現在では、石のあるところへ行って石を調べる「岩石の観察」と、とりあえず歩いて見学する「地形の観察」の2つのテーマで行うようになった。

3 岩石の観察
 石のあるところとして思いついたのは、桂川(大堰川)の川原である。学校から歩いて10分くらいで月読橋の下の川原に着く。そこで、ハンマーを使って岩石を調べる。一人で或いはグループで50個調べて、どの石が多いか集計する。
 地学の実習なので川原の石であっても、ハンマーを使うようにした。ハンマーの使い方は、実習に出かける前に教室で説明する。ハンマーは教室で渡し、最後に教室で回収する。川原までは歩いて移動し、そこで50個の岩石名を調べて記録する。岩石名は生徒が資料を見て肉眼鑑定で決めるが、質問があった場合は答える(しかし、たいがい聞いてくる)。帰る前に石を一つ拾って持ち帰る。この石は、後日、一面を研磨して、岩石標本を作る。
 実習のまとめとして、どの岩石が多いかを集計する。それをクラス全員分まとめ、サンプル数を増やして、統計の信憑性を高める。しかし、実際は50個も岩石を調べると、だんだん同じ石がわかってくる。50個を完全に無作為に抽出できればよいが、なかなかそうはいかない。今までに見つけていない種類を探すようになり、存在比の多い岩石ほどその比率は少な目に出る可能性がある。また、肉眼鑑定を間違えて、ほとんど見つからないはずの岩石の比率が大きく出ることもある。
 尚、この実習は2時間連続授業が基本であるが、最近、地学の単位数が減ったり(地学IB 4単位→地学I 3単位)、選択の裏の科目の関係で2時間連続授業がとれなくなってきているので、1時間で実施できる実習も考えている。その場合は、玄関前で集合し、ハンマーを配り、川原では50個ではなく確実に10個の岩石名を調べ、石を拾って帰る。玄関前でハンマーと石を回収して解散という、ややあわただしい実習となる。

4 地形の観察
  亀岡盆地では、河川のつくった地形がいろいろ見られる。また、川の東側の地域は、市街化調整区域であるため、昔の人々がつくった集落がそのまま残っている。これらを利用して、亀岡盆地の地形と人々の暮らし、というような、ほとんど「地理」に近い実習を行っている。
 亀岡盆地の地形については、事前に、河川のつくる地形の説明、亀岡盆地の地形分類図の作製、亀岡盆地の断面図(模式図)、等の学習をしている。これらの一連の流れの中で野外実習も実施している。
 具体的な実習コースは、まず月読橋の真ん中(A地点)まで行って、河川の観察。その後、学校へ戻りながら、川沿いに少し南へ下り、自然堤防の観察(B地点)。そこから田んぼの中を進んで、学校の南側(C地点)で東の山の断層崖や扇状地の観察をする。地学とは直接関係ないと言えば関係ないのだが、各地点の出発時刻と到着時刻を記録し、歩いた速さも計算させている。
 以前は、田んぼの中の道が整理されていなかったので、大回りをして3km近いコースを歩いていたが、新しく道が整理されたのと、以前のコースにカラスが増えて危険を感じるまでになったことなどから、現在は1.5km程度の短いコースを使っている。そのため1時間の授業の場合も、玄関前集合・解散でギリギリではあるがかろうじて対応できるようになった。反対に2時間の授業の場合は、教室で少し長く説明をしたり、各地点でスケッチをしたり、帰ってきてからまとめる時間を取ったりして調整している。

5 野外実習の実施時期
 地学の授業では、野外実習を一年の大きなイベントと考えているので、野外実習の実施時期を決めてから、それに合わせて年間の授業計画を考えている。野外実習は、暑い夏と寒い冬は避けて、気候のいいときに実施している。以前春に実施したことがあったが、風が強くて困った。亀岡盆地は南北に細長く、風の通り道になり、風の強い日が多い。特に暖かくなりかけの春は、陸と海の温度差が大きくなるためか、風の強い日が多い。そこで、現在では秋に実施している。昨年までは、9月下旬から10月上旬にかけて実施し、10月中旬の2学期中間考査のテスト範囲にするというパターンが定着していた。しかし、今年度より2期制となり、従来実施していた9月下旬が前期末試験となったため、今年度は「岩石の観察」を9月中旬の前期末に実施し、「地形の観察」を後期に入ってからの10月中旬に実施した。

6 まとめ
 野外実習を行うのは、手続きが面倒だし、天候に左右されるし、なにより体力と気力がいる。それでもやってよかったと思うのは、教室の授業では見られない生徒のいきいきした表情が見られるからである。本物には勝てないとつくづく思う。
 地学では、この授業時の野外実習以外に、授業時間外に天体観測やいろいろな実習を随時行い、実習レポートを年間1つ以上提出するように指導している。生徒を本物に触れさせる、体験させる試みは、今なお進化中である。


 



 
 
 12月3日当日のデータをまとめたものです。参考に、今年度の実習の結果をいくつか載せました。参考Aは同じ方法で1人10個を17人分ほど集計したもの、参考Bは1グループ50個を11グループ、参考Cは6グループ集計したものです。今回は先生方のデータということで、目が肥えている方が多いのか、生徒の実習のとき以上に「チャート」が少な目に出たようです。(でも、台風23号の増水の後、川原の状態が変わったためか、調べた場所によるものか、確かにチャートが少ないような気もしました。いずれ、もっときちんとしたデータをとってみたいものです。)

 
 
岩石名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 合計 岩石名 多い順番 参考A 参考B 参考C
火成岩 酸性岩 深成岩 花崗岩   1   1 1 1   1 1   1 1 1 1   10 6.5 花崗岩 4 2.5 1.0  2.1 
半深成岩 半花崗岩       1   1           1 1 1   5 3.2 半花崗岩 7 0.0 0.4 0.4 
半深成岩 石英斑岩                     1 1       2 1.3 石英斑岩 12  2.5 0.4 0.8 
火山岩 流紋岩   1               1         1 3 1.9 流紋岩 9  0.0 0.4 0.8 
中性岩 深成岩 閃緑岩                               0 0.0 閃緑岩   0.0 0.0  0.0 
半深成岩 ひん岩 1 1       1   1       1 1 2 1 9 5.8 ひん岩 5  6.3 6.2 5.9
火山岩 安山岩                               0 0.0 安山岩   0.0 0.0 0.0 
塩基性岩 深成岩 斑れい岩                               0 0.0 斑れい岩   0.0 0.0 0.0 
半深成岩 輝緑岩                               0 0.0 輝緑岩   0.0 0.0 0.0 
火山岩 玄武岩・緑色岩   1   3 2 1 1     1 2 2 1 1 3 18 11.7 玄武岩・緑色岩 3 5.1 6.6 4.6 
堆積岩 砕屑岩 れき岩 2                 1 1   1     5 3.2 れき岩 7 2.5 2.9 4.2 
砂岩 3 2 1 1 2 2 2 3 3 2 1 3 1 1 2 29 18.8 砂岩 2 22.2  17.0 20.3
泥岩・頁岩       1 1         1 2 1 1 1   8 5.2 泥岩・頁岩 6 5.7 6.2 6.3
火山砕屑岩 凝灰岩     1           1         1   3 1.9 凝灰岩 9 1.9 1.9 3.8 
非砕屑岩 チャート 4 4 7 3 4 4 7 4 5 4 2 6   2 3 59 38.3 チャート 1 48.7 55.4 48.1 
石灰岩                               0 0.0 石灰岩   1.9  0.2 0.8
変成岩 接触変成岩 ホルンフェルス     1         1         1     3 1.9 ホルンフェルス 9 0.0 1.5 1.7 
結晶質石灰岩                               0 0.0 結晶質石灰岩   0.6  0.0 0.0
広域変成岩 結晶片岩                               0 0.0 結晶片岩   0.0 0.0 0.0 
片麻岩                               0 0.0 片麻岩   0.0  0.0 0.0
合計 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 16 8 10 10 154 100     100 100 100

 
 

※御協力ありがとうございました。
 
 
 
 
 

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