駄文4 雨の中を走る


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 同じ距離を雨の中走るのと歩くのとどっちが濡れないか?

てな、疑問がテレビや雑誌でよく取り上げられる。

 普通、雨が降ってきた場合、傘がなければ走るのが常識だろう。しかし、考えてみると走れば真上から降ってくる雨を前からも受けることになり、余計に濡れてしまいそうな気もする。そうだ。ひょっとしたら、走っても歩いても濡れる量は同じではないだろうか? そうだったら、日常生活の盲点として面白いではないか。いや、きっとそうに違いない。歩いても走っても濡れる量は同じなのだ。これはもう科学的に明確な原理があって、目から鱗が落ちることに決まってるんだ。ああ。科学って楽しいな。

 などとつい思ってしまいそうなねただから、取り上げられるんだろう。でも、結論から言ってしまえば、普通は走る方が濡れないのである。

 もし人間が地面から垂直に突っ立っている板のような形状をしていて、雨が真上から降っているとしたら、走っても歩いても受ける雨の量はほぼ同じになる。板が通過する空間の体積は板の面積と移動距離の積であり、速度には依存しないからだ。しかし、残念なことに人間にはある程度の厚みがある。真上からかかる雨の量は移動距離ではなく、雨の中にいる時間に比例する。したがって、長く雨の中にいれば、それだけ多く雨に濡れることになる。

 このことは簡単な思考実験でも理解できる。建物の入り口から、1m ほど離れた場所に車を止めた場合、一瞬で駆け抜けるのと、のろのろと何分も時間をかけていくのとどちらが濡れるか、明らかだろう。

 ところが以前「あるある大事典」という番組で、「走っても歩いても濡れる量はほぼ同じ」という結論を出していたのを見て、驚き呆れてしまった。

 前半でどこぞの大学教授による「走った方が濡れない」という理論的な説明 (実際には大学レベルほど難しくはない) をさせていながら、「理論だけでは実証できない」という理由で、実際に実験を始めるのである。大量の水をばら撒く中を全身にウレタン状のものを巻きつけた二人の被験者が通りぬける。もちろん一人は歩き、一人は走るわけである。ところが、なぜか実験場には大量の土が運び込まれ、意図的に水はけを悪くして水溜りができるように仕組んであったのだ。歩く方の被験者はそろそろと水溜りの中を歩き、走る方の被験者は派手にばしゃばしゃと泥水を被っていた。その結果、走れば受ける雨の量は減るが、泥水を被るのでウレタンに吸収された水の量はほぼ同じになった。つまり、走っても歩いても濡れる量は同じだったのだ!

 なんだか先に「走っても歩いても濡れる量は同じ」という結論が先にあって、それが成立する条件を無理やりに作ったような印象を免れない。

 番組のプロデューサなり、ディレクタなりがつい「走っても歩いても濡れる量は同じ」と口走ってしまい、意地になって、証明しようとしたように思えてしまう。

 だって、雨の中で走らなければならない状況に陥るのは、まだ水溜りができない降り始めである場合が殆どだし、雨の中で走る時は等速直線運動しなければならないという決まりもないからだ。

 水溜りがあったら、飛び越えるか、迂回するか、そこだけゆっくり進むかするだろう。普通。


Copyright KOBAYASI Yasumi 1999


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