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自動作曲システム

 

 人間の得意技だと思われていたことを機械が行うと、とても過剰な反応をする人がいる。コンピュータがチェスのチャンピオンに勝ったことがあったが、人間の尊厳を揺るがす大事件であるかのように取り扱ったメディアもあった。まるで、今後人間同士のチェスの試合に意味がなくなるかのように。

 だが、もしこれがチェスではなく人間対ロボットの腕相撲であったら、どうだろうか? ロボットの方が人間よりも力があるのは自明のことなので、誰も驚いたり、騒いだりしないだろう。では、人間同士の腕相撲など見ても仕方がないからと誰も見向きもしないかというと、そんなことはないのである。

 一方、厳密なルールの元で行われるゲームは論理演算の繰り返しであり、コンピュータとはまさに論理演算を高速に行うために開発された道具なのだ。つまり、ゲームのように高い戦略性が要求されるものには高度な精神活動が不可欠であるというのは思い込みに過ぎないのである。スポーツ選手には強い精神力が必要であるが、彼らより速く強い機械に精神力は必要ないのと同じことだ。だから、いくらチェスや将棋や囲碁や麻雀に強いコンピュータが現れても、人間同士の競技がなくなることはないだろう。(ただ、人間とコンピュータの試合は行われなくなっていくだろう。陸上選手が自動車とスピードを競うことがないように)

 よく似た思い込みに「コンピュータには芸術的な創作活動はできない。なぜなら、それには芸術を理解する心がないから」というものがある。一見正しそうではあるが、この考えでは心を持った芸術家が作ったわけでもない自然の風景がわれわれを感動させることを説明できない。

 論より証拠。この「自動作曲システム」 (著作権者名: 勝田哲司氏、ただしマンデルブロ音楽の作曲ルーチンは、窪田洋氏) を試して欲しい。

 操作はまず「ポップス」「ジャズ」「クラシック」「民族音楽」「ゲーム」の五つの中からから自分が作曲したいものを選ぶことから始まる。次ぎに各ジャンル内でのスタイルを選ぶ。たとえばクラシックなら「管弦楽」「チェンバロ曲」「ピアノ曲」「教会オルガン」などから、ポップスなら「ラップ」「ハードロック」「ニューミュージック」「フォークソング」「演歌」などから選ぶ。さらにそれぞれのスタイルの設定――音階、調、拍子、楽器など――を細かく決めることもできる。

 こうして作った曲の出来はというと、あくまで主観だが、なかなかいいのではないだろうか。もちろん単調でめりはりがないといったような弱点もあるのだが、このソフトで作った曲がテレビからBGMとして流れてきたとしてもそれほど違和感はない。

 このソフトを使えば、作曲のことがよくわからなくても自分のホームページや自作のゲームにオリジナル曲を付けることもできるし、ただ単にパソコン作業中のBGMとして楽しむことや目覚まし代わりにもできる。

 また、「音階」や「リズムパターン」など、数多く用意された作曲パラメータを変更することにより、これらの要素が音楽にどのような役割を果たしているかを体験的にわかるのも面白い。例えば、弦楽四重奏として用意されている音楽スタイルの音階を「沖縄風音階」に変更すると、沖縄風弦楽四重奏のような音楽スタイルを作成することができたりする。

 なお、このソフトウェア自体の著作権はもちろん作成者に属するのだが、ヘルプを読むと、「プログラムによって作成されたMIDIファイルの著作権は、このプログラムを使用して自動作曲を行った各人(あなた)に帰属します」と書かれている。著作権法的に本当にこういう解釈が成り立つのかどうかはよくわからないが、いいフレーズが浮かばない時など作曲家のツールとしても使えそうだ。

 面白い小説を書いてくれるソフトもあったら、楽ができるのに。……って、そんなソフトがあったら小説家はいらなくなるか。

「自動作曲システム」は以下のサイトからダウンロードできる。

http://hello.to/dtm/

(<産経新聞>大阪版 平成12年5月22日夕)


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