駄文9 配偶者の呼び方


もどる

トップへ


 以下の文章には所謂「差別用語」と扱われている単語が含まれています。もちろん、差別や差別を助長する目的で使用しているものではありませんが、不快に感ずる方がおられることを考え、予めご注意させていただきます。

 冬樹蛉さん日記に便乗させていただくが、あまり親しくない方と話をしていて、その方の配偶者を話題にする時、僕も一瞬緊張が走る方だ。

 いい機会なので、宣言しておくが、僕は、原則的に、自分の妻は「家内」、相手の妻は「奥さん」または「奥様」、相手の夫は「ご主人」と呼ぶ。(関西人同士の場合、「嫁はん」、「婿はん」もある)

 もちろん、「俺の妻は、家から一歩も出してやらないぜ」とか、「おまえの妻は家の奥にしまい込んで、表にだすな」とか、「おまえの夫は奴隷であるおまえのご主人なんだ」とか、主張したいわけではない。これらの単語は現代の日本語で使うに当ってもっとも自然な単語だからだ。漢字の意味を分析するとなにやら、差別的なニュアンスを受ける方もおられるかもしれないが、例えば「貴様」、「お前」、「君」は元々すべて目上の人に対する呼びかけだったし、今でも字面から見れば、敬いの言葉のように思えるが、実際にそういう使い方はしない。言葉というものは時代とともにどんどん意味を変えていくもので、漢字文化であるが故に、元の意味が気になってしまうのだが、現代において、敢えて差別主義を貫くために使っている人もいないだろうし、すでに日常語として定着している。

 とは言っても、結婚後別姓を名乗っている方などは特に言葉に対しては敏感だろうから、「奥さん」とか「ご主人」と言った瞬間怒られるのではないかと、どうしてもどきどきしてしまう。

 だから、もし別の呼び方を使って欲しいという方は、例えば「うちでは妻を『女王様』、夫を『奴隷3号』と呼んでいるので、あなたもそう呼んでください」などというようにご指示いただければ、幸いである。上に書いたようにデフォルトでは「奥さん」、「ご主人」を使いますが、差別的な意図はないのでご諒承願いたい。

 ところで、冬樹さんは「影響力のある大作家かなにかが、早くほかの言葉で駆逐してくれないものかと思う」と仰っているが、僕はこの方法にはつい躊躇してしまう。

 なぜなら、言い換え語ができたが最後、「ご主人」「奥さん」がタブー語になってしまうのは目に見えているからだ。それ以降、過去のドラマの再放送では該当個所の音声がすべて切られてしまう。それだけではない。過去の小説にその言葉が使われているだけで、あたかもその作者に人権意識が欠如していたかのような印象を与えかねない。

 具体的に説明すると、昭和40年代ぐらいまでの小説に目の不自由な人を指して、「めくら」と呼ぶ部分があったとしても、その作者が差別主義者であったということにはならないのである。「めくら」という単語は単に目の見えない人という意味で使われたに過ぎず、差別用の言葉などではなかったのだ。しかし、いったん「差別用語」という烙印が押されてしまうと、タブー視され、日常から隠され、その言葉を使うだけで、反社会的な人間であるかのようにとられてしまう。つまり、「めくら」という言葉自体が汚れてしまったのである。「つんぼ」や「おし」も同様である。

 誤解しないでいただきたいが、僕はこれらの言葉を積極的に使っていこうと主張しているわけではない。いったん汚れてしまった以上、これらの言葉はまさに差別用語になってしまっているからだ。ただ、過去の作品で使われているのに気付いた時には、言葉の時代的な背景を考えて過剰な意味付けをしないで欲しいと思う。

 というわけで、できるだけ日本語に汚れた言葉を増やしたくないので、僕は言い換え語には消極的反対の立場である。

 


Copyright KOBAYASI Yasumi 1999


もどる

トップへ