「女の園」
監督:木下恵介

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京都の封建的な女子大を舞台にして、生徒の権利と経営者の管理の闘いを描く。
テーマはちょっと古くさいけれど、ドラマとして十分におもしろい。

実はこの「女の園」、1954年度のキネマ旬報でみごとランキング2位に輝く作品。ちなみに1位は「二十四の瞳」。3位はあの黒澤明の「七人の侍」。圏外には「ゴジラ」(本多猪四郎監督)や「近松物語」(溝口健二監督)。海外作品には「ローマの休日」「嘆きのテレーズ」「恐怖の報酬」「ロミオとジュリエット」などなど錚々たる作品群。
これだけ高水準の作品が次々とつくられていたこの時代のすごさにまず驚くが、その中で、この「女の園」が「七人の侍」よりも上位にランクされているという事実が、この作品の性質を如実にあらわしているように、僕には思えるのだ。

おそらく多くの人にとって、上にあげた9作品のなかで最も知名度の低い作品が、「女の園」なのではないだろうか?「七人の侍」なんて、観たことはなくてもほとんどの人が名前くらいは知っているだろうと思う。参考までに1999年度のキネマ旬報・日本映画ベスト100では、「七人の侍」が堂々の1位。「二十四の瞳」は8位で「近松物語」は49位。しかし、「女の園」の名前は、100作品中のどこにも見あたらないのだ。まあ、黒澤は亡くなってから神話的な付加価値が付いてしまったという事情もあるだろうけれど、この無視され具合は正直ちょっとアレだなと思ってしまう。

「二十四の瞳」の頁でも書いているけれど、やはり本当の名作とは、時代に色あせないものなのだと僕は思う。そういった意味で、この作品は・・・・なのだ。残念なことに。
しかし、だからといってこの作品が、観るに値しない過去の遺物なのかというと、決してそんなことはない。現に、点の辛い僕が星を四つもつけているように、映画としては傑作と呼んでさしつかえないと思う。作品としての質は非常に高く、木下監督の演出も小憎らしいほどきまっている。役者陣がぶつけ合う演技の応酬も、見応え抜群だ。昨今のぱっとしない邦画群とは、まったくもって比較にならない。
ところがここに問題が一点。この作品が扱うテーマの半分は、「学生達による自由獲得のための闘争」なのだ。闘争なんてしなくても、勝手とはき違えるほど自由を謳歌出来るイマドキの若いもん(いや、僕だってそうだと言いたいのだけれども)にとって、わざわざ学校と闘ってまで権利を主張する女学生達の姿は、ヘタをすれば滑稽にすらうつってしまうだろうと思う。自由を訴えることがひとつの生き方であったであろう当時とは、事情があまりにも違いすぎる。ひとことで言えば、古くさいのだ。

しかしそれでも木下監督がすごいと思うのは、これだけエネルギッシュなはずのテーマをあつかってもなお、情に棹さして流されたりはしないというところだと、僕は思う。あれだけ高峰秀子を泣かせ発狂させておいて、まったくもって、この木下恵介という監督は冷徹漢なのだ。高峰演じる出石芳江のとった最後の結論は、木下恵介が投げかける冷酷な問題提起でもある。さあ、おまえらならどうする?と。

登場人物のキャラクターは様々だ。厳しい寮の規則に対して、単純に自由な行動を求める者。ただ好きな人との交際を認めて欲しい者。学校とつながりを持つ財閥の娘であることに反発し、反抗のために反抗する者。それを密告するもの。ただ無事に卒業することだけを望むもの。取り締まる学校側も、金や体裁に固執する者から過去に不倫経験がありながらも自由恋愛を否定する者まで、多くの人が、各々の主義主張をぶつけ合う。ところが、監督の目線は、いつまでたっても誰にも感情移入をしないのだ。常にどのキャラクターとも一線を引き、いったい話が誰を主体に進もうとしているのか、見当がつけられない。しかしそれが、ストーリーテリングの散漫につながるのではなく、逆に着地点を予想させないスリルすら醸し出している。すごい技量だ。しかもこの作品、とても動きに乏しく、ストーリーのほとんどが会話で進行する。にもかかわらず、2時間半もの間まったく飽きさせずに観客を画面に引きつけるというだけで、もう神業だと思う。意外に斬新で大胆な構成も見物だ。

高峰秀子の役どころは、厳しい親と寮母の目を盗み自分の愛する苦学生と結ばれることを願う女学生。一途だけれどそれゆえノイローゼになってしまう、あいかわらずの幸薄い役で、後半の狂いっぷりは演技だとわかっていても痛々しい。彼女の制服姿が見られたなんて喜んでいる場合ではなかった。
もちろん「女の園」なんてタイトルだけあって、当時の花形女優の共演でもあったりする。高峰三枝子や岸恵子の若かりし美貌もみどころのひとつだと思ったり思わなかったり。昔の女優さんはほんとにキレイなのだ。
ちなみにこの作品で恋人同士を演じた高峰秀子と田村高広は、半年後に公開される「二十四の瞳」で、十以上歳の離れた先生と生徒を演じている。そちらでは、同じように若い田村に較べ、どうみてもおばさんにしか見えない高峰がすごい。