駄文18 パンチ力 1 t?


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  以前から気になっていたのだが、スポーツ番組などで、パンチやキックの衝撃の強さを表すのに、kg を単位とすることがよくある。ボクサーのパンチは 600 kg だとか、相撲取りの「ぶちかまし」は 1 t もあると言われると、なるほどボクサーのパンチは普通の人の体重の10倍ぐらいか、たいしたものだなあと、つい思ってしまうが、衝撃の強さを kg で表すというのはつまりどういうことなのか? 端的に言うと、定義が知りたいのである。

 1000 kg が 1 t に相当するようだから、これは日常普通に使っている kg らしい。SI 単位系では kg は本来質量の単位なのだが、慣用的に力の単位に使うこともある。(ここでは、混乱を防ぐため、質量の単位は kg、力の単位は kgf としておく) しかし、この場合の「力」と言うのはあくまで静的なもので、動的な衝撃を表すのには相応しくないように思う。

 動的な衝撃の強さは普通、運動量 を使うのが普通だ。これは質量と速度を掛け合わした値で、「力」と「力がかかっている時間」を掛け合わした値 (力積という) にも等しい。

 具体的にいうと、質量 145 g の野球のボールを時速 140 km で投げたとしよう。145 g は 0.145 kg、時速 140 km は約秒速 39 m なので、概数で 40 m/s としておこう。この場合、運動量は 0.145 × 40 = 5.8 (kg・m/s) となる。単位を力と時間で表すと、5.8 N・s である。N というのは力の単位で「ニュートン」と読む。 s は秒 (second) のことだ。1 kgf はだいたい 9.8 N なので、5.8 N・s ≒ 0.6 kgf・s となる。つまり、600 gf の力で 1 秒間押されたのに等しい。

 おや? そんな小さいはずはないだろう。野球のボールの衝撃は何百キロもあるというではないか、と思われる方は多いのではたいだろうか? 単位をよく見て欲しい。時間の単位 s (秒) がくっついている。600 gf というのはあくまで、衝突が1秒間続いた時の力なのである。普通、ボールがぶつかって止まるまでに1秒もかかることはない。仮に衝突の時間が1000分の1秒だったとしよう。この時ボールから受ける力は 600 kgf となる。

 なんだ。それなら、答が合うじゃないか、と思われた方は大きな見落としをしている。衝突にかかる時間が1000分の1秒だというのは適当に決めた値であって、実際にはどれだけかかっているかはわからないのだ。もし、それが100分の1秒なら、かかる力は 60 kgf になるし、10000分の1秒なら、6000kgf (6 tf) になってしまう。

 実際の衝突時間を測定して、換算したのではないかとも思うのだが、衝突に要する時間はぶつかった相手がバットなのか、ミットなのか、地面なのか、ネットなのか、ヘルメットなのか、打者の肉体なのかで全く違うはずだ。

 ボクサーのパンチにしてもボディに当った時と、ヘッドギアに当った時では衝突時間は違うだろうし、ボディでも筋肉質の場合と脂肪肥りの場合は違う。体重が軽過ぎて、吹っ飛ばされた時などは衝突時間は長くなり、実は力はあまりかかっていないのだ。殴りつける対象の材質によって、かかる力は変わってしまうのに、どうして何の説明もなくパンチの衝撃力を kgf で表すのだろうか?

 そんな難しい理屈ではなく、単に体重計と同じ仕組みのものを殴った時の針の目盛りを読んでいるだけだろう、と思われる方もおられるかもしれない。しかし、静的な力は精密に測定できる体重計でも、動的な衝撃だと、機種によって表示する値はまちまちになってしまう。なぜなら、体重計にもさまざまな材質があり、衝突時間は一定ではないからである。

 というわけで、スポーツで使われる kgf 単位の衝撃力の定義をご存知の方がおられましたら、是非ご教授願いたい。


[追記1]

 上の文章を掲載した後、林譲治さんから以下のような報告があった。

 パンチ力の定義ですが、「ある条件下におけるある人物のパンチ力を1パンチ力とする」というような基準ではないでしょうか。パンチ力が問題となるのはボクシングかプロレスの類いだけでしょうから、おそらくそうした団体か外郭団体に「パンチ力原器」に相当するようなボクサーなりプロレスラーがいるのではないでしょうか。

 そういう団体が具体的にパンチ力をどうやって測定しているかはさすがに私も存じません。業界公認パンチ力測定士のような人が自分の腹を叩かせてパンチ力を判定するかもしれませんし、「摂氏四度の室内で規格に法ったビニール袋に入れた10リットルの水を殴って、水温の上昇からパンチ力を評価する」みたいな方法があるかもしれません。

  パンチ力の規格化のための一提案として興味深い。しかし、実際に「1パンチ力」などという単位は使われておらず、なぜ kgf を単位とするのかという、僕の疑問は解決しないままである。


 [追記2]

  さらに、いのうえさんから以下のような考察が寄せられた。

 はじめまして。「駄文18 パンチ力 1 t?」拝見させていただきました。いきなりで失礼かとは思いますが、感想に代えて私の考えを述べさせていただこうかと思います。

 元はと言えば、以前、某ボディビル系の掲示板で、パンチゲームの話題が出たとき、資料となるものを検索しまして、読ませていただいたものです。基本的に、私も、パンチ力を「力」として測定するのはしっくりこない部分があるのですが、別に、私の意見をお伝えしたいと思います。

 まず、「パンチ力」というものは、物体を破壊する能力だと考えられます。で、物体の強度というのは、耐えられる「力」の大きさで表します。橋などの建築物だと「耐荷重」なんていいますが、基本的に「力」です。ですから、「パンチ力」を破壊できる物体の強度をものさしにして計測する、すなわち、「力」を単位にするというのは、合理的なようにも思えます。ただ、おっしゃられているように、動的に力を加えた場合には、パンチが当たる物体の状態によって、かかる力の大きさが変わるでしょう。同じ強度でも、木の板とビニールシートでは、破壊のやり方が違います。物体の強度というのは、その力をずーっとかけ続けた時、いいかえれば、その重量の重りを上に乗せた状態で耐えられるかどうかですからね。測定ということであれば、材質や構造を定めた「パンチ力原器」をいろいろな強度でつくって、破壊できるかどうかで測定すればいいような気もします。

 一方、もうちょっと汎用的に「パンチ力」を表す単位というものはないのかと、その掲示板でも話題になったのですが、結局、あやふやになってしまいました。もともと、そういった内容を議論する場所ではなかったので、仕方がありません。考えたのは、「力」の他に「パワー(仕事率、力 × 速度)」とか「物体に伝わったエネルギー量(仕事量、パワー × 時間)」です。

 そんな中、「力積(運動量、力 × 時間)」の話もあったのですが、私としては、「これは違うんじゃないかな?」という印象があります。確かに、ボールをバットで打つ時などはこれでいいのですが、「力積が大きければ物を壊せるか?」という問いには No ということになります。なぜかといえば、先も申し上げたように、物体の強度というのは「力」が関係します。弱い力でいくら長時間、たとえ永久的に力を加え続けても、物は壊れないからです。物体の状態としては、加えた力とその物体の復元力が釣り合って止まってしまった状態になります。

 では、逆に、「力」さえ大きければいいのかというと、そうでもないと思われます。

 物が壊れるというのは、力を加えて物体が変形して、物体がそれが耐えられなくなった状態です。物体の変形には多少時間が必要なので、いくら力が大きくても、ある程度の時間がないと、やはり物は壊れないだろうということです。

 そうなると、「ゆっくりでもいいから大きく変形させればいいのか」とか、「いや、限られた時間にどれだけ変形させられるかだ」という話になったのですが、結論は出ていません。格闘技経験者が言うのには、練習でサンドバッグをパンチするときでも、揺れの大きさよりも、当たった時の音の方を重視しているとかでした。じゃあ、「マイクで拾って音の大きさを測るか」なんて話になってしまいました(笑)。

 以上、結論のないままで申し訳ないとは思いつつ、お話をさせていただきました。まだサイト全体を拝見させていただいていないのですが、楽しそうな文章がいっぱいありますね。これからじっくり読ませていただこうと思っています。また、感想等、お伝えできればと思います。

 かなり、深く考察されていて、興味深い。どうやら、パンチ力というのは、スポーツ界でも認知されているわけではなさそうだ。しかし、だとすると、パンチ力に力の単位を使い始めた切っ掛けって何だったんだろう? あとパンチ力計が実際に何をはかっているのかも気になるところだ。


[追記3]

 "Su" さんからも以下のような考察が寄せられた。

 はじめまして。小林さんおよび先のお二人の考察、興味深く拝見しました。小林さん自身も本職は工学系のご職業とのことで、すでに提起済み、ご周知のことも多かろうかと思いますので、計測的な観点から私自身が感じていることを中心に述べさせていただきたいと思います。

 騒音などの場合、法規制が前提にあるため、それに基づく計量は大変意味のあることとは思います。が、反面、騒音計を利用した”大声コンテスト”で「あなたの声は○○デシベルです」といわれても、「あの人はマイクに向かって声を出したけど、私は少し外れた」「いや、あの人の方が聞いた感じではうるさかったぞ」「もうちょっとマイクに近づけないと」など、おそらくここでの”パンチ力何t”の場合と同じ問題を提起してくれるものと思います。ただ、この場合、辛うじて競技(?)としての性格を失わずにいるのは”騒音計”という、明確なものさしが明示されているからだと思っています。しかし、だからといってここで計られた”○○デシベル”が、その人の声のうるささを正確に表している訳ではないと思います。

 ところで、パンチ力の場合ですが、工学分野でこの種の衝撃力を計測する場合、通常は、(1)入力の時間波形、(2)入力インピーダンス(拳と物体に運動センサを配しその間の伝達関数を計る)などにより、複合的に検討されるものだと思います。

 例えば、ゲームセンターに置かれているタイプのパンチ力測定器は、パンチを受ける可動部が倒立振り子状の形状をしており、入力に対する運動のモデル化が比較的容易であると思われます。あいにくゲーム機に明るくないので計器部の詳細は不明ですが、力センサに限らず、加速度センサでも比較的容易に入力の測定・同定は可能かと思います。しかし、この場合は、あくまでも”ゲーム機にパンチを加えた時のパンチ力”であり、すべての物体に対するパンチ力を表していないのは、ご周知の通りです。それと同様に、実験室で得られたパンチ力も単一の値そのものは、その実験条件での値を示しているに過ぎません。

 そもそも力そのものが、物体に作用して初めて発生するものであり、物体の特性を無視しては考えられない性格のものですから、先の”複数のパンチ力原器”のアイデアは、”瓦が何枚割れるか”と同程度のわかりやすさで、受力物体個々の特性を相殺する点で、単一の数値でパンチ力を表すよりは、遥かに理に適っていると思います。若干異なるアプローチですが、個人的には、パンチを繰り出す人の体の動き(3DCG作成技術が応用できそう)や身体的な数値から、モデルを作って、その人の拳そのものが持つパンチのポテンシャルが計算できると面白いかなと思っています。どちらにしても、パンチ力のメカニズムを正確に知るには、加える側と受ける側の双方からのアプローチが必要になるものと感じています。

 確かにパンチを受ける側の物性が数値に影響を与える以上、ゲームセンターやテレビのバラエティ番組などで表示されるパンチ力はその測定器を使った時の相対値を表すだけだと割りきれば問題ないのかもしれない。しかし、世間ではパンチ力を現す数値が絶対的なものだと考えられているようだ。

 ところで、「パンチ力測定器」がバネ式の重量計と同じ原理だとすると、力を測っているのですらないのかもしれない。運動する物体がぶつかった時の最大変位を x、物体の運動エネルギーを E として、損失がないと仮定すると、

  E = (1/2) k x^2

という関係が成り立つ。バネばかりの表示は変位 x に比例していると考えられるので、パンチ力は運動エネルギーの平方根に比例していることになる。


[追記4]

 "Su" さんから2度目のメールをいただいた。

 計測物理量の件ですが、パンチの場合は、反発が明確には捉えきれないように思いましたので運動の力の釣り合いから考えてみてはと、思っています。

 sをラプラス演算子とすると、

     F=(M*s^2 + C*s + K)*x

(xは変位、Fは損失を差し引いた入力、M、C、Kは、物体の質量、減衰、ばねの定数)

 変位(または、速度or加速度)が計測できれば、実際に物体に働いた力が上式により求められると考えています。(実際には無視できる項があるかと思いますが)

 おっしゃる通り、損失や反発を踏まえて入力以前を検討する際には、エネルギーの検討も必要なのかなと考えています。

 すでに高校の物理の領域を越えてしまっているが、厳密に検討するにはこの程度の解析が必要なのかもしれない。しかし、なぜパンチの威力を表すのに、力の単位を使うと世間は納得するのかという疑問は解決されないままだ。1 t の錘を体の上に載せて十秒以上放置すれば、たとえ関取であっても死んでしまうと思うが、1/100秒なら子供でも何のダメージもない。どうして、重さが破壊力の基準になり得ると思う人が多いのだろうか?


[追記5]

既達さんから以下のようなメールをいただいた。

駄文18 パンチ力1t?を拝見させていただきました。
すごいですね。
普通の人なら、別に何も気にしないようなことに目を向けるなんて、なかなかできないことだと思います。
エーとですね。
私の知っていることを、屁理屈のように書かせていただきます。
あと、私はあまりSI単位には詳しくないのですが、あまり気にせず、読み流してください。
よろしくお願いします。

基本的に、今まで私がゲームセンターで見かけたパンチ力測定装置は

  (1)約90度傾いて測定を行うもの。
  (2)水平に下がって測定を行うもの。
の2機種が主で、

  (3)ボールのようなものがぶら下がっているものを叩いて測定を行うもの。

もあったと思います。

(1)はトルク計のセンサーを使って測定しています。
トルク計の値は知ってはいると思いますが、軸を固定した状態で1メートル先に既知の荷重を負荷して出た数値が(既知kg/m)例1kgの基準分銅を負荷するとして1Kg/mです。
ちなみに、ゲーム機のトルク計は軸を固定しているわけではありません、一定の負荷がかかるようにしてあるはずです。

(2)はほかの人も書いていましたが、加速度計のセンサーを使っています。
移動距離と動く物体の質量は決まっているので簡単に出るはずです。
(3)はどこで計っているのかよくわからないので、書けません。

(1)は叩く高さによって同じ力でも値が変わってしまいます。
(2)には(1)にもいえることですが、レールに対して水平の加速度を測るので、レール方向以外にぶれてしまったときは(変荷重)などがかかり正確な値が測定できません。
感度方向のみの測定になっているはずです。

ちなみに、空手の選手の突きの力を測定したときや、蹴り・等々の場合には、ほとんど変形しない剛性の大きな柱(土台)にセンサーを取り付けて、天然ゴム・クッション等を重ねたものを叩いたり、蹴ったりします。
そのときの、ピーク値を測定します。

測定前には、既知の荷重または同等の模擬入力をかけて校正しておきます。
解りやすく書くと、柱ではなく地面に置いた状態にして例えば500kgを乗せて増幅器の出力が5Vの電圧(DC波形)だったとします。
それを今度は柱に取り付けて、スンゴイ人が叩くと増幅器の出力電圧が10V(もちろんAC波形のピーク値)であれば、単純にパンチ力は1000kg同等となります。
あくまで、同等という意味なのです。(力であればN(ニュートン)が正しいかもしれませんが)
日本国内で一般に浸透していることも手伝ってkg表示になっているのだと思います。

測定器には、(動ひずみ測定器)を使用しています。応答速度はメーカーや型式にどによりまちまちですがDC〜2.5KHzなどがあります。
DC成分から測定できるのです。
ですから、静的な力と動的な力のピークを比較できるのです。

私が知っていることは大体こんなところです。
お役に立てたでしょうか?
それでは〜。

 やはりゲームセンターにあるものは正確な測定ができるものではないということらしい。

 ピーク値は衝突時間の影響を受けるので、天然ゴム・クッション等は同じものにしておく必要があるだろう。


[追記6]

 またまた、林譲治さんからメールをいただいた。

 パンチ力をなぜkgで表現するか。もしかすると出発点から考え直した方が良いのかもしれません。つまりkgはkgであって、それはやはり質量を現しているのだと。

 パンチというのは単純に腕の筋力の問題ではなく、腰とか足とか全身を使う。さらにそれらの筋肉の制御は脳で行っていることから考えれば、特定の筋力のみでパンチ力を表現するのは適切ではない。

 またパンチ力が問われるのが格闘という状況であることも注意すべき点でしょう。つまりここでは闇雲に強いパンチ力を議論はしていない。適切なタイミングで適切なパンチを繰り出す能力。単純に強いだけであれば自分もダメージを負ってしまう。つまり最低限度のコストで最大の効果をあげることがパンチ力では要求される。そうした観点に立てば、パンチ力とは筋力+状況判断・制御のトータルな能力が問われることになる。

 そうなるとパンチ力とは物理的な「力」ではなく、パンチ「能力」の事だと解釈できる。情報処理が必要になるからです。

 ここで話は最初に戻る。パンチ力がパンチ能力だとして、ではなぜそれがkgで表現されるのか。それはパンチ能力を行使するのにエネルギーが必要であり、そのエネルギーを摂取すべき食物量に換算するからでしょう。運動などではブドウ糖換算などが行われるようです。

 人間の臓器の中で脳は、重さに比して多量のエネルギーを消費することが知られておりますが、パンチ能力が相手の状況を解釈し、それに対して適切な攻撃・防御を行う能力だとすれば、筋力共々少なからず脳細胞はエネルギーを必要とする。それに必要なブドウ糖の量を重量換算したのがパンチ力ではないでしょうか。こう考えるならパンチ力がkgで表現されるのも説明がつきます。 ただブドウ糖換算だとすると、量が多すぎるんだよなぁ……。

 多いどころではない。ブドウ糖の 100 kg のエネルギーと言えば、ちょっとした爆弾並である。というか、パンチを繰り出すたびに恐ろしい勢いで体重が減ってしまうのでは? ああ、だからボクシングダイエットとか流行ったのか。

 


[追記7]

 いのうえさんからも2度目のメールをいただいた。

「駄文18 パンチ力 1 t?」を再び拝見させていただきました。議論が進んでいて、とても興味深く読ませていただきました。
前回、私は「物体を破壊する能力」という観点からパンチ力を考えて見たのですが、実際の格闘技では、もう少し別の見方もできるのではないかということ。そして、そこからあらためて「力」を単位とした表示について、私の考えた点、再びお話させていただきます。

たとえば、相撲の立会いです。東西から力士が出てぶつかり合うわけですが、この場合、両者の接触面にかかる「力」だけを考えたら、双方で同じになるはずです。なので、衝突の結果で発生した「力」だけ比較しても、力士の能力は判断できないと思われます。この場合、衝突した後、接触面がどちらに移動するかが勝負の行方に影響するわけで、「速度」が関係してくると考えられます。つまり、速度が正の場合は当たり勝ちしている状態で、速度が負にの場合は当たり負けしている状態ということです。
そうなってくると、どのくらいの力を受けた場合にどのくらいの速度を発生できるかということが、その力士の能力と考えられます。つまり、「仕事率(パワー)」が重要なファクターなのではないかと思われます。

この、「仕事率」の最大値、「最大出力」というやつですが、人間を対象に測定しようとすると、車のエンジンなどのように一定の「速度(回転速度 …… 単位を考えるとややこしくなるので、ここでは無視したいと思います)」で運動しつづけるものと違って、非常に複雑です。エンジンの場合には、横軸を速度 S、縦軸を発生トルク(力)F とした関数「F = f (S)」のようなグラフが作成されます。これが、トルク曲線です。「仕事率」は「力 × 速度」ですから、縦軸を仕事率 P に置き換えると、関数は「P = S ・ f (S)」となり、このグラフがパワー曲線ということになります。で、このグラフの最高地点が、「最大出力」として表示されるわけです。
ところが、人間の場合、発生できる「力」に影響するのは、「速度(関節の回転速度)」だけではなくて、関節角度そのものも影響します。簡単に言えば、最も大きな「力」を発揮できる姿勢(関節角度)というものが存在します。なので、人間の発揮できる「力」の場合には、横軸を速度 S、奥行き軸を関節角度 θ、高さ軸を発生できる力 F とした関数「F = g (S, θ)」のような立体グラフを考える必要があります。で、高さ軸を仕事率 P で置き換えた関数「P = S ・ g (S, θ)」がパワーを表していることになります。
これの測定には、「アイソキネティックマシーン」というのが存在しまして、作用点にかける力の大小に関わらず動作速度が一定になるトレーニングマシーンを使用します。もちろん、その動作速度をいろいろ変化させて複数回測定し、立体グラフを作成することになります。

以上、「仕事率」が相撲の勝負に与える影響から考えてみたものですが、実は、人間の各部位での運動速度の違いによる発生可能な「力」の大きさを調べると、「速度」が負になった状態のときに最大になるとされています。運動生理学では「伸張性筋活動」とか「エクセントリックマッスルアクション」、「ネガティブ動作」などと呼ばれる状態です。「力」は大きくなりますが、「速度」が負ですから、「仕事率」も負になります。
つまり、相撲でいったら、当たり勝ちしている状態の時よりも、当たり負けしている状態の時のほうが、その力士個人が発揮している「力」は大きいということであって、最初の問題も説明がつきます。ゲームマシーンのような測定機器の場合だと、的が向こうから手前に向ってくる状態のものを作成して叩けば、発生する「力」は大きくなるというわけです。

そこで、衝突後の「速度」についてなんらかの仮定を設定した上で、発生する「力」を比較することができるのではないか、というのが思ったところです。その衝突後の「速度」について、速度 0、つまり、全く動かないことを仮定することも可能であり、合理的とも考えられます。
「追記 5」の既達さんのお話にありますように、格闘技の達人を対象に測定する場合でしたら、ほとんど動かない的を叩いてもらい、測定することも可能でしょう。ところが、素人にこれをやってもらったら、ケガすること間違いなしです。当然ながら、ゲーム機としては、不適当なものとなります。だったら、安全性を確保するために、ある程度は自由に動く的を叩かせた上で、その測定結果から速度 0 の場合に発生する「力」を推定するという選択もあるのではないかと思われます。
本来でしたら、叩くときのフォームなどにより推定結果に差が出てしまうでしょう。的が動いてしまえば、関節角度が変わりますから、その人が全く動かないものを叩く場合に発揮できるテクニックも有効に活用できないと思われます。つまり、移動可能な物体を叩いた結果から、移動不可能な物体を叩いた場合に発生する「力」を推定することなどできないはずなのですが、それでも、標準的な人が標準的な叩き方をしたと想定の上で推定し、比較することはできるのではないかと思われます。

以上、簡単にまとめますと、「パンチ力の表示は衝突後の速度 0 を想定した場合の推定値なのではないか」というのが、思ったところです。いかがでしょうか?

 確かに、作用反作用の法則から言って、パンチする側とパンチされる側が受ける力は同等になるはずである。これは盲点だった。となると、両者の速度は結構重要だ。「衝突後の速度0を想定した場合の推定値」というのは、なかなか鋭いところを突いてくる。


[追記8]

 と思っていると、左道さんからこんなメールをいただいた。

私は中国武術に興味を持ってまして、その中に暗勁と言う物があるらしく拳が触れた状態で打てるらしいです。 とすると、パンチ力を計測するのに距離を入れるのはどうかなと思ってしまったのですが。 以下のアドレスにその事が出てますので、見てみて下さい。

http://www.threeweb.ad.jp/~ujiharam/sunkei.html

 距離0ということは速度も0でパンチを繰り出すということだろうか? またもや、大きな謎が現れた。

 パンチ力、なかなか奥が深いようだ。

 これからも情報お待ちしております。

 


[追記9]

 NOYS さんから以下のようなメールをいただいた。

はじめまして。NOYSとも申します。
すでにちょっと情報が出すぎている感じのあるパンチ力測定の話ですが、私は相当体を鍛えていて、体重を切り詰めた忍者みたいな体格をしており、RV車の外版を軽くへこましたりするほどのパンチ力があるのですが、パンチ力測定をやると、どうしても肉体的スペックに劣っているはずの一般人が私より多くのスコアを出しているの
を見て、「?」と思い、パンチ力で検索していたところ、ここにたどり着きました。
どうやら、パンチ力はゲーム機である欠点があり、速度計算を無視するようにできているようです。
以前の記事にも書かれていますが、パンチ力測定器は的を押し込むことによって重さを計算します。
しかし、あまりにも早すぎるパンチだと、パンチが触れた瞬間にエネルギーが完全に伝わっていない状態で後ろまで倒れてしまうため、早ければ正確に測れないという欠点があるようです。
そのため、体重の重い人が的に十分力を伝えておくまで運ぶように押し込むことで高いスコアが生まれます。
一番確実なのは動かない的を使うか、サンドバッグのように重たい的を使う必要があるでしょう。
しかし、そんな的を一般人が殴れば、中手骨を骨折するか、手首をいためてしまうと思います。
中国拳法でも、密着に近い状態から殴れば、相手を後ろに押す力が生まれ、体の内部に衝撃を加えますがますが、離れた状態から殴れば外部のみの破壊となります。
つまり、外部のみの破壊というエネルギーがパンチ力測定器の場合、的が軽すぎて触れた瞬間に速度の勢いで後ろに倒れてしまい、正確に測れないのでしょう。
自動車の衝突を考えてみても、動かない車に動く車が追突したとして、同じ重さの車でも、速度が乗っていれば、破壊力は重さ×速度の二乗に比例するのですが、これは車がまったく前に押されて移動しないということを考えての計算です。
実際には押されて衝突エネルギーは緩和されてしまいますので、これと同じ原理と考えていいでしょう。
パンチ力の重さが高くても、パンチの速度が遅ければ、実際にはエネルギーを敵に伝え切れません。
ほかにも速度が威力を倍増させる例としては弾丸での打倒力と活力の違いでしょう。
つまり、「俺はパンチ力で150キロ出したぜ。俺のパンチは強いんだぜ〜」と言っている人はあまり当てにならないといったところでしょう。
すでに概出の意見になりましたが参考になりましたら掲載お願いいたします。
それでは。

 極めて体重が軽くて、パンチが当たった瞬間、拳と同じ速度で後退してしまうような人なら、あまりダメージはないのかもしれない。球質が軽すぎて、うまく打てない大リーグボールと同じ原理である。←違う。違う。


Copyright © KOBAYASI Yasumi 2001, 2002, 2003


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