サイコロ指数の数学的考察

サイコロ指数とは何か

通常、12日間において価格が前日よりも高くなった日数が何日あったかを百分率で示す。投資家心理を相場の動きに置き換えた指標。サイコロとは英語のサイコロジカル(psychological)の略称で、「心理的」という意味である。例えば、過去12日間で価格が前日に比べ上昇した日が3回あった場合、サイコロ指数は

(3/12)・100% = 25%

と計算される。

サイコロ指数の見方

サイコロ指数が75%(12日間で9回の上昇)以上になると、相場は過熱気味とされ、利食い売りが出て反落すると考えられている。逆に、25%(12日間で3回の上昇)以下になると、底入れ感から相場は上昇に転じると考えられている。

なぜ25%と75%なのか。この根拠を数学的に考察してみよう。

サイコロ指数の数学的考察

(1) サイコロ指数は離散型の値である。

定義から分かるが、サイコロ指数の取り得る値は13通りである。12日間で前日に比べて相場が上がる回数は0, 1, 2, . . ., 11, 12と13通りしかない。

サイコロ指数によく似た指標で、RSI(相対力指数)がある。通常は17日間で値上がりした日の上昇幅を合計し、これを日々の変動幅の絶対値を合計した値で割り、百分率で示したもの。この指数は離散型ではなく、連続型の値である。

(2) サイコロ指数は二項分布する

二項分布とは例えば、10円玉のような硬貨を投げたとき、表(または裏)が出る確率の分布で、これをサイコロ指数にあてはめてみよう。

二項分布の公式(または統計表から確率を読み取る)を使うと、以下の計算ができる。

カッコ内の青い数字が、二項分布の公式を使って計算した確率である。事象(表が出る回数)とその確率との対応関係を確率分布というが、ここで示したような「硬貨投げ実験」の結果を表わす確率分布を二項分布と呼ぶ。ただし、ここで計算した確率だが、10円玉にはなんら細工は施されておらず、表と裏の出る確率を「同様に確からしい」とみなし、50%と考えて計算した。この確率が他の値ならば、カッコ内の青い数字も異なるり、確率分布は左右対称にならず、歪みが生じる。

では、二項分布をサイコロ指数にあてはめてみよう。

すなわち、「表が出る=前日に比べ価格が上昇」と考えれば、10円玉を投げる実験結果と同じ確率分布によって、サイコロ指数の確率分布を表わすことができるではないか。

(3) なぜ25%と75%なのか。

10円玉のような硬貨を12回投げて、表が0回、1回、2回、3回出る確率を合計すると、

0.02 + 0.3 + 1.61 + 5.37 = 7.3%

である。

これは10円玉を12回投げて、表が出るのが3回以下の場合の確率である。これは、サイコロ指数が25%以下になる確率と同じである。

一般に、統計学では、5%以下の確率で起こることは、「稀に起こること」と考えられている。

したがって、7.3%は約5%なので、12日間で相場が前日比で3回以下しか上がらなかったら、これは「稀に起こることであるから、そろそろ相場は底を打つであろう」という心理状態といえる。サイコロ指数はこのような投資家の心理を指数化したものとみてよいだろう。

また、10円玉を12回投げて、表が9回以上出る確率も同様に7.3%である。

ただし、これは相場が上昇するのも下落するのも、同様に確からしいと投資家がみなしている場合の結果である。

以上が、サイコロ指数の25%と75%の数学的根拠である。

10円玉投げのコンピュータ・シミュレーション

確率とは何かを使うと、硬貨投げ実験をコンピュータでシミュレーションできる。試行回数を12回に設定し、30回硬貨投げ実験を繰り返すと、以下の結果が得られた。シミュレーションは乱数を使って行っているため、シミュレーション毎に結果は異なる。

シミュレーション

表が出た回数

1回目

7

2回目

8

3回目

9

4回目

6

5回目

6

6回目

9

7回目

4

8回目

6

9回目

6

10回目

5

11回目

6

12回目

3

13回目

5

14回目

5

15回目

10

16回目

7

17回目

4

18回目

5

19回目

6

20回目

4

21回目

3

22回目

7

23回目

4

24回目

6

25回目

7

26回目

6

27回目

8

28回目

4

29回目

5

30回目

6

これを度数分布にしてまとめると、以下の表になる。頻度/30は、表が出た回数の頻度を30で割り、百分率で示したものである。これが、このシミュレーション実験によって得られた「確率」である。シミュレーションを繰り返す回数を30ではなく、1000回とか10万回にしていくと、「確率」は二項分布の公式によって計算される理論値に近似する。

今回行った30回のシミュレーションでも、9回以上表が出る確率は10% (=6.667 + 3.333)で、3回以下の確率は6.667%と、比較的良好な結果が得られた。

表が出た回数

頻度

頻度/30

0

0

0.000%

1

0

0.000%

2

0

0.000%

3

2

6.667%

4

5

16.667%

5

5

16.667%

6

9

30.000%

7

4

13.333%

8

2

6.667%

9

2

6.667%

10

1

3.333%

11

0

0.000%

12

0

0.000%

Total

30

100.000%

また、確率とは何かの「降水確率」のシミュレーションでは、雨が降る確率(=相場が上昇する確率)が自由に設定できる。試行回数と相場の上昇確率を変えて、シミュレーションすれば、自分だけのオリジナルなサイコロ指数が計算できる。シミュレーション回数であるが、100回も繰り返せば、理論値にじゅうぶん近似する結果が得られると思う。

確率とは何かを使って、自分だけのサイコロ指数を計算してみよう。例えば、相場が上昇する確率を50%とせず、30%とし(バブル崩壊後の株式相場では、このような見方の方が投資家心理をもっと明確に表しているかもしれない)、観察期間も12日間ではなく15日間とした場合、相場が天井または底と思われるサイコロ指数はそれぞれ何パーセントか?シミュレーションすれば、二項分布の公式を知らなくても(複雑な計算式を理解しなくても)、近似的に解を得ることができる。

ここで紹介したような乱数を使っての計算方法をモンテカルロ法(Monte Carlo method)という。太平洋戦争中のマンハッタン計画で、核弾頭の設計に使われたことをきっかけに、戦後コンピュータの技術革新とともに発展した計算技術で、公式(ここの例では、二項分布の計算式)が不明でも、シミュレーションによって近似値を得ることが可能となった。

 

Copyright 1999 by Ken Muranaka