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軌道・姿勢シミュレーション

 

 コンピュータソフトの中でもシミュレーションは比較的メジャーな分野である。世界そのものを構築したり、国や街を経営したり、天下統一を目指したりするスケールのでかいものから、小動物を育てたり、女の子と付き合ったりという日常レベルのものまで、多種多様なものが発表されている。中でも乗り物を操縦するタイプのシミュレーションには根強い人気がある。レーシングゲームは車のシミュレーションだと考えていいし、フライトシミュレーションは昔から数多くあるし、最近では電車やバスのシミュレーションもある。

 ところで、ありそうでいて意外に見当たらないのは宇宙船のシミュレーションである。もちろん、シューティングゲームの多くは宇宙戦闘機を操縦するという設定になっているし、『スタートレック』や『スター・ウォーズ』や『宇宙戦艦ヤマト』などの SF に登場する宇宙船を操るものはあるが、現実に存在する宇宙船とはかなり違う挙動を見せる。

 それらはたいていの場合、操作性を重視するため、普通の人間が持っている直感からあまりかけ離れた運動をしないようになっている。ゲーム中の宇宙船の多くは飛行中常にエンジンを噴射していて、エンジンを止めるとすぐに止まったりする。しかし、現実の宇宙空間では「慣性の法則」があるので、こんなことは起きない。「慣性の法則」とは簡単にいうと、「他から力が加わらない限り静止している物体は静止し続けるし、運動している物体は一定の速度で動きつづける」という法則である。地上で「慣性の法則」が成り立っていないように見えるのは空気や地面との摩擦、それに重力があるからである。

 それでは、地面も空気も重力もない宇宙に行けば、宇宙船は一度加速すれば後は真っ直ぐに飛びつづけるかと言うと、ことはそう単純ではないのである。実のところ、大気圏外に出たからといって、重力がなくなることはないのである。スペースシャトルの軌道高度当りでは地上とほぼ変わらない重力場が存在している。

「でも、現実に宇宙飛行士たちは無重力を経験しているではないか」と不思議に思われる方もおられるだろうが、思い出して欲しい。スペースシャトルや人工衛星は地球の周囲を高速で周回しているのだ。回転する物体には遠心力が働く。スペースシャトルや人工衛星は重力と遠心力が釣り合った結果、見掛け上無重力状態になっているのである。このように複雑な力が働いているため、地球周回軌道上の物体は思いのほか不思議な運動を見せる。

 例えば、スペースシャトルと同じ軌道上の数キロ前方に人工衛星があったとする。この衛星に追いつくためにはどうすればいいだろうか? 普通に考えれば、ロケットエンジンを噴射して、速度を上げればいいように思うが、驚いたことに、この場合は逆噴射してシャトルの速度を落せば、前方の人工衛星に追いつくのだ。

 こんな奇妙な現象を体験したい宇宙好きな人は「軌道・姿勢シミュレーション」(著作権者名: 野田篤司氏、地図データは、Dr.TS Kelso. 及び 野尻抱介氏、人物ポリゴンの一部は、ねことむ氏)を使ってみるといいだろう。

 宇宙機エンジニアが作っただけあって、設定が非常に凝っている。もちろん、最初は何をどうすれば軌道を変更できるかわからないだろうが、ただ画面を宇宙船のコクピットからの景色にして地球をぼんやりと眺めているだけでも充分楽しい。慣れて来ると、軌道を少しずつ変化させて微調整したり、極軌道や静止軌道に乗せたりすることもできるようになる。さらに、専用ボタンを押すと、少年もしくは少女が飛び出す簡易船外活動(?)も見ることができる。

 将来、宇宙飛行士になろうと希望を燃やしている今の少年少女たちはもちろん、その昔空想の中で月旅行を何度もシミュレーションしたン十年前の少年少女たちにもお勧めのソフトだ。

「軌道・姿勢シミュレーション」は以下のサイトからダウンロードできる。

http://village.infoweb.ne.jp/~anoda/

(<産経新聞>大阪版 平成12年5月29日夕)


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