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第15回 【読者投稿編】素晴らしきアメリカの草サッカー

■広がる「芝の輪」にお答えして

 「芝のグラウンドをつくろう!」とひたすらに訴えたこの連載が始まって既に半年が過ぎました。このコーナーは、私が芝のグラウンドづくりの過程で実際に 経験したことを、一切脚色せず、あるがままの事実として書こうということで連載を始めました。また、インターネットの特性を活かし、自分の体験だけでな く、読者の方からの意見や体験をできるだけ紹介していこうというスタイルを考えました。

 連載当初からサッカーを愛する皆さんのグラウンド体験や、芝に対する熱き思いを寄せていただきました。「神田サッカーナイト」という集まりではプレゼン テーションの場を設けさせていただきましたし、月刊「アスキー」の4月号では当コーナーが紹介され、「青い芝の上で子供たちがサッカーをしている風景を見 ると、こういった小さな成功をどんどん広げていかなければという気持ちになります」という激励文を掲載していただきました。

 さて今回は、アメリカからこのコーナーをクリックしてくれている角谷寛さんとのメールでのやり取りをご紹介します。サッカー不毛の地と言われていたアメ リカですが、今やサッカーの競技人口は野球を超え、女子サッカーは世界のトップレベルです。角谷さんの素晴らしき草サッカー体験は、スポーツ大国アメリカ を支える底辺の大きさを物語っています。


■アメリカで知った草サッカーの楽しさ−−−角谷さんの投稿から

 僕は現在、アメリカのサンフランシスコ周辺のシリコンバレーにある、スタンフォード大学に留学していま す。アメリカでもこのあたりはサッカーの天国のようなところです。芝のグラウンドがあちこちにあります。大学内にもあちこちにゴールがおいてあり、関係者 がいさえすれば(プレーしている中に学生か学校関係者がいさえすれば)使い放題です。放課後や週末には(参加自由の)ミニゲームをしています。先日女子の 日本代表もこの大学で練習試合したそうです。

 僕は中学・高校の時に体育の授業くらいでしかボールを蹴った経験はありませんでしたが、こちらに来てからサッカーを始め、いきなり、町の草サッカーリー グに参加しました。参加している人は僕のような初心者ははっきり言ってあまり見かけません。明らかにサッカーのトレーニングを受けたと思われる人が多いで す。ちなみにジュニアのリーグもあり、毎週土曜日だそうです。

 正直なところ、自分でサッカーをするとは思ってもいませんでしたし、しかもアメリカでなんて!!!! 「サッカー不毛の地」といわれますよね! それなのに環境が整っていることに驚かされます。

 このあたりではグラウンドといえば芝生しか見たことがありません。しかも、車で通っていても、あちこちにゴールがあります。それ以外にも、週末などにはドラム缶や鞄でゴールを作ってサッカーのミニ・ゲームをしている姿が見られます。



■草サッカーはこうして運営される

 毎日曜日には周辺の町のサッカーリーグ(http://www.paasl.org) の試合が、公園のグラウンド(Mitchell Park)を使って行われています。男子30チーム、女子6チームのリーグです。このリーグは年3回チームメンバーの組み替えがあり、ボランティアによっ て運営されています。公園の芝はサッカーリーグの使用料などで維持されているようです。各チームには1人ずつコーディネーターがいて、世話を焼いてくれて います。

 アメリカでこのあたりのサッカーリーグは、春(2-5月)、夏(6-7月)、秋(9-11月)の3期に分かれています。冬がないのはその時期が雨期にあたり、試合が予定通りに出来ないからです。それ以外の時期にはほとんど雨が降りません。

 シーズンが始まる1カ月前までに登録のための書類と登録料(グラウンド使用料、審判への謝礼込みで$30〜45)を送ります。書類には下記の内容を書き 込みます。それから、けが等については事故責任で保険等は各自入るということを了承するかというところにサインするようになっています。登録されると、各 自の写真入りのカードが送られてくるので、これを持って試合に行き、毎試合試合の開始前に審判に渡します。

●氏名、連絡先
●サッカーの経験年数
●A, Bどちらのリーグにはいるか(Aが上級者向けです)
●技術レベル(1-5)の自己申告
●キーパーが可能か
●チームコーディネーターになれるか
●希望のポジション(FW, MF, DF)
●何ゲーム参加できる予定か

 この内容から、まず、チーム数(参加可能ゲーム数から)を決めて、その数だけコーディネーターを選びます。そしてコーディネーターが集まって、ポジショ ンとレベルを考慮してメンバーを選んでいきます。何シーズンか参加していると、顔とプレーのレベルが分かってくるので、決めるのはそれ程難しくないだろう と思います。1チーム15〜18人くらいです。

 シーズン最初の試合の前は電話でチームと試合の会場と時間の確認の電話がコーディネーターから有ります。初めて参加の人はユニフォームを買うために少し 早めに行きます。ユニフォームはリバーシブルで背番号(1〜30)を売っています。番号の少ない人ほど技術レベルが上なので、レベルがすぐ分かるように なっています(ただ、上達してもユニフォームはそのままなので必ずしも一致しませんが)。それから、全員にそのメンバーの連絡先と、水&オレンジを持って いく当番の日が書いて有る表を配ります。

 毎試合各自好きなところにまず入って、ポジションを調整していきます(何試合もしていくと大体決まっていきますが)。交代はいくらしても良いことになっ ているので、適当に代わっていきます。人数が足りないときには前の時間の試合に出ていた人に残ってもらうか、相手のチームからもらいます(ユニフォームは リバーシブルで皆一緒なのがここで生きてきます)。朝から晩まで参加している強者もいます。1チーム7人以上で試合OKなので、8〜9人くらいでの試合も ときどきあります。

 あと、ミニゲームをあちこちでしています。これは完全に参加自由で、人数を見ながら適当に参加します。Tシャツが白か色付きか、あるいは着ているかいな いかに分かれて楽しみます。大体いつも来る人はこちらも決まってきます(今行っているところには、日本人3〜4名、中国人5〜10人、メキシコ人4〜5 人、アメリカ人4〜5人くらい毎回集まります)。ちゃんとした試合がしたくなったら、メンバーを募って対戦相手を捜して試合を、という感じです。毎土曜日 には隣の町にハンガリー人が集まってサッカーをしているので、近いうちに日本人を集めて試合を申し込む予定です。



■スポーツの原点、それは楽しむこと

 サッカーはボールひとつあれば、誰とでも楽しむことが出来る素晴らしいスポーツです。日本ではバレーボールをしていたという角谷さんが、アメリカに来て 草サッカーのリーグに入り週末をエンジョイしているのは、サッカーが本来的に持つ親しみやすさと、それを支えているのが「思い切って蹴れるし、転んでも痛 くない(角谷さん)」という芝のグラウンドなのではないでしょうか。角谷さんが送ってくれた写真がそれを物語っています。

 そして既存の組織を離れ、一人の個人として、国籍に関係なく、緑の芝の上でひとつのボールを追うその姿に、「スポーツを楽しむ」という行為の素晴らしさ を感じずにはいられません。角谷さんのアメリカでの草サッカー体験は色々なことを教えてくれました。この場を借りまして御礼申し上げます。

 連載も15回目を数えましたが、自ら体験した芝のグラウンド作りの顛末記や皆さんにご紹介したいノウハウはまだまだ書き切れていないというのが実際のと ころです。それだけでなく、もっと皆さんの体験やご感想、ご意見などを紹介することが必要だと思っております。芝のグラウンドに関することならばどんな情 報でもかまいません。教えていただければ皆さんと共有できると思います。日本中どこででも芝のグラウンドで当たり前のようにサッカーができるようになる日 を夢見て。(つづく)


湯浅 浩志(ゆあさ・ひろし)
 1954年生まれ。中学時代に「ダイヤモンドサッカー」の洗礼を受け、ジョージ・ベスト、デニス・ローの古き良き時代のイングランドサッカーとメキシ コ・オリンピックの釜本に憧れ、爾来30数年のオールドサッカーファン。中3の息子のサッカーの試合にはビデオ片手に観戦する「サッカー好きのオヤジ」の 顔も持つ。
 現在、地元千葉市の少年サッカークラブのグラウンド整備担当としてボランティアのお父さん、お母さんの協力を得て、芝のグラウンドづくりに励む。「言い 出しっぺ」で始めてしまった芝のグラウンドづくりだが、持ち前の責任感と情熱で着実な成果を上げ、子供たちの歓声に目を細めている。本コーナーはその中間 報告でもある。

*タイトル部分の写真は、湯浅とボランティアの方々がつくりあげた千葉市内にある芝のグラウンドです。