もどる

トップへ


駄文44 鉄腕アトムの廃熱問題

 鉄腕アトムは10万馬力なのである。これは何の数字かというと、おそらく出力を表す数字だと思われる。馬力には英馬力、仏馬力などがあるが、「鉄腕アトム」の執筆時期から考えて、所謂「日本馬力」=750Wとしてもいいだろう。つまり、10万馬力=7500万W=75MWである。高速増殖炉もんじゅの電気出力が280MWであるから、アトム一体で原子力発電所の数分の一程度の出力だという事になる。原子力発電所のエネルギー効率は約30%といわれており、取り出せるエネルギーの約2倍の廃熱が発生する事になる。仮にアトムが未来の超技術で作られているとしても、理論的にはエネルギー効率は50%程度が限界だろう。つまり、アトムがフル稼働すると、出力とほぼ同じ75MWの廃熱が発生する事になる。

 もしこの廃熱がアトムの表面からの黒体放射だけで処理されているとすると、アトムの表面温度はどの程度になるだろうか?

 まず、アトムの表面積だが、体表全部の面積はあまり意味がない。つまり、指の間や脇など体表が対向している部分は互いに放射熱をやりとりするだけだからである。ここは大雑把にアトムの表面を楕円体に近似してみよう。アトムは身長130cm、体重30kgと設定されている。人間の小学生とほぼ同じである。見た目から判断して、比重はほぼ1だと考えられる。アトムを回転楕円体に近似すると、長半径0.65m、短半径0.105m、表面積0.675m2となる。まあ、表面積は0.7m2としていいだろう。シュテファン=ボルツマンの法則により、放射エネルギーは温度の4乗に比例するから、アトムの表面温度は6590K=6320℃に達する。大気圏突入時のスペースシャトルの表面温度ですら1500℃程度なので、これはもう凄まじい温度である。太陽の表面とほぼ同じなのである。

 しかし、アトムが戦っている時、白熱しているというような描写はない。周りの人間が焼け死んだりもしていない。そこで、気が付くのがアトムが10万馬力を使っている時、たいていジェット噴射を行っているという事である。あれは単に飛行するためだけではなく、空冷の目的があるのではないだろうか。膨大な廃熱をジェット噴射の形で放出する事により、アトムは自分が融けたり、周りの人間を焼き殺す事を防いでいるのである。ただし、間違って人間がジェット噴射を浴びたりすると、大変な事になる。おそらく瞬時に蒸発してしまうだろう。

 これで、疑問が解決したかに見えるが、実は落とし穴があるのである。それはウランちゃんである。ウランちゃんは5万馬力という設定なのである。彼女の体格はよくわからないが、表面積がアトムの半分というのはありえる値である。出力が半分、表面積が半分なら、温度はほぼ同じである。つまり、ジェット噴射機能がないウランちゃんがフル稼働すれば、大変な大惨事が発生する事になる。

 あんなものを設計するとは、お茶の水博士は向こう見ずもいいところなのである。


Copyright © KOBAYASI Yasumi 2010


もどる

トップへ