オイルなどがシールに対してどのように影響するか−その3


5)その他(具体例を考えて・・)

1.バルブステムシールの例:

S61年式2000ccチェイサー1G−FE:
普通の廉価版オイルを3000km毎に交換されておられる方がおられましたが、
約5年で8万キロ走行後、ステムシールから漏れだし、白煙が出るようになりました。
この2000cc1Gのエンジンは一般的に言われるように、白煙が出やすいのですが、
相当多く出るようになり、オイル消費も増えたため、
このステムシールを交換する事になりました。
(ついでにタイミングベルトやオイルシール等もすべてすることになりました)
その際、テスト用にとシール回復剤を入れ、ポリマー系の粘度向上剤も入れたわけですが、
入れた最初だけ改善したように見受けられたのですが、
結局、無駄だと判りましたので、ステムシール交換となったわけです。
その後は100%合成油を使用していただくことになり、添加剤も入れて結局17万キロまで走行しました。
オイル交換の平均走行距離を約1年で1万5千キロ前後に延ばしたにも関わらず、
その後6年間は白煙は出ることはありませんでした。
全体的な自動車の性能劣化もあったため車検を受けずに乗り換えることになりました。
この場合は最初の部品や組付けの問題であったのかどうか判りませんが、
(他のケースでは、新車から白煙が出た距離までの距離を
修理後に走行する事は滅多に無いため確認出来ないので)
シール交換をしてから、オイル品質を良いものに変え、場合によっては添加剤を入れることで
その後の再発が出たことは無かったように思われます。
2.カムシールの例:
H1年式1800ccギャランE−13A、G62B:
走行距離が7万キロを越え、白煙が出るようになりバルブステムを交換した際に、
カムのオイルシールからの漏れが発見され、タイミングベルトにもエンジンオイルが付着
していたため、合わせての交換になりました。
前回の車検では(約6万キロ)ディーラでタイミングベルトを交換しており、その際シールを交換していたか
どうか判らないのですが、こういうケースがありますと、
ステムシールからオイル消費がオイル不足を起こし、油温を上げたため、更にオイル劣化を引き起こす
(そのため更にオイル消費が進む)
と言う悪循環がシールに影響を与えたのかどうか判らないわけですが、
こういったケースは良く見受けられるようです。
1カ所が具合悪くなりますと、他の関連した箇所まで影響を受け易いと言うことは往々あることで、
特に同じ工程にあるパーツは将来の使用距離を考えて交換をしてしまう事も必要かも知れません。
6)ゴムに関する特徴など

オイルシールとして最も使用されていると思われるのが「ニトリルゴム=NBR」です。
アクリルニトリルとブタジエンの順序と割合で共重合がされたものですが、
抜群の耐油性を持ち、耐摩耗性にも優れ、工業用として広く使われています。
難点は、ニトリル含有量が増えると耐油性、耐摩耗性が向上しますが、耐寒性や弾性は低下します。
つまり、寒冷時に特に柔軟性に欠けると言えます。

耐薬品性能としましては、フッ酸、王水、酢酸エチル・アミン、アセトン、メチルエチルケトン、ニトロベンゼン、
などには適さず、高濃度の硝酸・硫酸、クローム酸、アンモニア水、BTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)、
トリクロルエチレン、クレゾール、アセトアルデヒト、ラッカー・ペイントシンナー、などにも条件付きで使用が可能ですが
あまり適していないと言えます。
A重油、マシン油(一般機器用)、ガソリン、灯油、軽油などには強い耐久性を持ち、一般オイルにも十分な耐久性を持ちます。

ゴムの摩耗特性値(比摩耗量を摩擦係数で割った値)=Ws/μ(mm3/(N・m)は
ゴムの衝撃破壊エネルギーにほぼ比例する特徴を持つので、
摺動部にはその摩擦係数(μ)と荷重(P)が大きくなればそれだけ摩耗し、
ゴムの材質の硬さ(H)と、引っ張り強さ(σ)と、破壊伸び(ε)が大きくなるほど、
摩耗しにくいと言う傾向があります。

摩耗量だけから軸受けシールの耐久性を見れば、
NBR<フッ素ゴム<特殊ニトリル系ゴム<ウレタンゴム
となるようなのですが、
上記のような耐薬品性や耐熱性も考慮に入れる必要があり、
更にコスト・設計的な問題もあり、そういった点がメーカー任せと言うこともあり、
今後の対応に期待したいものです。
ただし、前ページでも書きましたとおり、オイル劣化による接触する摺動金属部の粗度・精度誤差、
異物(スラッジ)などの噛み込みがあっては、その性能が発揮出来ないことは言うまでもありません。

@ゴム材料に及ぼす添加剤の影響
使用の可否判断の目安としては、硬さ変化で±10ポイント、体積変化率で±20%以内と考えられ、
これ以上の材料物性の変化はシール材料の特性を保持することが困難である。
浸せき試験条件
(度C/70hr)
120 150 175 175
添加剤 (%) NBR
(ニトリルゴム)
ACM
(アクリルゴム)
VMQ
(シリコーンゴム)
FKM
(フッ素ゴム)
摩擦調整剤
1級ZnDTP
2級ZnDTP

1.2
1.2
 

−48
<−50
 

−12
 

−45
<−50
 

−28
−44
酸化防止剤 1.0
−11
+11
−20
−14
清浄分散剤
Caスルフォネート
Mgスルフォネート

4.0
4.0
 

−10
+2
 

−3
+18
 

−7
−27
 

−11
−12
無灰分散剤
コハク酸イミド

5.0
 

+13
 

<−50
 

+4
 

<−50
さび止め剤 1.0
−6
−3
−14
−14
粘度指数向上剤 10
+3
+16
−17
−15
摩擦調整剤
Mo系
アミン系
エステル系

2.0
3.0
2.0
 

<−50
+4
+12
 

+15
<−50
−4
 

<−50
−19
−12
 

−26
<−50
−33
※材料の評価は伸び率の変化率(%)で行った。

A添加剤とゴム材料の適合性
添加剤名
添加剤の適用
ゴム材料適合性※
NBR
(ニトリルゴム)
ACM
(アクリルゴム)
VMQ
(シリコーンゴム)
FKM
(フッ素ゴム)
高級脂肪酸 油性剤 不明
ジアルキルジスルフィド 極圧剤 × 不明
塩素化パラフィン ×
トリクレジルフォスフェート 不明 不明 不明
メタル・オルガノジチオフォスフェート ↑・酸化防止剤 × × ×
硫化油脂 × 不明
リード・ナフテネート × × 不明
メタル・オルガノジチオカーバメイト ↑・酸化防止剤 × ×
金属せっけん ×
リン酸エステル さび止め剤 不明 不明 不明 ×
塩基性フェネート 清浄分散剤
腐食防止剤
塩基性スルホネート
コハク酸イミド 腐食防止剤 ×
ポリアルキルメタアクリレート 流動点降下剤
塩素化パラフィン・ナフタレン縮合体 ×
ポリイソブチレン
無水マレインイミドとポリアクリルメタアクリレートの共重合 粘度指数向上剤 不明 不明 不明
4,4’−メチレンビス(2,6ジアルキルフェノール) 酸化防止剤 不明 不明 不明
4,4’−テトラメチルジアミノジフェニルメタン 不明 不明 ×
※適合性において、化学変化が伴ったと思われる物性変化(伸び率の変化)をもって推定した。

B耐燃料油性について(燃料温度40度Cで70時間の浸せき条件)

近年の排ガス規制に伴い、燃焼効率向上目的から、ガソリンなどにメタノールやMTBE(メチルターシャリ・ブチルエーテル)等や、
清浄剤があらかじめ添加されているガソリンなどが増えてきています。
また、各種燃料添加剤の成分によってはシールに影響を与える成分を含有していることも考えられますので
シールにとってはますます過酷な条件にあるように思われます。

基準になるガソリン燃料のイソオクタンとトルエンの割合からゴムへの影響を試験されているわけですが、
ゴムの中でも最高の耐燃料性を示すFKM(フッ素ゴム)の場合でも、
イソオクタン50%:トルエン50%の場合、約10%程度の体積変化が現れています。

NBR(ニトリルゴム)の種類はアクリルニトリルの含有量で使用温度が異なりますが、
さらに高温特性・耐油性・機械的強度等に優れたHNBR(水素添加ニトリルゴム)を使用していても、燃料に浸せきされると、
それらの添加成分の影響が出ることが確認されています。

40度C70時間の浸せき条件では、
メタノールによるNBRの体積変化率は燃料に対してメタノールが15−30%添加の場合に極大値が現れ、
割合が増加するにしたがって、変化率は下がってゆくようなグラフになります。
NBRの種類によっても変わりますが、この最大値は上記試験油(トルエン50%+イソオクタン50%燃料)の場合でも
添加されていない場合のおおよそ+15%程度の体積変化になります。
特にFKM(フッ素ゴム)の場合はメタノール含有量が多ければ多いほど体積変化率は上がります。
(10%メタノール添加で+10%、100%メタノールで+70%の体積変化)
メタノール含有燃料添加剤の常時使用については、シール剤へのダメージをある程度考慮された方が良いかも知れません。

またMTBE添加の場合はFKM(フッ素ゴム)に20%程度も添加しますとやはり+10%程度の体積変化が現れます。
さらに、アミン系清浄分散剤の場合は、その組成・添加量・使用条件によってはシール剤に大きな影響がみられる場合もあり、
商品の使用については、ゴムシールへの影響についてのメーカーの表示が期待されるところです。
基本的には燃料への添加量の割合が関係すると思われますが、
燃料の成分が直接オイルに混入し、燃料添加剤の成分・溶剤などがシールへダメージを与えたり、
ブローバイガスによって、オイル自体が劣化する事によりシールへの影響が二次的に発生したり、
と、様々な影響も考えられます。
 



※@ABともに資料は「これでわかるシール技術」NOK株式会社編、工業調査会発行。
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