駄文12 「〜円からお預かりします」


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 レジで商品の代金よりも高い額 (つまり釣り銭が発生するような金額) を支払った場合、「〜円からお預かりします」と言われることが多くなった。例えば、600円の雑誌を買って、1000円札をわたした場合、「1000円からお預かりします」と言われる。

 これって、結構最近の言い回しではないだろうか? 僕の記憶では子供の頃は「1000円、お預かりします」だったはずだ。ここ、10〜20年で急速に変化したような気がする。ひょっとして、「〜円、お預かりします」は関西地方だけの方言で、全国的には昔から「〜円からお預かりします」と言っていたのだろうか? なんとなく、コンビニエンスストアの進出とともに、この言い回しが広まったような印象があるのだが、真相はいかに?

 それはともかく、「1000円からお預かりします」などと言われると妙に気持ちが悪い。いったい、1000円から何を預かるのか非常に気になる。

 昔ながらの「〜円、お預かりします」式ならちゃんと筋が通っている。

 仮に600円の品物を買うときに1000円札で支払う場合を考えてみよう。店員に商品をとってもらう形態でも、自分で商品をレジに持っていく形態でも、支払いが済むまでは商品の所有権は店側に属する。

 まず、客が1000円札を店員に渡す。この時点では客はなんら対価を受け取っていないわけだから、一瞬だけだが客には店に対する債権が発生する。つまり、客は1000円札をいったん店に貸す、もしくは預けることになるのだ。したがって、「1000円 (を)、お預かりします」という発言は理に適っている。預けた1000円はどうなるかというと、600円分の商品と400円の現金として、客に返される。ここに無事貸借関係が解消されることになる。

 では、「〜円からお預かりします」と言われた場合はどう解釈すればいいのか? ここで、いくつか仮説を立てて検討してみよう。

仮説1 店が預かるのは代金の600円

 実際に1000円渡しているのに、その中から600円だけ預かったと主張されるのはどうにも納得いかないが、ここは一歩譲ることにする。つまり、1000円札をわたしたのにも拘わらず、心の中ではその中から600円だけ預からせてもらうということではなかろうか? で、その600円は600円分の商品として返すと。

 ん? でも、釣り銭を返す時、「400円のお返しになります」と言われるなあ。600円貸したのに、400円しか返してくれないとは、これいかに?

 ということで……

仮説2 店が預かるのは釣り銭の400円

 実際に1000円渡しているのに、その中から400円だけ預かったと主張されるのはどうにも納得いかないが、ここは一歩譲ることにする。つまり、1000円札をわたしたのにも拘わらず、心の中ではその中から400円だけ預からせてもらうということではなかろうか? 600円は元々代金なのだから預かるも糞もないと。

 ん? でも、釣り銭が要らないようにちょうどの金額を渡したら、「600円ちょうどお預かりいたします」と言われるなあ。では、預かっているのはやはり代金なのか?

 どっちにしてもすっきりしない。素直に「〜円、お預かりします」ではいけないのだろうか? 詳しいことをご存知の方がおられましたら、ご一報願います。


[追記]

 上の文章を掲載した後、鳥取寛さんから以下のような報告があった。

 「つり銭が発生しない際にも『から』と言う」と言う事例に、遭遇いたしましたことを、ご報告いたします。

 私も、小林様と同じように解釈して「から」に対処しておったのですが、ある日つり銭も発生しないのに「260円からお預かり」された時には、「預かったんなら返してくれよな〜」と心底思いました。たしか、天下茶屋のコンビニでした。
 私は現在関西に居住していますが、少なくとも以前住んでいた福岡市では「¥〜からお預かり」された記憶を有しておりません。
 小林様のコンビニ由来説、支持するものであります。

 恐るべし、コンビに。しかし、チェーン店のマニュアルにたまたま書かれていた言い回しが、デファクトスタンダードになってしまうというのはありそうなことである。

 チェーン店と言えば、ファーストフードなどで、「店内で召し上がりますか? それとも、お持ち帰りされますか?」と訊かれた時、「お持ち帰りです」と答える人が案外多いのも気になる。これは店側のせいじゃないけど。 


[追記2]

「NHK の番組で『この使い方は本来誤用であったものが広まった』というような話が放送されていた」と野尻さんがご自身の掲示板に書かれてた。うろ覚えだそうので、引き続きみなさんからの情報をお待ちしております。


[追記3]

 NAMIKO.O さんから、以下の報告があった。

 実は何年も前に我が家で話題になりまして、確かにつり銭なしの場合には「〜円いただきます」、つり銭有の場合は「〜円お預かりいたします」というのが正しかったのですが、私の母(経理実務歴40余年。今だ現役。)が申しますに消費税の導入とともに「〜(から)お預かりいたします」でも間違いではないというのです。
 なぜなら、預かるのはお客様からの消費税だというのです。
 確かに消費税は一時的に客(客先)から預かって規定の納期に国などに納入しますので、まぁひとつの考え方としてはそれでもいいんじゃないかと思うのですが。いかがでしょう?
 ちなみに私もその意見に同感いたしました。

 どうでもいい事なんですが。最近気になるのは「〜のほう」という言葉を使う店員さんなどです。
 「2階のほうにございます」とか「そちらのほうにうかがって下さい」などです。
いいじゃないですか「2階にございます」や「そちらでうかがってください」で。「消防署のほうから来ました」とかいう消火器売りみたいな言い方なさらなくても。

  これは新説だ。ただ、この解釈でも「ちょうどお預かりします」という表現には謎が残る。

「〜のほう」という表現だが、恐らく直接的に物事を言わない婉曲表現のつもりなのではないだろうか? 直接2階を指し示すのではなく、漠然と2階の辺りを指すとか。(無理があるって……)


[追記4]

SF 作家の堀晃さんから、以下のメールをいただいた。

「〜からお預かりします」については、ぼくも耳障りで、コラムに次のように書いたことがあります。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「テレクラ」
 ファミリーレストランの応対に違和感を覚えるのは客を人間扱いしていないからという記事を読んで、ぼくの解釈とは正反対だと思った記憶がある。(※糸井重里の「コピー塾」)
 外食産業やコンビニなど、アルバイトで維持される業種では、サービスのプロを養成するかわりにマニュアルで教育する。マニュアル以外の対応をさせない。コーヒー一杯の客にも、バカ丁寧にメニューを復唱する。かれらはプログラムどおりに行動するロボットで、人間扱いされていないことになる。
 違和感を覚えるとすれば、マニュアルが徹底していないからだろう。ぼくは、コンビニでの「千円からお預かりします」の「から」が気になってしかたがない。コンビニ業界に「校閲」はいないのか。
 電話メディア最大の成長産業「テレクラ」も事情は同じ。金銭抜きでいい目をしたいという男のスケベ心の需要に、供給がうまくバランスするはずがないから、大量の女性アルバイトが動員されることになる。サクラである。サクラ用マニュアルは客の「嗜好」にあわせて細分化されているが、原則はただひとつ。思わせぶりな会話で通話時間を引き延ばすことにある。
 「きみ、いくつ?」「いくつかしら」「ぼくSMが趣味でね」「いい趣味ね」
「会えない?」「会おうかしら」……あれっ、どこかで聞いたような。そう、星新一氏の名作「ボッコちゃん」である。美人ロボットに恋した青年は、その素朴な応答システムゆえに悲劇的な結末をむかえる。テレクラでは、ボラれたとわかって電話ガシャンで終わりである。
 パソコンの合成音を男性・女性・機械音から選べるレベルまできている。コストに厳しいテレクラ業界だけに、すでに最先端の音声応答システムが導入されていて不思議ではない。客は、心地よい会話中、相手が機械か人間か見分ける「チューリング・テスト」を行う必要がありそうだ。電話嫌いのぼくはテレクラを利用することは一生ありませんがね。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1997年5月28日、産経新聞・夕刊(関西版)
「クリック・キーワード」というデジタル関係コラム。

ネットやパソコンの周辺のことを中心にしたページなので、コンビニや日本語がテーマではありません。
この頃、ぼくは、コンビニ業界は外食産業同様、マニュアルが徹底した世界だから、「〜から」もマニュアルに記載されているものだと思いこんでおりましたが、確認したわけではありません。(テレクラのマニュアルはぼくの想像)
ひょっとしたら、コンビニにもこんなマニュアルはないのかもしれません。
その後、確かに、代金どおりの小銭を払っても「○○○円からお預かりします」とやられることしばしばあり。
 ただし、「○○○円ちょうどお預かりします」もあります。

 どっちにしても「預かる」が最優先のように思えます。
 レシート渡すまでは決済が終わっていないということでしょうか。

 堀さんもマニュアルの存在を疑われているようだ。実際どうなんでしょう? > コンビに業界の方

 しかし、テレクラでボッコちゃんが応対しているというのはありそうな話である。


[追記5]

SF 作家の林譲治さんから、以下のメールをいただいた。

 「〜からお預かりします」問題ですが、確かに増えていますね。私個人の印象ではマクドナルドの普及から広まったように思います。札幌あたりでもマクドはあのような受け答えでしたから。丸井なんかは「〜円、お預かりします」でしたね。もっとも一〇年近い前のことですからいまはどうかわかりません。

 それで「〜からお預かりします」が日本語としておかしいという問題ですが、ある観点に立てば間違っていないことに気がつきました。
 例えば私が一九八〇円の物を買うのに二〇〇〇円払ったとすれば、「二〇〇〇円からお預かりします」と言われる。「二〇〇〇円払ったのは俺なのに、二〇〇〇円からとは何だ! 」というのが違和感の原因ですが、ここで視点を売り子の側に変えてみると状況は一変します。
 資本主義の世の中ですから、売る側からみれば客よりも金の方に価値がある。彼らにとってみれば、私の人格などに興味は無く、ただ二〇〇〇円の有無だけが重要な問題になる。主体はあくまでも金なんですね。
 つまり金を払う段階で客の人格は無視され、「客=金」になります。だから「二〇〇〇円から」というのは「客=金」という関係が成り立てば日本語として間違っていない。
「二〇〇〇円からお預かりします」はこの関係が成り立てば「二〇〇〇円(と等価関係にある客)から(客と等価な価値の金を)お預かりします」と解釈できるので、これなら無理なく意味が解釈できると思うのですがいかがでしょう?

 またもや新解釈です。なるほどこう考えると辻褄はあいます。そのうち、「2000円様からお預かりいたします」などという表現も生まれるかもしれませんね。でも、金に敬語を使っているのはちょっと癪であります。


[追記6]

WSさんから以下のご報告があった。

「〜円からお預かりします」読みました。
我が家でもしばらく前に話題になりました。
特に、買物の機会が多い母親が気になっているようです。
ちなみに、7年前に私がイトーヨーカ堂でバイトした時は、「から」を言うなと指導されました。
でも、今バイトしている若者は、どこでもそう言われるものだから、そういう決まり文句だと思っているようなフシがあります。意味を考えて使っているわけではないでしょう。

他に母親が気になっているのは、グルメ番組や紀行番組で料理を口にしたときの、「やわらか〜い」という言葉です。
「柔らかいから何だっていうんだ!?」と思うらしいです。
何でもかんでもやわらかいのがおいしい、という風潮があるんでしょうか。老人じゃあるまいし。

私が気になっているのは、「ゴルフやられるんですか?」とか「タバコ吸われますか?」「北海道に行かれるんですか?」という言葉です。「やられるって何だー!?」と聞き返したくなります。これが敬語のつもりで使っているようなんです。

それから定番ですが、「今、○○って流行ってるじゃないですか」という相手に確認を求める言い方。10年前はみんな使っていなかったくせに、今ではNHKのアナウンサーや、浅田彰さんまで使っています。ちょっと前までは、密かに「トゥナイト喋り」と名付けていたんですが、あっという間に広がりましたね。

別に私も「正しい日本語」に拘っているわけではないし、普段は「ら抜き」言葉や乱暴な言葉を平気で使っていますが、それでも気になる言葉はたくさんあります。

次々と現れる疑問の数々。特に「柔らかい = おいしい」という風潮はなんとかして欲しいと思う。

因みに「トゥナイト喋り」という表現は関西では通用しないので、ご注意ください。

「なるみしずかって、そんな喋り方やった?」「トゥナイトやったら、『○○、ごっつ流行ってんちゃう?!』言うんちゃう?!」などという反応が返ってくると思う。


[追記7]

梅子さんから以下のご報告があった。

OO円からお預かりします、との言いまわしに
違和感がある、とのお話について。
私自身、商店を経営していて、お客様に毎回
「OOO円お預かりします」「OOO円からOO円いただきます」
と受け取ったお金に間違いがないか確認します。
OOO円からお預かり・・と言う言い回しは、
上の2つの言葉が省略・合成された結果ではないかと
思います。「OOO円お預かりしました。ここから
お代金をいただきますよ。」と言うニュアンスが感じられます。
私自身はOO円からお預かり、とは言いませんが、
日本人お得意の合成語のように思います。

実際に商店を経営されている方からのご意見には重みがある。ただ、現在使っている人が省略形だと意識しているかどうかは疑問だと思う。


Copyright KOBAYASI Yasumi 2000


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