駄文17 機械翻訳


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  翻訳家の田中哲弥氏は『悪魔の国からこっちに丁稚』 (ディ・キャンプ著) を翻訳する時、スキャナーと OCR と翻訳ソフトを購入して省力化を計ろうとしたそうだ。原文をスキャナーで読み込み、OCR でテキスト・データに変換する。そして、翻訳ソフトで日本語に変換して、出版社に送る。こうすれば、いっさい英語を読まずして、印税を手にできるという訳である。本人は名案だと思ったが、OCR と翻訳ソフトがアホ過ぎて、実行できなかったとのことである。もしうまくいくのなら、僕も翻訳家になれるのに。残念なことである。

 ところで、翻訳ソフトというのはそんなに使えないものだろうかという疑問が涌いてくる。そこで、翻訳の正確さを検討する指標を考えてみた。つまり、ある言葉から初めて、和文英訳、英文和訳を繰り返すのである。訳が正確なら、何度繰り返しても、元の意味からあまりずれないはずだ。

 早速、翻訳サイト「Excite 翻訳」で試してみよう。このサイトは単にテキスト翻訳ができるだけでなく、URL を打ち込めば Web ページ全体を訳してくれて、とても便利である。

 玩具修理者 → Toy repair person → おもちゃの修理人 → Repair people of a toy → 玩具の人々を修理します。 → People of a toy are fixed. → 玩具の人々は固定します。 → People of a toy are fixed.

 おお。いつの間にか、主語と述語を備えた文章になっているではないか。和訳の時に "repair" の品詞を間違えたことが原因のようだが、"Repair people of a toy" という英語自体、native speaker にはどういう意味にとれるのだろうか?

 人獣細工 → 人獣 work → 人獣作品 → 人獣 work

「人獣」に相当する英語はないらしい。(日本語もない?)

 密室・殺人 → Locked-up room and homicide → ロックされたアップ余地および殺人 → Rise room and homicide which were locked → ロックされた上昇室および殺人 → The rise room and homicide which were locked → ロックされた上昇室および殺人

 "Locked-up room" を「ロックされたアップ余地」と訳すのはうまくない。それに対して、日本語の「アップ」には動詞的意味合いがあることを知っている英訳側はなかなか高度である。

 肉食屋敷 → Carnivorous mansion → 肉食性のマンション → The apartment of meat diet nature → 肉食事自然のアパート → The apartment of carnivorous thing nature → 肉食性のもの自然のアパート → The apartment of the thing nature of meat diet nature → 肉食事自然のもの自然のアパート → The apartment of the thing nature of carnivorous thing nature → 肉食性のもの自然のもの自然のアパート → The apartment of the thing nature of the thing nature of meat diet nature → 肉食事自然のもの自然のもの自然のアパート → ……

 なんと収束しない。「屋敷」を "mansion"、「マンション」を "apartment" と訳すのはいいとして、"mansion" を「マンション」と訳すのは一般的なのだろうか? "mansion" に「マンション」という意味があるのは知っているが、第一義的には「館」もしくは「屋敷」ではなかろうか? また、内蔵する日本語の辞書に「肉食性」という言葉がなかったために、"meat diet nature" と直訳したらしい。この時点では苦しいながらも意味がわからなくはない。しかし、"meat diet nature" をさらに直訳して「肉食事自然」としてしまったため、意味不明の日本語になってしまった。

 奇憶 → 奇憶

 これはすぐ収束した。

 アルゴリズムとしてはまず単語を拾って辞書を探し、ない場合はさらに分解して辞書にある単語に当て嵌めるようだ。そして、それでも見付からない場合は翻訳せずにそのままにする。合理的だが、辞書が充実するまではどうしても誤訳が発生してしまうのは仕方がない。もちろん、今後さらにこなれた翻訳になっていく期待はもてる。

 ただ、英語を読まず、訳文もチェックせずに翻訳家の仕事ができるようになるのはもう少し先になりそうである。


Copyright © KOBAYASI Yasumi 2001


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