ヒストリカル・ボラティリティーの推定に関する問題点

標本の標準偏差値(sample standard deviation)

ボラティリティーとは標準偏差値である

ヒストリカル・ボラティリティーとは、相場の変動度合を数字によって表したものである。統計学的には標本の標準偏差値で、標本は過去の株価などのリターンの自然対数を取ったデータである。計算は簡単で、エクセルなどのビジネス表計算ソフトでもできる。ところが、以外な落とし穴があり、これを見落とすと論理的には不正確な値を使用する危険がある。

標本の標準偏差値(s)は、データのばらつきの度合を示す。sは検定などの際、頻繁に使用される。また、標本の分散はsを二乗したもので、s2と書く。

標本の平均値または期待値(sample mean, or expected value)は、データの中心がどこにあるかを示す。これをmで表す。

標準偏差値を推定するときの留意点

ところで、mを母集団の平均値(μ)とみなすことは、統計の実務においてよく行われる。その根拠であるが、mがμの不偏推定量(unbiased estimator)となることが、証明されているからである[17]。つまり、Eを期待値の演算子とすると、E[m]=μとなるからである。

また、標本の分散(s2)であるが、これもmの場合と同様、E[s2]=σ2となることが知られている。ここで、問題である。

標本の標準偏差値(s)も不偏推定量なのか?

つまり、E[s]=σといえるだろうか?答えはノーである。標本の分散は母集団の分散の不偏推定量といえるが、標準偏差値は、そうではない。確かに、ほとんどの統計の教科書などは、標本の分散を母集団の分散の不偏推定量としている。だからといって、標本の標準偏差値をそのまま母集団の標準偏差値の不偏推定量として用いることは、誤りである。標本は一つしかないからである。相場に過去は一度しかないからである。株価などを無限に抽出することなど、できないではないか。

過去の株価や先物価格は一つしかない。つまり、標本は一つしかない。これは、統計学でone-sample problemと呼ばれる問題である。

そして、ほとんどのデリバティブに関する書物が、この問題点を見落としている!

E[s]=σとするには、sに修正係数をかける方法があり、それは

[n/(n-1)]・αn

で、nは標本数である。αnであるが、これは

(2/n)0.5・{Γ(n/2)/Γ[(n-1)/2] }

となり、Γはガンマ関数である。

参考までに、修正係数をn=30まで計算し、以下の表にまとめた。

Dataは、修正係数を高速計算しヒストリカル・ボラティリティーを算出します。
 

標本数

修正係数

2

1.128379167

3

1.085401882

4

1.063846081

5

1.050935853

6

1.042352025

7

1.036236726

8

1.031660953

9

1.028109253

10

1.025272898

11

1.022955791

12

1.021027443

13

1.019397673

14

1.01800217

15

1.016793843

16

1.015737424

17

1.014805975

18

1.01397857

19

1.013238706

20

1.012573193

21

1.011971365

22

1.0114245

23

1.010925399

24

1.01046807

25

1.010047479

26

1.009659372

27

1.009300126

28

1.008966638

29

1.008656234

30

1.008366598


参考文献[16]

 

Copyright (C) 1998 by Ken Muranaka