オバサン・ドライバーが行く 30
北海道、上陸
(函館)
私の愛車を乗せたフェリーが、函館港に入港した。
何度か訪れた北海道であるが、いつも友人と二人連れか、もしくは30人以上の団体を引き連れてで、単身で上陸したのは、初めてである。抜けるような青い空が、私の勇気を歓迎してくれた。
若者にとって、北海道は特殊な場所であると思う。私の大学時代は、在学中に北海道に行くことは、誰しもが夢見たことだったように思う。あのころは、今のように海外旅行をたやすくできる時代ではなく、北海道は、時間に余裕のある学生時代のうちに、ぜひとも旅してみるべき地であった。そのあこがれの強さは、今の学生の海外旅行に匹敵するのではないだろうか。
北海道は、関西の人間にとっては、はるか彼方のそのまた海の向こうにある別世界であった。まさに海をへだてた異国だった。最近の学生の場合は、北海道より先に海外という、正真正銘の海の向こうの国に旅する人も多かろうが、それでも北海道の人気は高い。
お金のない若者が、無理をして旅するから、その旅行はユースホステルに頼ることになる。私の回りの同年輩にも、北海道をユースを使って旅行した、という人が多い。この世代にとっては、ユースと北海道旅行は切っても切れない仲である。
このユースホステル運動、というのは1909年にドイツの小学校教師が思い付き、ドイツのアルテナ城内の簡素な青少年用の宿泊施設を作ったのが、はじまりだそうだ。その後、ドイツからヨーロッパ、そして世界中へと拡がったものである。
その目的は、青少年が安全に楽しく、しかも経済的に有意義な旅をするのを支援するためである。旅が青少年にとって、最高の人生勉強になるのは、今も昔も変わらない。
だが日本においては、ユースの利用者数というのは1970年をピークにして、ずっと右下がりのカーブを描いている。そのためユースの経営も苦しくなっているのが現状である。ユースの経営者も、今どきの若者が敬遠するようなうっとうしいシステムを改める努力をしているようだ。
私が学生のときのユース、というと、事前に往復ハガキで予約し、酒もタバコも一切ダメ、夜は10時には消灯になり、また夕食後はミーティングがあり、これには全員が参加しなくてはならなかった。ミーティングは、集まったもの同士でゲームや唄をともにするという娯楽的なものだったが、あの当時でも、若者たちの間では不評だったようだ。
昔々にユースを利用したような友人はたいてい言う。
「ユースは、たしかに安いけど、あのミーティングとかいうのが、耐えられないわ」と。
今のユースでミーティングをしている所は、皆無に近い。食事も工夫し、お酒やタバコも可のところが多く、夜はティータイムと称して、参加自由で希望者だけが、自由に語り合う時間として設けられている場合が多い。ティータイムには、紅茶が飲み放題で、ちょっとしたデザートが提供される場合さえある。
そこまで若者に迎合してさえ、そしてまた料金を一泊二食で4000円前後に押さえても、いまどきの若者は贅沢になってしまって、ユースの利用者は減る一方である。だいたい、子供部屋が個室になり、豪華な浴室があるのが普通になって、脆弱な若者の中には、他人との相部屋に耐えられず、中には他人と一緒に風呂に入ることさえできないのもいるらしい。
相部屋は、たしかに私の年齢になると、ちょっと苦しいものもあるが、若者だったら、むしろ他の地域の人々と話し合える楽しさの方が大きいのではないかと思う。
若者は贅沢になったが、出張費を浮して小遣いを増やそうと企むビジネスマンや、定年になって暇がいっぱいできてお金のないシルバー世代が、安い宿泊所として利用し始めているようだ。そんなだから、現在のユースには、さまざまな年齢層の人が集まってくる。

様変わりのユースであるが、北海道はいまだに若者の人気が高く、ユースがユースとして生き生きしている感じがする。名物ユースがたくさんあるようだ。
たとえば、未だにミーティングを売り物にしているユースもある。礼文島にある桃岩ユースがそうだ。
北海道に至るまでの道中でのユースで、私はたくさんのユースの達人に出会った。彼らはたいてい北海道崇拝者であり、北海道には何度も旅をしている。彼らの何人かが、
「ユースよりも、トホがいいですよ」と言った。
「とほ」という情報誌に載っている、一種の民宿のようなものを総称して、「とほの宿」と呼ぶらしい。15−20名ぐらいの定員の小規模経営で、男女別相部屋を基準とし、混み具合や値段によっては個室も可になる。どうやら、ユースと民宿のあいだのような存在らしい。
「とほ」は徒歩から来ているのだろう。表紙には、「ボーイズ・ビー・アンビシャス」(青年よ大志を抱け)の向こうをはって、「ボーイズ・ビー・バックパッカーズ」と書かれている。
礼文島には、何人かに薦められた「とほの宿」がある。星観荘という。北海道フリーク達は、ユースの「桃岩派」と「星観荘派」に二分されるそうで、
「君は桃岩か、それとも星観荘か」という質問がよく交わされるとか。
あちこちのユースの達人たちから、「北海道に行ったら、ぜひxxユースに泊まってくださいね」と言われたので、私はまたユース泊まりを始めたのだった。
31 函館ユースでの出会い