駄文16 ファースト・コンタクト・シミュレーション


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 京フェスでファースト・コンタクト・シミュレーションの簡易版を行った。

 ファースト・コンタクト・シミュレーションとは2つのチームがそれぞれ互いに未知の宇宙人という設定で、初めての出会いをシミュレーションする一種のロール・プレイイング・ゲームのような遊びである。

 多くの場合、宇宙人の一方は地球人という設定を使うのだが、今回は両者とも地球外生命体である。それぞれの設定は野尻抱介さんと僕が行った。以下、便宜的にそれぞれの宇宙人をノジリ星人、コバヤシ星人と呼ぶことにする。もちろん、それぞれのチームは相手の設定については全く知らない。宇宙船で宇宙空間を飛行している時にばったり出会ったという設定だ。相手に気がついた時の距離は1光月 (光や電波でひと月かかる距離、つまり通信を送って返事が来るまで、往復ふた月かかることになる) 。このまま進むと約10か月後に二つの宇宙船は出会うことになる。以下にコバヤシ星人の設定を示す (HTML 版はここ)。なお、以下の図はすべてクリックすると拡大されたものを見ることができる。

 

コバヤシ星人の設定

 

 以下、コバヤシ星人の視点でファーストコンタクトを描写する。なお、本来なら互いに言葉が通じないため、絵や数字を送ることから順に始めなければならないが、今回は簡易版ということで、最初から単語は理解できることになっている。その代わり、一度に送れるのは絵が1枚と単語10個と制限されている。

 

 未知の宇宙船が見つかった。我々との距離は1光月。約10か月後にはランデブーが可能だ。我々の宇宙船は彼らにはこのように見えているはずだ。

 

小林情報1 (コバヤシ星人の宇宙船)

 

 観測された彼らの宇宙船はこのような姿だった。

 

野尻情報1 (ノジリ星人の宇宙船)

 

 我々のシンプルで美しい宇宙船に較べて、彼らの宇宙船はごてごてとした形状をしていた。また、やけに小さいことも気になる。小人数で移動する習性があるのか、あるいは体格が極めて小さいのか。とにかく、我々は彼らに通信を送ることにした。炭素系で大きな脳を持っていてくれればいいのだが。

 

小林情報2

 

 とにかく、我々が友好的な種族であることを知ってもらわなければならない。そして、我々の目的を理解してもらう必要もある。「もし、あなたが炭素系で大きな脳を持っているのなら、我々のチップを移植して、融合しましょう。それから、できるだけたくさんのお仲間と融合したいので、母星の場所も教えてください」という意味だ。はたして理解してくれるか?

 通信を送ったひと月後にノジリ星人から通信が来た。もちろん返事ではない。この位置では通信は片道約ひと月かかる。つまり、彼らも我々とほぼ同時に通信してきたことになる。

 

野尻情報2

 

 どうやら、自分の姿を示しているらしい。それからこちらの姿と目的を尋ねているようだ。外見は我々とは隔たってはいるが、炭素系生物を思わせるフォルムだ。足の付け根あたりのひだは放熱のためだろうか? だとすると、何かの熱源が存在することになる。気になるのは「流行」という単語だ。この形態が一時的なものであることを示しているのか?

 通信を分析した科学者の一人がノジリ星人と思われる姿の目のような部分についている付属物と彼らの宇宙船についている構造物の類似性を指摘した。となると、これはノジリ星人の姿ではなく、彼らの宇宙船が停泊する巨大なドックを示しているのではないだろうか? だとすると、放熱板の意味もわかる。しかし、彼らはこれが自己の形態であると主張しているし……

 別の科学者は、ひょっとすると我々が宇宙船だと思っているのは実は胞子で、発芽後絵のような形態になるのかもしれないと推測した。だとしたら、かなり巨大な生物である。炭素系の可能性はかなり低い。これは確かめねばならないだろう。我々は2通目の通信を行った。

 

小林情報3

 

 前回の通信ですでにこちらの形態を伝えてあるが、向こうが尋ねてきたこともあって、もう一度我々の形態を描いた。円滑なコミュニケーションのためには質問と回答が対になっている必要がある。もう一つの質問、我々の目的に対しては、「我々はあなたがたの流行を支援することができます。我々と融合すれば、このような新しい流行の形態になれます」という意味の答を書いた。また、宇宙船がノジリ星人の胞子ではないかという疑問を解消するために、幼生かどうか尋ねることにした。

 ノジリ星人から2回目の通信が来た。今度は正真正銘我々の最初の通信 (小林情報2) への答だ。

 

野尻情報3

 

 脳の意味がわからないらしい。少し不安になるが、炭素系であることは肯定している。炭素系で宇宙を航行して、しかも通信ができるのだから、なんらかの神経ネットワークを持っているはずだ。我々のチップはそれらをすべて脳と認識できるため、問題はないだろう。我々の最初の絵を模写して、否定と書いてる。これは融合しない、あるいはできないということか? そして、その後我々とノジリ星人が手 (ノジリ星人のは手と限らないが) を接触させて肯定と書いてある。そして、我々友好とある。少なくとも向こうも友好的だとわかったのは成果だが、向こうの意図がわからない。ひょっとすると、頭部ではなく手の部分に移植しろと言っているのか? そう言えば、最初の通信 (野尻情報2) を見ると、手のところに鞄のようなものがある。これが鞄でなく、脳の格納場所だとしたら……。我々は一歩前進したのかもしれない。

 というわけでこの通信に対する返事を送る。

 

小林情報4

 

 まず意志の疎通ができたことを示さなくてはならない。鞄のような物体の中の脳を明示して、そこにチップを移植する様子を描く。念のため、相手の大きさと脳の体積を訊いておく。これを間違うと後々問題が残る。それから確認の意味で脳の場所を訊く。それから母星の人口も重要だ。20億に満たない場合、さらに別の星を探さなければならないからだ。そして、最後に相手の食性に関する質問をする。これは純粋に好奇心で訊いた。

 まもなく、小林情報3への回答が来た。

 

野尻情報4

 

 彼らは成体だという。ではやはりあれは胞子ではなく、宇宙船か? 向こうはこちらが幼生かと尋ねてきた。質問の意味がわからず、混乱させてしまったようだ。共同の意味もわからず、支援の理由もわからないらしい。意志の疎通ができたというのは勘違いだったのだろうか? それに向こうからの情報がやけに少ない。絵もないし、彼らに関する具体的な情報は全くない。ノジリ星人は何らかの理由で自らを隠蔽しようとしているとしか思えない。理解不能である。 

 我々は振り出しに戻った気分で以下の通信を送った。

 

小林情報5

 

 まず、相手の質問に対する答だ。我々は成体であると伝える。そして、支援の理由は共栄だと。また、とにかく我々を信頼するように伝えた。互いの信頼がなければ、友好関係が築けない。そして、駄目押しに彼らの姿が我々のそれに変化し始めた様子を描いた。いくらなんでも、これの意味することは一目瞭然だろう。上に幸せ、流行と書いておく。これが幸せな状態であり、流行だという意味だ。彼らは最初の通信から「流行」という言葉を使っていた。おそらくかなり思い入れがあるに違いない。

 小林情報4に対する返事が戻ってきた。

 

野尻情報5

 

 なんと今回は「合意」の意味を尋ねてきた。「脳=本体」というのはどう言う意味かわからない。脳が本質だといいたいのか? さらに、「友好」の定義まで訊いてきた。野尻情報3で自ら友好という単語を使ったのにもかかわらずである。何とも奇妙である。しかも、脳についても母星についてもなんの答もない。辛うじて大きさが50センチとわかったのみだ。少なくとも、宇宙船自体が胞子でないことだけははっきりした。しかし、これはいったいどういうことか?

 我々は全員で協議した結果、以下の結論に達した。

 ノジリ星人の通信は最初はかなり高度なものだったが、時を追うごとにどんどん稚拙になり、とうてい同じ集団が発したとは思えないものになっている。これはなんらかの原因で彼らの能力が低下していっているとしか思えない。何らかの病気で弱っているのか? あるいは、非常に短期間で世代交代が起こるため、知識の継承が間に合わないのか? いずれにしても、彼らは今危機的状況にある可能性は非常に高い。我々は知的生命体として、同じ知的生命体の危機を看過するわけにはいかない。直ちに救助に向かうべきだ。我々と融合すれば、彼らは知性を失わずにすむ。

 

小林情報6-1

 

 相手の能力が低下して、すでに漢字が読めなくなっているかもしれないので、ひらがなで表記した。「ぼけ」というのは能力の急速な低下を平易な言葉で表現したものだ。最後は「しあわせ」と書こうと思ったが、今の彼らにとっては「りゅうこう」の方がわかりやすいのではと考え直した。絵は我々の宇宙船がノジリ星人の宇宙船と並んで飛んでいる様子で、これからランデブーして救助することを伝えている。

 

小林情報6-2

 

 通信を送ると同時に我々は 100 G 加速を始めた。ほぼ13日で向こうの宇宙船に到達する。現在のところ距離は約10光日なので、向こうに通信が届いた3日後ということになる。早く彼らを救助したいと気ばかりが焦る。

 と思っていると、彼らからも通信が来た。

 

野尻情報6

 

 なんと、向こうもランデブーを望んでいるようだ。向こうの計画では1光日離れて並行して飛び、シャトルを送る気らしい。

 

野尻情報7

 

 ランデブーポイントに近付くと、ノジリ星人はすでに行動を開始していた。シャトルから2体飛び出してきた。我々と同じく真空中でも平気らしい。しかし、体長50センチと言っていたはずではなかったのか?

 

小林情報7-1

 

 我々は協議の結果、相手の船に50キロメートルの距離まで近付き、乗組員のうち5000人で相手の船まで宇宙遊泳を敢行することにした。シャトルから出てきた2体に対しては8人を迎えに出す。

 ノジリ星人の宇宙船の入り口がわからない時は、船殻を直接ぶち破ればいい。真空にさらされても死なないことはわかっている。この時になって、仲間の一人が、我々の宇宙船の噴射であるγ線バーストを大量にノジリ星人に照射してしまっていたことに気がついた。放射線に弱い生物なら深刻な事態になるかもしれないなどと言う。考え過ぎだろう。

 我々5000人がノジリ星人の宇宙船に近付くと、入り口が開いた。我々はどっとなだれ込む。そこには絵の通りのノジリ星人が440人も立っていた。おお。ついにこの時が来た。歴史的な一瞬。ファーストコンタクトだ。

 我々の一人とノジリ星人の一人がゆっくりと歩み寄る。そして、充分な距離に達したところで、ノジリ星人の鞄に注入器を突き刺し、チップを移植した。これで、一人融合達成だ。融合さえしてしまえば、後のコミュニケーションは飛躍的に容易になる。と、思いきや、様子がおかしい。ノジリ星人に変化が全く見えない。刺されたノジリ星人は脳の入れ物であったはずの鞄のようなものを開け、中を観察している。本当にただの鞄だったらしい。我々は鞄の中に脳があるとばかり思っていたので、心底驚いてしまった。我々はノジリ星人にすっかり騙されていたのだろうか? しかし、彼らはなぜ我々を騙すのか? 

 とにかく、こういう時に慌ててはいけない。我々は自体に冷静に対処した。とにかくノジリ星人の脳がある可能性が高そうな頭に全員でチップを注入するのだ。ノジリ星人はまだ何か誤解をしているらしく、狭い船内の中を逃げ惑う我々は片っ端から捕まえてはチップを注入した。ノジリ星人が暴れたため中には腰や腹や胸や足や手に注入してしまったものもいた。しかし、またもや変化がない。これはひょっとすると、何か根本的なところで間違いを犯しているのかもしれない。ノジリ星人のうち何体かは自らの体の中のチップを取りだし、分析を始めた。なんということだ。分析などしたら、チップ内部の量子状態が破壊され、人格の復元は不可能になってしまう。ついに犠牲者が出てしまった。しかし、これでノジリ星人が残虐な性質の持ち主だと決めつけるのはまだ早い。おそらく彼らは自分たちがしたことの意味を理解していないのだろう。

 我々は同化することこそが友好であり、そのために脳の場所を知る必要があると説得しようとしたが、どうもうまく伝わらないのか、要領を得ない。相手は我々を被創造物かと尋ねてきた。ん? 彼ら自身は自分たちが被創造物だという自覚があるのか? そういう宗教観を持ってるだけか、あるいは……。

 我々は逃げ惑うノジリ星人を一人捕まえて、生体解剖してみた。体内の構造はわからないが、気をつけてやれば生命に別状はないだろう。中を見て驚いた。ノジリ星人は金属やシリコンからできていたのだ。ノジリ星人はロボットだったのか? しかし、それでは炭素系かと訊いた時、肯定したことと矛盾する。そう言えば、通信文に妙なことが書いてあった。確か「脳 = 本体」とか。なるほど、これで意味がわかった。炭素系の本体は別にあり、このロボットのボディを操っていたのだ。ようやく相手の状態を理解した我々はあらためて尋ねた。「あなたがたはどこにいるのですか?」

「我々は同化を望まない」

「あなたがたは間違っています」

「いや。あなたがたが間違っている」

「我々を信じてください」

「我々はあなたがたを信じない」

 これでは堂々巡りだ。

 我々はとにかく同化・融合を行うことが先決だと、ロボットたちを押しのけ、船内の探索を始めた。

 

小林情報7-2

 

 ドアを引き剥がし、壁をぶち抜き、捜索を続けるうち、50センチメートルほどの不定形生物を1匹発見した。すかさず、チップを埋め込む。しばらく変化がなかったため諦めかけたころ、ようやく動きが変わり始めた。意識の融合を果たしたのだ。

「ノジリ星人の目的はいったい何なんだ?」わたしは融合した個体に話し掛けた。

 しかし、不定形のそれは返事を返してこない。当たり前だ。発声器官がないのだから。

 さて、どうしたものかと考えあぐねていると、ロボットが1体大騒ぎをしているのに気が付いた。

「大変だ! 大変だ!!」

「何が大変なんですか?」

「あっ。船長。わたしです。わたしです」ロボットは先程融合に成功した個体を指差す。なるほど、あの個体が操っていたロボットがこれという訳か。本体とは無理でも、ロボットとコミュニケートできるのなら、問題はない。

「大変なことになりました!!」

「とにかく、落ち着くんだ。何事も落ち着くことが肝要だ。まず、この不定形生物がノジリ星人の正体で今しゃべっているのは召使のロボットか何かなのか?」

「だいたいあってますが、少し違います。これはロボットというよりもマニピュレータに近いものです。本体の意志の通りに動く人工の体のようなものです。そんなことより……」

「じゃあ、『流行』ってどういうことだ?」

「我々/彼ら/ノジリ星人はマニピュレータの形状に関する拘りを持っています。この宇宙船の進行方向にあった地球という星から傍受した電波の映像の中に『女子高生』という地球最強の生命体が出ていたので、その形態をまねたのです」

 なるほど。そう言われて見れば、かなり強そうだ。

「彼らの母星の位置は?」

「あまりに昔だったので、覚えていません」

「他のノジリ星人はどこに隠れている?」

「知りません。みんな勝手に隠れましたから」

 使えないやつだ。

「どうして、ノジリ星人は我々との融合を嫌がるんだ?」

「我々/彼ら/ノジリ星人は直接的な肉体の接触をはしたないものと考えているのです」

「融合は単なる肉体の接触ではないと伝えてくれ」

「我々/彼ら/ノジリ星人は個人のアイデンティティーの喪失を恐れています」

「記憶が残るんだから、アイデンティティーも残るぞ。もちろん、基本 OS は我々のものだが、同じ脳で2種類の OS は動かないし、融合プログラムはこちらの OS でしか動かないんだから、仕方がない。とにかく、残りのノジリ星人も探し出してチップを埋め込もう」

「その余裕はないと思います。我々/彼ら/ノジリ星人はすでに船内のすべての記録を消去し、全方位に向けて、我々/あなたがた/コバヤシ星人に対する警告を発しました。そして、そのチップが人格の融合を行うものだと知り、核融合爆弾のスイッチを入れました」

「えっ?」

 世界が真っ白に輝いた。

 気が付くと、我々は宇宙空間に浮かんでおり、ノジリ星人の宇宙船は跡形もなくに吹っ飛んでしまっていた。我々の多くが大怪我をし、何人かの尊い生命が失われた。そして、ノジリ星人は全員が死亡してしまった。宇宙船に回収された後、聞いた話によると、シャトルから出た2体の女子高生も同時に爆発したらしい。

 まさか、こんな乱暴な種族が存在するとは夢にも思っていなかった。接触した途端、相手側が自決してしまうなんて最悪の結果だ。こんなことなら、先にシャトルから出てきた女子高生を回収しとくんだった。彼らとまず融合すれば、ノジリ星人に奇妙な偏見が存在することを知り、船に乗り込むことを諦めたかもしれない。そうすれば、440人のノジリ星人の命が失われずにすんだのに……。

 我々は数日間悲しみにくれ、喪に服した。そして、悲しみが薄らぐまもなく、新たなる旅立ちをする。

 ノジリ星人の母星を見つけるのは絶望的だろう。それに全方位に向けて我々に対する警告が出ているそうだから、これから先、ますますやりにくくなりそうだ。

 ひとまず、女子高生とやらが支配する地球とやらにに進路をとるしかないだろう。やれやれ。

 ボッホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェホェ……

 

 以下に参考として、野尻チーム側の設定資料を載せる。

 

 

 なお、ノジリ星人側からのレポート野尻さんが書かれている。合わせて読むと面白いかもしれない。

 


Copyright KOBAYASI Yasumi 2000


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