駄文10 京フェス


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 京フェスに行った。

 本会企画の会場である芝蘭会館に着いた時はすでに午前の部の終了直前であった。僕は 「リベンジオブマンガカルテット」とかそういう名前の企画に呼ばれていたのだが、合宿企画なので朝っぱらから他のメンバー (牧野修さんと田中啓文さんと田中哲弥さん) は来ていないだろうと高を括っていたのだが、案の定来ていなかった。他の企画に出る人たちは熱心に打ち合わせをしているのに、こんなことでいいのだろうか? まあ、そんなに堅苦しく考えなくても、気楽にやればそれなりにうまくいきそうな気がするなあと思ったが、同じようなことを今年の SF 大会でも考えていて、大滑りだったことを思い出し、青くなる。

 昼食は SF 系の方々と会館内のレストランで食べることにしたが、混んでいたため小グループごとに分かれることになった。同じテーブルに座ったのは、喜多哲士さんと野尻抱介さんと冬樹蛉さんだった。本当はおがわさとしさんもいたのだが、席がなく独り犠牲になって店を出ていかれた。いい人だ。それに引き換え、後に残った野尻さんと冬樹さんは極悪系だけあって、「昨晩、例の掲示板に罠をし掛けて、おいたんですよ」「それなら、もう今朝方食いついてましたよ。入れ食いですな。けけけ」「あほですな。ひひひ」などと、凶悪極まりない会話が交される。この人たちの敵だけには絶対ならないでおこうとびびりながら、決心した。

 本会企画の午後の部が終わろうという時になって、牧野さん、田中さん、田中さんの3人が到着。

 牧野さんが受付で名前を書いて、参加費を払おうとすると、受付の人が「学生さんですか?」と尋ねた。僕ら一同は、「牧野修」と名前まで書いているのに、このホラー坊主を学生と見紛うとはいったいどのような神経かと唖然としたが、よく考えてみると初老の学生作家がぜったいにいないとは断言できないはずで、あの受付の人の発言はあながち間違っているわけではないのかと思った。それやったら、全員に「学生ですか?」と訊かなあかんのではないか? 確かに。

 打ち合わせを兼ねて近くの喫茶店に入るが、単にあほな話をするだけで打ち合わせをする気配は微塵もない。気がつくと、夕方になっていて「飯を食いましょう」ということになる。みんなビールを注文するので、僕だけみんなの和を乱すわけにもいかず、ビールを2杯飲む。

 コーヒー (300円) と定食 (800円) とビール2杯 (600円×2) で、2300円やなあ、と思ってレジに食べたものを告げると、おばちゃんははっきりと「2400円になります」と宣言した。僕は「えっ?」と控えめに抗議の意思を表明した。おばちゃんは溜め息をつくと、どこからか紙切れを取りだし、徐に筆算を始めた。やがて、勝ち誇ったようにその結果を僕に見せてくれた。

「2400円になります」

「えっ?」

 別に100円ぐらいどうでもよかったのだが、予想と違うことが起きたため、ついまた声を出してしまった。これが「2415円です」なら、ああ消費税ね、と納得したのだが。

 おばちゃんは迷惑そうな顔をして、ゆっくりと説明してくれた。「ここで1上がって、ここで合わせて2……。あっ、2300円です」

 おばちゃんは理解してくれたようだ。落ち着いて話せば、わかり合える。人間っていいな、と思いながら店を後にする。

 合宿企画の会場さわや旅館の畳敷きの大広間で、隅っこに固まってうだうだとあほな話をしていると、いつのまにか合宿企画の開会式が始まっている。先ほど飲んだビールのせいか、すでに膀胱は満杯状態だったが、僕たちがいる場所から出口に行くためには、畳の上に隙間なく座っている人間の海をかき分ける必要があることに気がついた。司会のK浜さんが SF 関係者の紹介を始めているさなか、そんなことをすればとても目だってしまう。開会式が終わるまで、我慢することにした。ところが、こういう時に限って、みんな饒舌になってなかなか全員の紹介が終わらない。額には脂汗が滲んできたが、紹介は延々と9時間56分も続いた。僕は唇を血がにじむまで噛み締めた。

 一通り、紹介が終わり、やれやれこれでトイレに行けるとほっとしていると、K浜さんが「じゃあ、今回はプロ以外でもホームページを開設している方も紹介しましょう。自分のページを持っている方、手を上げて」数十人の手が上がる。僕はホームページ開設者の紹介が進む中、顰蹙を買いながら、出口へと向った。

「あっ。こっちの方がええかもしれん」というぐらいの快感を伴った放尿の後、不特定多数の人間に舌打ちされそうな気がしたので、再び人の海をかき分けるのは断念し、開会式が終わるのを待って広間の隅に戻る。

 続いて、SF クイズ大会が始まった。解答者の一人として、牧野さんが呼ばれる。この人は去年もオープニングのクイズに出ていたような気がする。きっと、クイズ向きのキャラクターなのだろう。クイズはそこそこ受けているようだったが、ずっとあほな話をしていたので、何も聞いていない。確か「ウルトラセブンは好色である」とか「ネビュラさんのフルネームは何ですか?」とかそういうことを言っていた。

 そうこうしているうちに、牧野さんがクイズから戻って、あほな話に復帰。「ええと。僕らの出番は何時からですかな?」「壁に貼ってあるスケジュール表によると、25時となってますな」「ほんなら、まだ5、6時間はありますな」「それまで、どないしまひょ?」「酒でも飲んであほな話をするのはどないだ?」

 途中、酒と食料を買いに出掛けた (牧野さんにお握りとサンドイッチをおごってもらった) 以外はずっと広間の隅であほな話を続ける。気がつくと25時になっていて、企画の会場に移動。移動中も話をやめず。席についても、流れのまま話を続けるが、なぜかど真ん中に怒れる官能小説家の我孫子武丸さんが座っている。はて、カルテットというのは確か4人組みのはず。さては、「マンガカルテット」というのは我孫子さん、牧野さん、田中さん、田中さんの4人のことで、僕はお呼びではなかったのかと悟ったが、動くのも面倒だったので、そのまま話を続ける。話のトーンはまったく変わらなかったので、いったいどこからどこまでが企画だったのかもはっきりしない。そう言えば、大森さんが「それではみなさんの『カムナビ』に対する意見をお聞かせください」とかそんな意味のことを言ったようなことがあったような気がするし、それから1時間か2時間ほどして、「ということで、『カムナビ』論をまとめることにいたします」とかそんな意味のことを言ったようなことがあったような気がする。きっと、あの時が区切りなんだろうなあと思うが、その間『カムナビ』については、冒頭「確か蛇がぎょうさんでてくる話ですわ」「蛇千匹ですな」「それって、蚯蚓千匹と似たような話ですか?」「そうそう」「ほんなら、数の子天井とかも出てくるんですか?」「蚯蚓が蛇なんやから、イクラかなんかやないと、縮尺が合わんがな」と会話があった以外はほとんど語られず、ただただあほな話をしていた。

 さっきから、あほな話、あほな話と書いているが、具体的にはどんな話や? と訊かれると、ほとんど何も覚えていないと答えざるを得ない。それほど情報量のないあほみたいな話だったのだろう。まあ、無理に記憶を探ると断片的には思い出せないこともない。

 田中啓文さんは駄洒落1つで、短編を1つ書ける、とか。いや。ほんまは長編が書けるんです、とか。

 来年の「成人の日」は1月10日って知ってましたか、とか。そんなことより、7月20日が「海の日」って知ってましたか、とか。なんでいままで知らんかったんや、とか。

 いくら小説のためとは言え、牧野さんが猫にあんなことをするのはいかがなものか、とか。

 本人の将来のため敢えて名は伏すが、田中Tさんは、とある女性の作家が自分の名刺を鞄に入れたという事実を捻じ曲げ、「名刺を捨てられた」といわれのない誹謗中傷していた、ということが暴露されたこと、とか。

 同じく田中哲弥さんが「別に深夜の仕事が必要な職についているわけでもないのに、朝の7時半頃に床につく自分が時々嫌になる」と言ったところ、我孫子さんが「そんなことを気にする必要はない。『他人(ひと)は他人(ひと)、自分は自分』や。そんなことより、カレー以外のカップヌードルを食べることの方が人としてどうかと思う」と激怒しだしたので、誰かが「なんで、カレー以外のカップヌードルを買うたら、あかんのですか?」と訊いたら、「だって、値段同じですよ!」と答えたり、とか。

 定説では、いっさい生体活動が行われていなくても体温が摂氏0度でなかったり、ペニスが溶けてなければ生きているとのことだが、元気に活動していても体温が摂氏0度でペニスが溶けていれば死んでいることになるのか、とか。体温がマイナスなったら、やっぱり死体とは認められないのかとか。

 そのうち、田中啓文さんが「バイメタル」という言葉を知らないことが発覚し、みんなでさんざん馬鹿にし始めた。確かに、他の年代ならいざ知らず、昭和37年生まれの SF 者が「バイメタル」を知らないと堂々と言い放つとは、恥を知るべし。

 その辺りで、僕の体力と精神力は限界に達し、その場で仮眠につくことにした。もちろん、熟睡できるはずもなく、30分から、1時間置きに目が覚めては、みんなのあほな会話が嫌でも耳に入ってくる。しかし、その度に「バイメタル」の話題が聞こえてきたのはいかなる理由であろうか? まさか、僕が離脱してからは新しい話題が生まれず、何時間も「バイメタル」の話ばかり続けていたのか、それとも話がなんどもループを繰り返し、その繰り返し周期と僕の覚醒周期が一致していたのか?

 とにかく、その場で朝を迎え、一同は「バイメタル」の話をしながら、再び大広間に向う。 

 広間の隅に戻ると、なんと昨日買っておいた酒がなくなっていた。飲んだ人は今からでも遅くないから名乗り出るように。

 エンディングの後、バイメタルの話をしながら、喫茶店に入る。しばらくして、トイレに立って、戻ってきた安孫子さんが「トイレのセンサにバイメタルが使ってあると書いてあった。これはシンクロニシティや!」と主張された。

 帰り道、何人かの参加者とともに電車に乗った。ダブル田中さんはすぐに乗り換えで降りて、僕は牧野さんの隣に座って、二人であほな話をして、げらげらと笑っていた。と、なぜか他の参加者の姿がいつのまにか周囲から消えている。みんな近くに住んでいるのかなあ。でも、大阪まで帰る人とかいたのになあ、と思ったが、あほな話を続け、げらげらと笑っているうちに、家の最寄駅についた。

 僕は電車を降り、牧野さんは一人取り残された。

 


Copyright KOBAYASI Yasumi 1999


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