嵐山さくらトイレ(住民参加の公衆トイレ改築計画)

  京都市で初めて公共施設のデザイン計画を、地域住民の参加で行った事例。
 それだけを聞くと、単なる京都市施策への住民参加事例のようだが、トイレの臭い、痴漢の棲息、観光シーズンのトイレの不足といった公衆トイレそのものに起因するものから、事業者住民(観光客をもっと呼んで活性化したい)と非事業者住民(観光振興はそこそこに、むしろ静かな居住環境を確保したい)の意識ギャップといった深いところまで、地域の課題を浮き彫りにさせたこと、さらに、立場の異なる住民が公衆トイレという題材を用いて、その解決に向けていっしょに考えるきっかけとなったことから、まちづくりの「きっかけづくり」活動として評価できる取組であったといえるだろう。

 いわゆる3Kトイレの典型とされていた、嵐山中ノ島の公衆トイレの改築計画のプランを、地域住民そして立命館大学乾助教授(当時、現同大学教授)や京都工芸繊維大学谷口助手(当時、現立命館大学助教授)ら多数の勝手連的サポートチーム、そして京都市の3者によって、4回のワークショップでまとめ、工事を実施した。周辺での女性用トイレ・バリアフリートイレの不足、常連の痴漢がいるなどセキュリティ上の問題などの課題を解決すべく、詳細のデザインまで、3者の議論が生かされ、盛り込まれた。
 また、3回目のワークショップでは、嵐山らしい公衆トイレをつくるため、ということから嵐山のよさ、宝物の再発見が取り組まれ、事業者住民と非事業者住民のいずれもがこの地に深い愛情と誇りを持っていることが確認された。これが、以後地縁形住民団体と事業者系の団体協働の取組(周辺美化活動、安全パトロール等)の活性化に繋がっている。

 ところで、この取組では、2回目のワークショップの冒頭、参加者に趣旨説明をするために出てきた京都市の担当者が、貼り出された説明資料の前で「私はこれまで住民説明会の時には、いつもこの道具を使ってきました。けど今日からはこれを捨てます!」と突然手にしていた長いものを放り投げた。「それは杓子定規といいます!!!」確かにT定規に杓子がくっつけられたものが床に転がっていた。「ではこちらをごらんください!!」と、いきなり紙芝居をはじめた。…という所謂「杓子定規投棄」エピソードが有名で、いろいろと尾ひれがついて多数の文献*で紹介されている。

 
*延藤安弘「まち育て」を育む(2001) 東京大学出版会、同 なにを目指して生きるんや(2001) プレジデント社
   同 対話による建築・まち育て 所収「トラブルをエネルギーにする 対立を対話に変える物語性のデザイン」(2003) 学芸出版社
  乾 亨 新人間性の危機と再生 所収「都市計画から参加のまちづくりへ」(2001) 法律文化社 所収 他

 

平成8〜9年

ほれほれ仙人のひとことコメント

 ま、どっちかというとまちづくりのサポートをする側、役所の市民参加・住民参加の事例じゃがの。この事例をきっかけに京都市が参加の制度的整備やまちづくりセンターの設立などに急激に動いたのは事実じゃ。
 当の地元住民のほうは当時の中心メンバーが亡くなられたことなんかもあって、トイレの取組と今の取組との連続性はないかもしれん。いちどインタビューしてみたいの

まちづくり嗚呼魁部
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