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驚異の未来との邂逅

 小学生の高学年の頃、毎日『漂流教室』のことばかり考えていた時期があった。

 『漂流教室』は『週刊少年サンデー』に連載されていたが、なぜか漫画誌を買うという習慣のなかったわたしは数ヶ月毎に近所の理髪店で、何週間分もの『漂流教室』を貪るように読んだものだった。空いている時間帯に行くと、読みきらないうちに順番が回ってくるので、わざと混んでいる時間を狙っていったことが懐かしい。

 思えば、楳図漫画との最初の出会いがこの『漂流教室』だった。『恐怖』でも『おろち』でも『まことちゃん』でもなく、『漂流教室』が楳図かずお初体験だったのだ。これはもう趣味趣向に絶対消すことの出来ない影響をもろに受けてしまったのに違いない。

 小学校が一つ丸ごといつとも知れぬ未来にタイムスリップしてしまう。どうやら空気だけは呼吸可能なのだが、水も食料もない。気候も変わり果てており、学校の周りはすべて砂漠なのに、突然大洪水が襲ってきたりもする。生物もちゃんといるのだが、怪物化しているうえ、化学組成が違い過ぎて食料にもならない。物語の最初の方で本来子供たちを守ってくれるはずの大人たちは次々と死んでゆき、子供たちだけでこの危機的状況に立ち向かわなくてはならなくなる。これほど、SF 魂を熱く燃えさせる状況設定があるだろうか。

 楳図氏はホラー作家として高く評価されているが、SF 作品も数多く手掛けている。子供たちの遊びから偶然誕生した機械知性を描いた『わたしは真悟』(一九八〇年代に書かれたこの作品中で、機械知性がインターネットを通じて世界を支配する描写がある)、人類と自然の行き着く果てを描いた『14歳』など名作が多いが、少年期に衝撃を受けたこともあって自分の中では、断然『漂流教室』がベストワンなのだ。

 ところで、この未来世界では人類はとっくに滅亡しているのかと言うと、ちゃんと生き延びている。ただし、進化の末、荒廃した環境に適応したことと引き換えに、未来の生態系の中に一生物種として組み入れられてしまっている。一見、悲観的な未来のようだが、幾多の試練の後、未来の人類が自然に回帰する道を選んだととることもできる。しかも、過去から来た人類である子供たちもこの世界に根付いて行くのだから、人類の流れは二手に分かれ、ますます滅亡のリスクは少なくなる。そう考えると、人類の未来は案外安泰であるという結構楽観的な漫画にも思えてくるのである。

(<小説すばる> 平成12年12月号 )


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