ドーマン法を考える

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 平成14年4月28日放送の NHK スペシャル「奇跡の詩人」の中で、あまりに不自然な映像が流されました。またこの放送を切っ掛けに、多くの人々がドーマン法について、もしくはドーマンメソッド (Doman Method) について興味を持つことになりました。(奇跡の詩人 FAQ)

 正当な医療行為ではないドーマン法がドキュメンタリーでなんの説明もなく肯定的に取り扱われたことは、視聴者の多くに誤解を与えかねない大きな不祥事です。

 そこで、このページでは、安易にドーマン法を実践して、不利益を受ける人が出ないように、ドーマン法の問題点について、纏めることにします。

 

問題点1: 非科学的であり、効果が認められない。

 ドーマン法とは、障害者・障害児を精神的・肉体的に健常者・健常児に近付けるためのリハビリの手法ということになっています。また、近年では健常児への英才教育にも応用できるとされています。

 しかし、以下の資料で述べられているように、ドーマン法には科学的な根拠はありません。

 ドーマン法を実践している人に機能回復見られた例はあります。しかし、その回復がドーマン法によるものであるという証拠はありません。

 てるてる坊主を吊るした次の日に雨が止んでも、それだけではてるてる坊主に効果があるという証拠にはなりません。

 それと同じくドーマン法を実践した人に回復が見られても、それだけではドーマン法に効果がある証拠にはならないのです。

 ドーマン法に効果があることを証明するためには、同じ症例でドーマン法を施した場合とそうでない場合の回復率に有意差がなくてはなりませんが、ドーマン法が生まれて50年近くが経過したにも関わらず、いまだにそのようなデータは存在していません。

「たとえ、可能性が100万分の1であっても、黙って手をこまねいているよりましではないか。試してみる価値はあるのではないか」という意見もあるでしょう。しかし、ドーマン法には以下のようなマイナスの要素が確実に存在します。

 

問題点2: 莫大な費用がかかる。

 ドーマン法を行うためには、人間能力開発研究所 (ドーマン研究所) に指導を受けなくてはなりませんが、毎年数日間の指導を受けるために、多額の費用が必要となります。また、ドーマン法を行って全く効果がなかった場合でも、費用は返還されません。

 その費用は本来障害者・障害児の教育費や生活費のために使用することができるはずだったものです。

 

問題点3: 長時間の過酷なリハビリが必要である。

 ドーマン法では、毎日十数時間に亘ってのプログラムを実践しなければなりません。

 プログラムの内容は、数人の大人が障害児の手足首を毎日何時間も強制的に動かして、体の動きを脳に学習させると主張する「パターニング」や、10分毎にビニールのマスクで鼻と口を覆い、自分の呼気を繰り返し呼吸させることにより低酸素状態にして、肺機能を活性化させると主張する「マスキング」などの、障害者・障害児に多大な負担を与える様々な手法です。

 当然、通常の教育や訓練・リハビリを受ける時間はなくなってしまいます。若年時に教育や訓練を受けることができないことにより、障害者・障害児に将来多大な不利益が発生することが予想されます。例えば、トイレを利用するための訓練など、基本的な生活訓練は思春期を過ぎると、極めて困難になる場合があります。

 また、ドーマン法では薬物によるてんかん治療を認めていません。しかし、医者の判断によらない抗痙攣剤の投与中止は非常に危険です。

 人間の心理として、莫大な費用や長時間の過酷なリハビリなどの犠牲を払ってしまうと、そこまで犠牲を払ったものに効果がないとは考えたくありません。したがって、本人や家族はドーマン法とは無関係な回復の兆をドーマン法と関連付けて考えてしまいます。

 

 世の中には、一縷の望みを託して、多宝塔や壷や霊能者のお告げにに莫大な金額を使う人たちがいます。これらはドーマン法と同じく科学的な根拠のない治療方法です。だからと言って、その人たちを安易に批判することはできません。

 それと同じく、非科学的手法であることを知りつつ、それでも藁にもすがる思いでドーマン法を実践しようと考える人たちを嘲笑うことはできません。

 このページの目的はあくまで、誤解によりドーマン法を実践し、不利益を受ける人たちが出ないようにすることなのです。

・関連資料・リンク集

・関連サイト・リンク集

・「奇跡の詩人」映像リンク集

 

 関連資料・リンク集

[1] 厚生労働省によるドーマン法への見解

[2] 日本小児科学会のドーマン法への見解

[3] 日本小児神経学会からのNHKへの公開質問状

[4] 日本聴能言語士協会の「FCに対する批判的見解」

[5] Japan Skeptics 会長声明

[6] 有志による「Facilitated Communication (FC) と Doman Method 海外文献翻訳資料集」

[7] 北米10団体による共同声明 「神経障害をもつ子供へのドーマン−デラカト治療法 」

[8] 『異議あり!「奇跡の詩人」』 滝本太郎、石井謙一郎編 同時代社

[9] 『ハインズ博士「超科学」をきる―真の科学とニセの科学をわけるもの』 ハインズ、T著 井山弘幸 訳 化学同人

[10] 『リハビリテーションを考える―障害者の全人間的復権―』 上田敏著 青木書店

[11] 『ナンシー関のボン研究所』 ナンシー関 角川文庫

[12] 『天地無用 テレビ消灯時間6』 ナンシー関 文春文庫

[13]「『ニセ科学』入門」大阪大学教授 菊池誠

[14] 2003/2/22 NHKとの対話記録 (滝本太郎氏および有志の方々とNHKの対話記録)

 

[1] 厚生労働省によるドーマン法への見解 (平成14年11月14日衆議院決算行政監視委員会での厚生労働省社会援護局障害保険福祉部長、上田茂氏の答弁)

 ドーマン法につきましては、その内容や考え方が医学的に必ずしも明らかではございませんが、米国の小児学会において、ドーマン法は有効性が認められないとの見解を出していると承知しているところでございます。また、日本の小児神経学会におきましても、今回の番組の放映を受けて、米国小児学会の声明を引用した上で、ドーマン法については多くの批判があるとの見解を示しているところでございます。このように、専門家の間では、ドーマン法は脳に障害を持つ児童に対し一般的に用いられる手法ではないものと認識されていると私どもは承知しているところでございます。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/005815520021114002.htm

 

[2] 日本小児科学会のドーマン法への見解

 

http://www.jpeds.or.jp/saisin_back.html#021120

 

[3] 日本小児神経学会からのNHKへの公開質問状 (日本小児神経学会誌「脳と発達」第35巻第3号、p.281-282)

日本放送協会(NHK)殿

 去る、4月28日午後9:00〜9:50、貴総合テレビにて放送された、NHKスペシャル「奇跡の詩人―11歳脳障害児のメッセージ―」につきましては、放送後から多くの反響があったと聞いておりますが、日本小児神経学会の会員の多くがこの番組の内容に疑義を持っております。また障害を持つ子どもの親からも会員の医師に問い合わせがまいっております。障害を持つ子どもの診療に当たっている立場から社会活動・広報委員会を中心に検討いたしました結果、下記のような問題があるという結論に至りました。質問状をお送りしますので、誠意をもってご回答下さるよう要望致します。

ご回答につきましては学会誌によって全国の学会員に通知することにしております。

1. この番組は小児神経学的な立場からみると、琉奈君から発せられたメッセージを母親が受け取っているかどうかきわめて疑問に思われます。どのような方法で確認されたのでしょうか。

2. ドーマン法については、米国小児科学会が2度にわたりその非科学性について声明を出していますが、それを把握した上で、この番組を放映されたのでしょうか。

3. 我が国においてもドーマン法については多くの批判があり、小児神経科の診療を否定したり、就学を拒否されるだけでなく、強制的な訓練法を親に押し付けるあまりに家庭崩壊などをきたした方々がおられること、かつ極めて高価な指導料をとっていることなどを知っておられたかどうか、についてお答えください。

 我々はいかなる方法にせよ、過度の訓練を強制的に障害児に行うことは、子供への虐待にも繋がるものと考えています。まして、高額の負担を親に負わせたり、半ば強制的に押し付けることは大きな問題であると思っております。

 この番組をみた親族からなぜドーマン法を受けさせてこなかったなのかと強く非難されたお母さんもおられます。この例からわかるように、この番組は結果的にドーマン法を推奨しているといわれても仕方のない側面をもっています。ドーマン法を中断した幾人かの親たちから中断したことを非難されているように思われるという悲鳴にも似た声が多くの学会員にも届いております。この番組がもたらしたこのような誤解や混乱について責任をもって対応されるとこを心からお願い申し上げます。

      日本小児神経学会 理事長                埜中征哉

      日本小児神経学会社会活動・広報委員会委員長       岡田伸太郎

(10月下旬NHKに送付)

 

[4] 日本聴能言語士協会の「FCに対する批判的見解」 (日本聴能言語士協会会報第27巻第3号p.1-2 )

2003/2/1

会員の皆様へ

日本聴能言語士協会 運営委員会

FCに対する批判的見解

 2002年4月28日にNHKは、NHKスペシャル【奇跡の詩人】という番組を放映しました。「脳に障害のある子が文字盤を使って作る詩が、多くの大人を癒している」という構成の番組でした。

 番組によるとその子は脳性マヒ、あるいは重症心身障害があると思われ、家庭でドーマン法という訓練を行っていました。そのドーマン法により与えられたFC (Facilitated Communication)という手法で詩を作っていたのですが、FCでは介助者がその子の手を持って五十音表文字盤に対する指さしを介助し、また文字盤の方も介助者がもう片方の手に乗せて動かしていました。つまり指す指と文字盤の両者が同時に速い速度で動き回り、読み取りも介助者が行っていたので、果たして本人の意思を表現しているのかという批判が番組に対して起こりました。後日担当プロデューサーが放送の中で釈明したり、NHK会長が国会に呼び出されたりするなど社会問題となりました。

 当協会にもFCに関する問い合わせがありました。調査していくと、療育機関に来なくなった家族がドーマン法を受け入れFCを行っている例が少なからずあること、またドーマン法はすでにやめFCもおかかしいと感じているのに、FCだけはやめられずに悩んでいる例のあることがわかりました。またドーマン法ではありませんが公的な研究機関においてFCを組織的に研究、推奨していることもわかりました。FCの影響は表面化していないところで、一定の広がりを見せていました。

 この問題はコミュニケーション能力に障害がある子の意思伝達介助にかかわる技法や代替手段の保障であり、またコミュニケーションが十分とれない親子や家族を、心理面を含めてどう支援していくかという職能倫理にかかわってきます。STの社会的責任に照らして放置できないと判断しましたので、事実関係を整理し情報を提供して、会員の注意を喚起したいと思います。

・FCは1980年代にオーストラリアにおいて創始され、1990年アメリカに紹介されると瞬く間にひろがりましたが、やがて大きな社会問題を引き起こしました。1990年代前半に激しい論争や裁判が起こされ、終息していきました。(ドーマン法がFCを摂取する以前の)そうした歴史を概観した総説には、以下の論文があります。

毛塚恵美子 Facilitated Communication論争の軌跡をたどる。児童青年精神医学とその近接領域 43(3);312−327(2002)

・日本にFCを紹介したのは、国立特殊教育総合研究所の落合俊郎氏(現広島大)だと思われますが、最近の氏の見解は以下の論文に見ることができます。

国立特殊教育総合研究所 特別研究報告書 障害のある子どもの書字・描画における表出援助法に関する研究。平成12年3月

・ドーマン法は1970年代より日本でも営業をしており、FCを創出したわけではありません。ドーマン法がどのようにFCを取り入れ、使っているかについて問い合わせましたが、返答がなく、検討することができませんでした。

・国会(衆議院決算行政監視委員会、2002年11月14日)でこの問題が取り上げられた際、厚生労働省がドーマン法に対して示した見解は以下のホームページで見ることができます。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/005815520021114002.htm

・小児神経学会がNHKに対して出した質問状、および小児科学会が出した見解は、以下のホームページで見ることができます。

http://plaza.umin.ac.jp/^jpeds/saisin.html/#37

・番組に対してネット上などでわき起こった反響や、アメリカにおける各種学会の声明は以下の本にまとめられています。

滝本太郎、石井謙一郎編 『異議あり!「奇跡の詩人」』 同時代社 2002,6

以上より、現在のところFCと称される文字盤使用や書字介助が、臨床的および科学的検証を経た技法であるという見解には至りませんでした。FCが本人の意思を正しく表現しているかどうかについて、今後とも注意深く見守り、検証する必要があると考えます。

会員の皆様は、障害がある子の人権を第一に考え、冷静・適切に対応されますよう、呼びかけます。

 

[5] Japan Skeptics

会長声明(NHK『奇跡の詩人』の放映について)

http://petat.com/users/skeptics/seimei.html

NHK『奇跡の詩人』の放映について

                      Japan Skeptics会長 安斎育郎

 去る2002年4月28日、脳に障害を負って誕生した一人の少年が、大人たちをも感動させる詩人として成長した姿を描いたNHKスペシャル『奇跡の詩人』が放映され、「感動した」という反応の一方で、番組の内容に関する疑義や批判も数多く寄せられる事態が発生した。Japan Skepticsは心理分科委員会担当の運営委員・中島定彦関西学院大学助教授を中心に対応し、中島氏の名においてNHKに対して質問状を発するとともに、緊急シンポジウムを開催した。その後、運営委員会としても事案の重要性に鑑みて「会長声明」の形で見解を発表することとした。
 本事案については2つの問題点があると思われる。第1の問題は、番組の内容の真偽をめぐる問題であり、第2の問題は、重大な争点を含む問題を扱った当該番組の放送法違反の疑義をめぐる問題である。
〈第1の問題〉番組内容については、「スタジオパーク」での釈明にかかわらず、疑問点が払拭されていない。最大の疑義は、ファシリテーテッド・コミュニケーションによって表現された詩や文章が、本当に脳障害児の自己表現かどうかという問題である。すなわち、(1)番組を見る限り、母親が左手で障害児の左手首を保持し、右手に持った文字盤をゆびで指すことによって言葉を綴るということだが、母親自身が保持する文字盤自身がめまぐるしく動いていること。障害児が時によそ見をしたり、あくびをしたりしている瞬間にも、ゆび指しが相当の速さで続けられていること、などに看過できない疑惑があること。(2)障害児は宇宙科学や物理学を含む広範な領域の、しかも、おそらく大学院レベルでないと簡単には読みこなせないような本を2000冊ほども「読破した」とされているが、仮に意思表示ができるようになったとされる5歳以降、取材が行なわれた年齢(11歳)の間に読んだとしても、ほぼ1日1冊のペースに近いものであり、ドーマン法による分刻みのリハビリテーション・プログラムの中では到底不可能であると考えられること、である。(1)の問題については、アメリカで実験が行なわれたことがあった。障害者がファシリテーテッド・コミュニケーションを通じて幼児虐待の体験を訴えた事例について、障害児とファシリテータに別の絵を見せて「何を見たか」を問うと、きまってファシリテータが見た物が表現されるという衝撃的な実験だった。実験手法は単純なものであり、本事案についても簡単に確かめられる筈のものであり、こうした点について批判的な点検を行なう視点もないままに「表現されたもの=障害者の自己表現」という未検証の前提から出発している番組制作には、やはりSKEPTICSの立場から批判すべき問題があると言うべきであろう。
〈第2の問題〉番組中で紹介されていたファシリテーテッド・コミュニケーションやドーマン法については、中島定彦運営委員が"NEWSLETTER"46号で指摘しているように、少なからぬ疑義や批判が出されている。しかし、NHKの番組は、そうした批判や警告の類いに全く言及しなかった。放送法第3条2項4号は「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定めており、本事案が放送法に抵触する可能性は極めて濃厚と言わなければならない。
 以上、NHKの番組制作の姿勢について批判を加えたが、誤解のないように付言すれば、私は平和学を専攻する研究者として、すべての人間は自己実現を遂げる固有の権利をもつものと確信しており、どのようなハンディキャップを背負って生を受けようとも、人はすべて、生まれもった能力を全面開花させる固有の権利を有している。したがって、本事案が扱ったような脳障害児を含めて、その自己実現の条件を豊かに実現することが重要であり、その意味においても、今回のNHKの番組制作姿勢のような科学的にも重大な疑惑を含む営みは、かえって偏見を生み出す原因ともなりかねないものであり、真相が糾明されるべきものと考える。

Japan Skeptics 心理分科委員会 (『奇跡の詩人』について)

http://petat.com/users/skeptics/miracle-poet.html

 2002年4月28日、『奇跡の詩人―11歳・脳障害児のメッセージ―』という番組がNHKスペシャルで放映されました。脳障害を持つ男児がリハビリの結果、文字盤を指差してすばらしい詩を綴るようになったというドキュメンタリー番組(放映当日、主要新聞各紙の朝刊テレビ欄に掲載された番組紹介による)とのことでしたが、紙製の文字盤を握る母親の手が動いていること、文字盤を指差しているという男児の手も母親がつかんでいること、綴られる言葉は母親が読み上げていることなどから、本当に男児が綴っているのかどうか大いに疑念が持たれる内容でした。また、哲学から宇宙論まで大学レベルの本をこれまで2千冊も読破してきたというナレーションも多くの視聴者に違和感を与えるものでした。
 放映開始直後から、インターネットの掲示板上で物議をかもし、番組終了後、NHKには「信じられない」とのメールや電話・ファックスが殺到しました。新聞や週刊誌もこの「事件」を大きく取り上げました。そうした反応に対してNHKは、「信憑性を否定する事実はない」とホームページで回答しましたが、具体的証拠は提出されませんでした。また、5月11日の番組『土曜スタジオパーク』内で釈明を行ないましたが、視聴者の疑念を払拭するものではありませんでした。
 男児のリハビリ法として番組中で紹介された「ドーマン法(Doman method)」は医学的効果が疑問視されているものであり、その使用については米国小児科学会などが共同で警告声明を出しています。また、文字盤を使って会話する方法(ファシリテイテッド・コミュニケーション:facilitated communication, FC)についても信頼性が低く、医療過誤や虐待を生む危険性が大きいことを米国心理学会などいくつもの学会が警告しています。
 Japan Skepticsでは、運営委員であり、心理分科委員長である中島定彦(関西学院大学助教授)が、まず個人の立場で活動し、国内および米国の心理学者と連絡を取って、FCに関する情報を一般に提供するとともに、一般視聴者のボランティアとともに海外の文献翻訳・紹介を行ないました。また、『奇跡の詩人』は、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という放送法第3条の2の4に反していることを指摘しました。そして、Japan Skeptics心理分科委員会の企画として、6月8日に一般公開の緊急集会「メディアの責任とメディアリテラシー:NHK『奇跡の詩人』疑惑について」を兵庫県西宮市で開催しました。8月には、Japan Skeptics会長の安斎育郎(立命館大学教授)が会長声明を発表しました。
 Japan Skeptics以外でも、さまざまな分野の専門家が『奇跡の詩人』に対して批判的見解を述べています。また、多くの一般視聴者や障害児を抱える親たちが疑問点を議論し、NHKに対する抗議活動を行ないました。6月28日には同時代社から『異義あり!「奇跡の詩人」』が緊急出版されています(編者は弁護士の滝本太郎氏と、『週刊文春』記者の石井謙一郎氏)。番組に疑問を抱いた人々はインターネットの掲示板に集い、そこから番組批判のバッジ、しおり、シール、ブックカバー、Tシャツなどが作られました。7月14日には約50名が東京渋谷のNHK前に集合し、番組に抗議して団扇1000本を配るというイベントも行われました。
 11月14日、『奇跡の詩人』問題はついに国会(衆議院決算行政監視委員会)で取り上げられました。自民党の菅義偉議員の質問に対し、参考人として招致されたNHK専務理事の板谷俊一氏はそれまでの見解を繰り返して質問をはぐらかそうとしましたが、厚生労働省障害保健福祉部長の上田茂氏はドーマン法について否定的見解を示しました。
 国内の各種学会・団体も『奇跡の詩人』に異議を唱えています。10月末、日本小児神経学会がNHKに質問状を送付しました。11月20日には、日本小児科学会が番組批判の見解をホームページで公開しました。翌年2月1日には日本聴能言語士協会が番組批判を会報に掲載しました。
 しかし、こうした批判にも関わらず、いまなおNHKは『奇跡の詩人』の放送内容は正しいとの姿勢を崩していません。

 

[6] 有志による「Facilitated Communication (FC) と Doman Method 海外文献翻訳資料集」

http://www.geocities.com/validationluna/

 

[7] 北米10団体による共同声明 「神経障害をもつ子供へのドーマン−デラカト治療法 」("The Doman-Delacato treatment of neurologically handicapped children") (Developmental Medicine and Child Neurology誌、1968年、第10巻、p243-246 ) 

以下の団体による共同声明(1968年3月15日)

米国脳性麻痺学会、米国神経学会 、米国小児科学会、米国理学療法・リハビリテーション学会 、米国リハビリテーション療法協会 、米国整形外科学会 、カナダ学習障害をもつ子供のための協会、カナダ精神遅滞児協会、カナダ障害者のためのリハビリテーション協会、全米精神遅滞児協会

日本語訳:

 人間能力開発研究所とその関連組織は、脳障害やその他障害の治療に自分たちの方法が有効であると、過去十年の間ますます声高に主張してきた(文献1,2)。それに対し、いくつかの団体が警告声明を出してきた(文献3-8)。最近入手可能になった情報により、論争の現状を検討した上で、若干の勧告を行うことが重要であろう。 われわれが懸念する理由は、以下のごとくである。

1. 勧誘方法(文献9,10)が、この治療法を拒否するようでは親としての適性と動機付けに欠けると、両親に思い込ませるようにみえること

2. 処方される方法があまりに過酷かつ硬直的(文献9-11)で、家族内のほかのメンバーの欲求が無視されかねないこと(文献12)

3. 治療が厳格に処方された通りに実行されないと、子供の潜在力が損なわれるとか、100パーセントに満たない努力はまったく役に立たないとか主張されること(文献9,10)

4. 歩くとか、音楽を聴くといった、その年齢の子供には適当で可能な活動を、しばしば制限すること(文献13,14)。そうした制限は、それを支持するような長期的結果のデータや知見がこれまで公表されたことがないにもかかわらず行われている。

5. なんら有効性が知られていない「成長プロファイル」(文献16)に従って、早急で決めつけた診断(文献15)がなされること。「成長プロファイル」が依って立つデータはこれまで公表されたこともなく、われわれの知る限り、一般に認められた手法によってそれを検証しようとする試みがなされた形跡もない。

6. 多くの事例(文献1,2)において、この治療法は、疾病という枠を超えて、健常児を優秀にするとか(文献2,9,17,18)、世界の緊張を緩和するとか(文献2)、「進化プロセスを加速する」かもしれないとか(文献2,19)、根拠のない主張がなされていること。

7. なんの根拠もなく、ドーマンとデラカトは、多くの一般的な子育て法を子供の潜在力を制限するものと非難し、その結果として、そうでなくても苦しみ混乱している両親の悩みをさらに増幅してきたこと(文献12,20)。

 以上の主張をめぐる論争は最近詳細に検討されている(文献12)。

ドーマン−デラカト理論

 ドーマンとデラカトの理論には汎用性があると主張されている(文献2,18)が、脳半球支配や発達と系統発生との関係についての、疑問のある単純化され過ぎた概念に大きく依拠している(文献21)。さらに、精神遅滞、学習障害や行動異常の大半のケースは脳損傷や「神経組織の未発達」に原因があり(文献15)、これらすべての問題は脳損傷の単一の次元上にあって、人間能力開発研究所の提唱する治療が唯一の有効な答えだ(文献2,9)、と主張している。 現在入手可能な情報は、こうした主張を支持していない。特に、脳半球の一様支配や左右局在の欠損は、これらの症状の病因や治療において、重要な要素ではないであろう(文献21-27)。 文化的、人類学的違いもまたこの理論で「説明」される。例えば、原始生活をおくるいくつかの種族が文字言語を持っていないことは、這ったり腹這ったりすることに制限があるせいだとされる(文献28)。これはあまりに狭量で、疑問のある見解である。 この理論を注意深く検討した論文(文献21)は次のような結論を下している。「関連科学文献からの理論的、実験的、理論的証拠により検証すると、この教義は支持されないか、もしくは、圧倒的に矛盾している。この神経組織理論は科学的仮説としての利点がない。」

主張されている治療結果の現状

 人間能力開発研究所やその支持者によって公表されている結果はあいまいなものである(文献15,29,30)。読む能力が改善したという多くの報告がこの理論を支持するものと喧伝されている(文献19,31,32)が、統計分析によれば明白な効果があるとはいえない(文献21,33)。 診断ミスや不当に悲観的な見通しがなされてきた幼い障害児が複数いたことは、繰り返し指摘されてきた。これらの小児の成熟過程は、個々人で大きく異なっており、それゆえ、症状改善はある特定の治療のおかげだったと根拠もなく主張される結果になったのかもしれない(文献12,34,35)。人間能力開発研究所によって劇的結果だと公表されたいくつかのケースは、外傷に起因する脳損傷をもった小児であり、そうした小児はなんら特殊な治療をしなくても大きく改善することが少なくない。 読みの能力についてのドーマン−デラカト理論の主張に対しては統制された研究がいくつか行われているが、そうした研究は、この理論がまったく効果的でないことを示している(文献36,39)。 以前に発表された警告声明は、適切に統制された研究の必要性を強調している。人間能力開発研究所の主張を研究する際の理論的、実務的問題には多くの困難がある(文献40)。十分に計画されたある包括的研究(この研究は連邦政府と民間機関の両方からサポートされていた)は、計画の最終段階になって、人間能力開発研究所が研究計画についての当初の合意を撤回してきた(文献41)。この計画の頓挫により、主張している結果についての立証責任は人間能力開発研究所の側にある。 ドーマン−デラカト法を用いたときに観察されるどんな改善も、成長と発達、個々のスキルの徹底訓練、もしくは、徹底的な刺激の非特定的効果だけで説明可能であり、これに矛盾するデータは現在のところ存在しない。

要約

 人間能力開発研究所は、(a) 治療について根拠のない主張を過剰に行うこと、 (b) 証明されてもいない技法を失敗なく実行するよう両親に課している負担の過剰さにおいて、発達上の問題を治療している他のグループと大きく異なっているようである。 両親や専門職への助言は、この方法のすべての側面についての統制された研究の結論が出るまで棚上げしておくことはできない。医師や療法士はこの論争の論点と入手可能な証拠を知っておくべきである。われわれはそれを行い、ロビンスとグラスの以下の結論(文献21)に同意する。 「神経的体制化なるものは、その理論にも実践にも価値があることを実証する経験的証拠はない・・・・・この理論が真剣に受け止められるためには、・・・・その提唱者は、理論の教条が理にかなっていることを示し、その有効性を検証するために科学的標準と矛盾しない一連の実験的調査を提供する義務がある。」 これまでのところ、われわれの知る限り、この義務を果たそうとする試みはなされていない。

引用文献 (省略:原典を参照下さい)

原文: (PDF、170 KB)

http://www.geocities.com/validationluna/html/statement_doman.pdf

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http://www.adobe.co.jp/products/acrobat/readstep2.html

 

[8] 『異議あり!「奇跡の詩人」』 滝本太郎、石井謙一郎編 同時代社 (amazonbk1)

・目次

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/kbys_ysm/doman/mokuzi.html

・滝本氏によるあとがき

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/kbys_ysm/doman/atogaki.html

 

[9] 『ハインズ博士「超科学」をきる―真の科学とニセの科学をわけるもの』 ハインズ、T著 井山弘幸 訳 化学同人 (amazon)

第15章 はびこるいかさま療法より

 ペンシルバニア州フィラデルフィアにある人間潜在能力開発研究所のグレン・ドーマンとカール・デラカト(教育学博士)とロバート・ドーマン博士(医学博士)の三人は、パターン化法と呼ぶ治療法を開発した。この方法によれば、児童の脳障害の効果を克服、あるいはもっと正確にいえば回避することができるという。彼らの考えでは、人間の脳の発達は連続した段階を順次経て成長することであり、できあがった大人の脳には各発展段階に対応する領域があるという。彼らの見解にしたがえば、児童における脳の障害は、一つの発展段階が“遮断”されていて、たとえその上の段階に障害がなくてもその“遮断”が解除されるか回避されない限り成長はありえないことになる。ここで問題のパターン化法が導入される。この発想はきわめて単純なものである。遮断領域を克服する、すなわち遮断領域を迂回するには、まだ障害を受けていない次の段階がどんなものかを確認させればよいという。つまり、次に進むべき段階に固有の行動様式を、何度も何度も毎月毎週毎日と繰り返し子供に学習させるのだ。おそらく、この反復学習がはっきりとはわからないもののなんらかの効果を及ぼし、「高次のレベル……の機能を阻害している障壁を乗り越える」結果となるのであろう。このタイプの治療法の背後にある考え方を理解するために、一つ例をあげることにしよう。ドーマンが記述している生後10カ月の乳児メアリーの事例を考えてみよう。メアリーは「耳が聞こえないも同然」の状態にある。しかしメアリーは普通の子供のように、驚かすと反応して思いがけず大きな声をあげる。これは本当は聾でないことを示している。このようにメアリーは通常の驚愕反応を示している。ドーマン−デラカト・システムによれば、驚愕反応は聴覚能力の発達の第一段階にあたっている。したがって、メアリーには高次のレベルの神経組織に“遮断”が生じていることを意味しているのだから、彼らは治療の一環として、何度も何度も繰り返しメアリーを驚かすことになる。とりわけ「母親は毎朝起きてから30分間音をだしてメアリーを刺激した……すなわち、メアリーの耳元で拍子木を叩いてびっくりさせる行為を延々と続けたのである。毎回3秒間隔で10回、これを24日続けたのであった」。

 シーンの事例は、実際に行われたこのタイプの治療法の別の一面を教えてくれる。シーンは6歳の男の子であり、“触知能力”の第三段階に支障を生じていた。ドーマン−デラカト・システムでは、これは子供が寒暖の区別をしにくくなっていることを意味する。シーンは触知能力の第二段階までは問題がなかった。こちらは熱と冷の知覚に関係している。第三段階で“遮断”が起きているため、シーンは第四段階の活動ができないでいるのだ。この次の段階は“平面に見える物体の立体性を触って知覚する”ことにかかわっている。では彼らはどのような治療を行ったのか? 母親はシーンに触覚刺激を与えたのである。シーンの両手を交互にぬるま湯と冷水のはいったたらいに入れてやって、その間母親は、こっちは暖かいわね、そっちは冷たいわね、と説明してやるのである。10回手を浸してから、今度は子供の手をよくもんでやり、気持ちいいでしょと母親は声をかける。かくしてシーンは、毎日300回ずつ温水と冷水に手を突っ込み、30回のマッサージを受けたのだ。

 話だけ聞いていると、このような治療法は風変わりで効果がありそうに思えないことだろう。このような尋常ならざる回数の刺激がいかにして治療上の効果をもつのか、そして彼らのいう“遮断”がいかにして除かれ回避されるのか、ドーマンは決してこの問題に触れようとしない。そもそも、治療にあたった子供に脳障害があったことの証拠らしきものは一切示されておらず、心理学上の問題である可能性も排除されていないのだ。さらに彼らの治療のすべての計画の出発点となっている「ドーマン−デラカト発展段階表」は、基本的な点で間違った脳組織の理解に基づいている。「発展段階表」では、脳の発達がいくつかの異なる段階にふりわけられ、その段階を人間は順次連続的に進んでいくことになっている。それぞれの発展段階は、脳の特定の部位に結びつけられている。第一段階は脊髄と骨髄であり、第二段階は脳橋と呼ばれる脊髄の上の部分、第三段階は中脳となっている。そして第四から第七までが、順に「初期」、「早期」、「始源期」、「洗練期」の大脳皮質に対応する。そのほかに「能力」の六つの領域もあり、視覚、聴覚、触覚、操作、言語そして運動にかかわりのある部位が決められている。これらの能力のいずれかに特別な振る舞いが見られれば、その原因はその能力に対応する脳の部位の発達状況に帰着されるのである。たとえばメアリーの場合、驚愕反応は聴覚能力の第一段階にあたっていて、それゆえ脊髄と骨髄によって制御されていることになる。

 実際の脳の発育過程や脳組織に関する知識にこの発展段階表を照らし合わせてみると、基本的に多くの点で間違っており、その全貌を指摘しつくすことが不可能に近いほどである。紙面の都合上、間違いのなかでもあまりにひどくて話にならないようなものだけを紹介しよう。まず第一に、脳や脊髄は、ドーマンが主張しているように脊髄から脳へと順次発達していくようなことはない。脳−脊髄系はすべて互いに独立して発達するからだ。たとえば、大脳皮質は脊髄がすっかり発育する以前に独自に成長していく。第二に、先に紹介したようにドーマンたちは皮質を四つの異なるタイプに分類しているが、脳のもっとも発達した領域である皮質が、実際どのように区分されるかについてはすでに膨大な研究成果があがっていて、彼らはこうした知識をまったく無視している。皮質組織に関して100年ほど前から知られていた知識と、彼らの区分の仕方とは真っ向から対立しているのだ。

 シーンの事例は、ドーマンとデラカトの脳の考え方によく見られる誤りをわれわれに教えてくれる。「平面に見える物体の立体性を触って知覚する」ことができるように教えるためには、まずシーンに温水と冷水で練習させなければならなかった。ところが、温度知覚にかかわりの深い脳と脊髄の領域は、触覚や感触にかかわりをもつ領域とは解剖学的にも機能的にも分離されている。物体の立体性を触って把握するのに必要なのは、当然後者のほうである。だから、温度感覚を媒介する脳の領域に生じた障害を繰り返し練習することで排除できたとしても、触覚を媒介する脳の部位にはなんの効果も及ぼさないのだ。

 脳障害のある子供の治療法を開発するような人間は、当然、神経解剖学の基礎を勉強しているはずだと誰もが考えるだろう。ところがドーマンとデラカトに限ってそれがあてはまらない。たとえば「輪郭知覚」は脳橋と呼ばれる脳の下部構造に機能が集中していることになっているが、実際は脳橋には視覚機能はない。輪郭知覚は、通常視覚皮質の機能として知られている。この事実はとくに新しく発見されたものではなく、少なくとも1950年代後半にはわかっていたことだ。また視覚能力の領野にある「形態内部の細部を把握する能力」は中脳の機能だとされているが、そもそも中脳にはそうした視覚機能はなく、細部を把握する働きはやはり視覚皮質に固有のものである。さらに中脳には「有意味な音を聞きわける能力」が宿っていることになっているが、実際には中脳は聴覚刺激に対してなんの役割ももたないのだ。これもまた大脳皮質の機能であり、聴覚皮質として知られている。

 ドーマンのいい分では、人間潜在能力開発研究所にはこれまで何百人もの人が子供を連れて現れ、感覚刺激を反復する彼らの治療法が効果を発揮し、子供の状態がよくなったことを報告したらしい。このことはどう説明したらよいのか? 第一にいっておかねばならない点は、ドーマンが脳障害があると認めた子供たちが本当に脳障害を起こしているとは、はっきりといいきれないという点だ。一部の子供たちは、さまざまな情緒的、心理的そして行動上の問題を抱えていた。こうした問題は自然と解消してしまう場合が多い。この問題の自然消滅が、ちょうど両親がせっせと厳しい治療計画を遂行している最中に起きたとすれば、子供の行動面での変化は当然その治療法の効果として評価される。たとえその治療が子供の変化と一切関係をもたなかったとしてもである。第二に、確かに脳のある領域の部位によっては発達が遅れている場合もある。しかし、遅い早いがあっても最終的には普通のレベルに達するのだ。つまり、治療など施さなくとも、放っておけば普通のレベルにまで子供は成長するのである。ここでもまた、両親が治療法を実行している最中にこうした遅れをとりもどすような変化が現れれば、やはり治療計画の効力にその原因を求める傾向が強くなるのである。

 健康を売りものにする“いかさま療法”の特徴の一つは、この治療法はどんな病気でも治します、という聞こえのよい口上である。このことを心に銘記しつつ、ドーマンの著書のタイトルを読んでみよう。実に興味深い。『こんな子供をもったらどうしますか?─脳挫傷の子供、脳障害をもつ子供、精神遅滞児、知能に欠陥のある子供、脳性麻痺の子供、けいれん性麻痺の子供、無気力な子供、頑固な子供、てんかんの子供、自閉症の子供、アテトーゼの子供、過敏症の子供』。この本の末尾にあげられている「参考図書」のなかに、アデル・デーヴィスが書いた栄養関係の本が二冊含まれており、そのうちの一冊が『健康に子供を育てましょう』であることもまた興味深い。この本のなかに、少なくとも一人の子供を死にいたらしめたアドバイスが書かれていたことは、すでに述べたとおりである。

 実際のところ、脳障害の成人のリハビリテーションを行う正規の治療法でさえ、すなわち言語療法とか理学療法などでさえ、せいぜい限られた効果しかない。成人の脳卒中患者に対する正規の療法の効果について、リンドは「脳卒中患者に見られる機能回復は、主として自然治癒によるものだ」とまとめている。それに脳卒中の後にリハビリテーションを受けた患者のほうが、受けなかった患者よりも回復が速いという研究成果には、重大な方法論上の欠陥があることをドンボヴィー、サンドックおよびバスフォードが指摘している。リハビリテーション療法は、療法士や患者から効果のあるものだと信じられている。しかしその効果の原因は、リハビリテーションが脳卒中の直後から最初の数カ月の間に行われる場合が多いことにあるのだ。つまり、劇的な自然治癒が一番起こりやすい時期にリハビリテーションの期間が重なっているのである。そうした場合、回復の効果はリハビリテーションによるもので、決して自然治癒とはされない。このように、自然治癒にではなくなんらかの治療法に患者の回復の原因を求める傾向が、幼児期の脳障害の場合においてはとくに顕著となる。しかし子供の脳は成人と比べてはるかに小さい。このよく知られた現象によって、ドーマンを代表とするいかさま脳療法士たちが声高に宣伝する“奇跡的”な治癒が事実でないことを説明できるのである。

 近年ドーマンの人間潜在能力開発研究所は、これまでの脳障害児の“治療”主体の態勢から方向転換をはかり、普通の子供の知力向上に力を入れ始めた。幼児に早期から読書や筋肉運動などの活動をさせて、能力を高めようというのだ。ドーマンはこの事実を自らの著書、『赤ちゃんの頭をよくする方法』で紹介している。この著作は前著同様、基本的なところで神経解剖学上の誤りだらけなのだが(たとえば、脳の後半分と脊髄は「五本の感覚刺激の入路から構成されていて」、前半分は感覚刺激の出路からなっている、などと変なことを書いている)、幼児に早期の段階でさまざまなタイプの刺激を与えると、その子供の知力発達に好影響を与えるという基本前提は、あながち間違ってはいない。とはいえ、ドーマンが報告している子供の知力の劇的な向上らしきものの数々は、両親と研究所のスタッフの希望的観測と解釈的知覚によるものが多く、実際に子供の能力が飛躍的に伸びたとはいいきれないのである。

 

[10] 『リハビリテーションを考える―障害者の全人間的復権―』 上田敏著 青木書店 (amazon, bk1)

・257ページ

 脳性麻痺児の医学的リハビリテーションにおいて問題をさらに複雑にするのは、これらの説の他にペーテの説(いわゆる「ハンガリー方式」)、あるいはドーマン説といった第三、第四の新説が、いずれも自説こそが脳性麻痺児に対する福音であり、他の説はすべてまったくとるに足りないものであるという排他的な姿勢をもって声高な主張をし、それぞれ一定の信奉者をもっているということである。

・258ページ

 何よりも問題なのは、これらの諸説がいずれも自分の技法が「脳性麻痺」一般に有効である、すなわち、型や麻痺の種類や程度や年齢や発達段階や知的レベル、てんかんその他の合併症の有無などにかかわりなく「脳性麻痺」でさえあれば有効である、としていることである。これはいわば医学の世界で太古から華々しく脚光を浴びてはやがてはかなく消えていった「万能薬」あるいは「妙薬」の現代版である。ところが現代医学は数々の苦い経験からこのような万能薬はありえないことをよく知っているので、このような主張は医学の専門家の目からはそれだけで「十九世紀以前的」として、疑惑と不信の目でみられるのが普通なのである。それがこのように堂々とまかり通っているのは、残念ながらリハビリテーション医学そのものの学問としての後進性を示すものでしかないのである。

・263ページ

 ドーマン法は古い生理学的理論(1940年代前後)を恣意的につなぎ合わせたもので、科学的には到底納得できない「理論」のうえに立っており、発祥地のアメリカにおいてさえ、1968年に、異例なことに8学会(アメリカとカナダのリハビリテーション医学会、脳性麻痺学会、精神薄弱学会、等々)の共同声明で公式に「なんらの根拠もなく、完全治癒が可能であるとうたっており、かつ有効と証明されてもいない技法を極端に厳しく親たちに要求している」という理由で批難されているのも根拠のないことではないと思われる(注10)。このような公式の批難はその他の説にはいっさい行われたことはなく、まことに異例であるが、ドーマン法にはそれだけ問題があるということであり、筆者は脳性麻痺の運動療法の統合理論にドーマン法が寄与する点はほとんどないと考える(あるとすればひじょうに長時間訓練を行うというだけで、一部の体力の十分ある患者には、その点は学んでもよいかもしれない)。

・281ページ

(10) Official Statement: The Doman-Delacato treatment of neurologically handicapped children, Arch. Phys. Med. Rehabil. 49, 183-176, 1968.

 なお筆者はかつてこの問題について簡単にコメントしたところ、それにたいしドーマン法支持者のある本ではげしい悪罵を名指しで受けていたことを大分後になって偶然に発見した。そこでの表現は書き手自身の品位を疑わせるようなものであったが、それは別としても、そこではこの8学会の共同声明について、「10年以上も昔のことだ」と簡単に片づけられていた。しかしドーマン法自体がきわめて発展性に乏しいリジッドな体系であり、10年以上たってもなんら本質的な点では変化していないことを考えれば、当時の批判は今でも十分あてはまるものと考えられる。声明の全文を引用すれば一番よいのであるが、紙数の関係から略した。

 

 

[11] 『ナンシー関のボン研究所』 ナンシー関 著 角川文庫 (amazonbk1)

 140ページの「『耳のこり』&『奇跡の詩人』」で、「奇跡の詩人」問題を取り上げられている。

 内容は以下のページでも読むことができる。

「耳のこり」発売 & 「奇跡の詩人」

http://www.bonken.co.jp/index2.html

 

[12]『天地無用 テレビ消灯時間6』 ナンシー関 著 文春文庫 (amazonbk1)

・140ページ「奇跡の詩人、『土曜スタパ』で弁明という間抜け」

 4月28日に放送された「NHK スペシャル 奇跡の詩人」に関する弁明が、この「土曜スタパ」内で行われた。結局、何も解決はしなかった。更にこの「弁明」の仕方がまたちょっとトリッキーなのである。NHK は寄せられた意見を総合すると疑問は「文字盤は正確に指されているのか」「そうだとしても、お母さん自身が指しているのではないか」という2点に集約されるとして、この2つに関しての「弁明」を始める。まず1点目はスロー VTR を流して「ホラ、ちゃんと指してるでしょ」ってことでクリア。しかし、これは2点目に「母親の自作自演?」という疑問点が挙がっている以上、何の意味もないクリアだ。で、2点目に関しては、終始「私達が何度も確認しています」「だからインチキじゃありません」という論旨で進む。でも、あの番組本編見せられた後じゃ、NHK を「公正・中立」とは思えないものなあ。トリッキーというのは、2つの疑問点のうち1個はクリア、もう1個はちょっとクリアし切れなかったなあ、でも2分の1以上はクリアってことで合格! という勘定のしかた。2つ目を完全クリアした上でなければ1つ目のクリアは成立しない。ということは、本当はこの弁明は成功率ゼロなのに。意味なし。

 

[13]「『ニセ科学』入門」大阪大学教授 菊池誠

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/nisekagaku/nisekagaku_nyumon.html

ド ーマン法と「奇跡の詩人」

 最後の実例として、NHKテレビで放映されて 大論争になった「奇跡の詩人」問題をとりあげよう。新生児期に脳障害となり、事実 上ひとりでは動くこともコミュニケーションを取ることもできなかった日木流奈君 が、ドーマン法というリハビリ法の訓練を受け、母親に介助されながら文字盤を使っ て文章を組み立てるファシリテイテッド・コミュニケーションという技法を身に付け ることにによって、会話ができるようになっただけではなく、本まで出版してしまっ たという話である。

 ドーマン法はアメリカで始められたリハビリ法で、特 に先天的な知的障害者に対するリハビリで知られている。ドーマン法の背景となる” 理論”をまとめると以下のようになる。脳は発達し続けるものであり、知的障害は発 達が停止あるいは遅滞することによって起きる。これは、加速させることが可能であ るしたがって、知的障害のリハビリには、適切な刺激を与え続けることによって、脳 の発達を加速させればよい。

 そのための具体的な手法としては、”正常 な”動作を無理やり行なわせることによって正しい”パターン”を学習させる「パタ ーニング」、自分の呼気を吸わせる「呼吸訓練」、そして上述のFascilitated communicationがある。特にパターニングでは何人もの大人が手足を持って、子ども を無理やりに動作させるということが行なわれる。

 理論があると書いた が、むろんこの理論は学問的には全く認められていない。それどころか、アメリカで はいくつかの学会が否定的声明を出している。また、当然のことだがFascilitated communicationでは介助者の意図が反映することが明らかになっている。さらにパタ ーニングのやりかたから推測できるように、ドーマン法は親だけではできず、何人も のボランティアを必要とする。事実、インターネットで検索すると、ドーマン法のた めにボランティアを募集しているという記述をいくつも見つけることができる。

 少なくとも知的障害のリハビリ法としては明らかにニセ科学である。ドー マン法はいわば”藁をも掴む”親の気持ちにつけこんだもので、実際、この指導を受 けるにはかなりの金額が必要とされる。しかし、親の負担もさることながら、これが 意思疎通能力を欠く子どもに対する虐待以外のなにものでもないという点がより重要 である。

 

[14] 2003/2/22 NHKとの対話記録 (滝本太郎氏および有志の方々とNHKの対話記録)

http://www.geocities.com/diet1114/nhk/

 

関連サイト・リンク集

 

[1] saihikarunogo さんによる「NHKスペシャル「奇跡の詩人」関連リンク集」

http://members.at.infoseek.co.jp/saihikarunogo/lunacontents.html

 

[2] あいふるさんによる「NHKスペシャル「奇跡の詩人」  〜日木流奈くんについて〜」

http://hp1.cyberstation.ne.jp/negi/DEMO/topic/t019.htm

 

[3] 赤鼻さんによる「漏れも「奇跡の詩人見たいYO!」の会(仮)」

http://longhistory1977.hp.infoseek.co.jp/

 

[4] Spangle Maker さんによる「ドーマン法」

http://pws.prserv.net/spanglemaker/essays/doman_method.html

 

[5] LH1977 ◆X0KWYTf2 さんによる「ドーマン法 & FC 総合リンク集」

http://longhistory1977.hp.infoseek.co.jp/doman/

 

[6]「奇跡の詩人」データ&意見の整理・収集スレッド 保管庫

http://papersearcher.hp.infoseek.co.jp/mirror/8349/

 

[7] ハチミツさんによる「奇跡の詩人検証会(In九州)」

http://longhistory1977.hp.infoseek.co.jp/report/kennsyoukai.txt

 

[8] S さんによる「『奇跡の詩人』放送に関する意見書・質問書」

http://homepage3.nifty.com/nhkq/

 

[9] 故・ナンシー関さんによる「ボン研究所」

http://www.bonken.co.jp/index2.html

 

[10] 立岩真也さんによる「脳性マヒ(Cerebral Palsy)」

http://www.arsvi.com/d/cp.htm

 

[11] のんパパさんによる「antiNHK」

http://antinhk.com/hk/

 

[12] 小林泰三による「NHK スペシャル」

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/kbys_ysm/dabun24.html

 

[13] 奇跡の詩人 FAQ

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/kbys_ysm/kiseki_faq/

 

「奇跡の詩人」映像リンク集

[1] S さんによる「『奇跡の詩人』放送に関する意見書・質問書」

http://homepage3.nifty.com/nhkq/

[2] ともしびさんによる「NHKスペシャル『奇跡の詩人』映像サイト」

http://kisekinoshijin.web.infoseek.co.jp/

[3] 奇跡の詩人動画

http://lunarvideo.hp.infoseek.co.jp/


メールは 小林泰三 まで。

リンクは自由にしていただいて結構です。ドーマン法を考える