オバサン・ドライバーが行く 31
函館ユースでの出会い
(大沼)
ティータイムには、北海道ならではの素材を使った手作りアイスクリームのサービスがあります、というフレーズに誘われて、函館にあるユースゲストハウスに泊まった。
そこで、奇妙な出会いを体験した。
パソコン通信、という新しい人間交流の世界がある。私はニフティサーブというパソコン・ネットに加入していて、そこのワールドフォーラムにあれこれ書き込みをしている。ネットの中に300以上のフォーラムがあり、それぞれ自分の興味のあるフォーラムに入る。いくつ入ったってかまわない。
各フォーラムに20の会議室があり、たいていの人は、二つか三つの常駐する会議室を持っているようだ。私はワールドフォーラムの「路地裏のあやしい旅人」という会議室に常駐している。
そこでは、エリアを限定しない、ちょっと風変わりな旅行記を書いている人が何人かいる。積極的に書き込みする、つまり自分の文章を公表する人のことを、アクティブメンバーといい、書き込みをする根性はないけど、人の書いた物を読むだけという人をROM(リード・オンリー・メンバー)と呼ぶ。
つまり私は「路地裏のあやしい旅人」のアクティブメンバーである。
パソコンやインターネットが騒がれて久しい。「いずれ、やろうと思っている」人は掃いて捨てるほどいるが、「すでにやっている人」は少数派である。この旅行中、多数の人々と話しをする機会があったが、「すでにやっている人」と会ったのは、二度だけだった。清里のユースと、ここ函館のユースである。
清里のユースでは、旅フォーラムのアクティブメンバーの男性と出会った。同じニフティのアクティブメンバーということで、とたんに親密度が増す。ニフティには、旅行関係のフォーラムが二つあって、不思議なことに、国内派と国際派に二分されている。
旅フォーラムは、国内派が大多数で、ワールドフォーラムは国際派がほとんどである。そしてまた、ユースを使って旅行する人々の大半は国内派である。女性の場合は、両刀使いも多いが、ユースで出会う男性は、なぜか「海外には行きたくもない」「飛行機には死んでも乗らない」「自分の国もよく知らないのに、外国に行くのはおかしい」と時代遅れの理論を振り回すガンコ者が多かった。
私は、国内旅行にも、外国旅行にも、それなりに相譲れない良さがあると思うのだが、国内派を自認する彼らは、耳を貸そうとしなかった。
清里で出会った彼は、やはり国内派に属していた。休みのたびに全国の温泉を巡り、それぞれの温泉の成分や効用のリストを作る、温泉オタクであった。おしゃべり上手の楽しい人で、その夜は、一人旅の女性ホステラーと三人で、大いに盛り上がったのだった。
函館ユースで出会った男性もまた、この旅フォーラムのアクティブだった。私が、清里ユースであった人のことを尋ねると、文字見知り(顔は知らずに、通信でだけ交流するので、顔見知りとは言えない)の間柄だったようだ。
「うーん、清里ユースでの出会いかぁ。なんか読んだような気がするなぁ」と彼はつぶやいていた。
この彼、Kさんは友人と二人で北海道をドライブしていた。自転車を積み込んで、目的地を回るのはもっぱら自転車にしていたようだ。
私は函館のあと、松前から江差にかけての海岸線を走って、江差に一泊して、ぐるりと半島めぐりをしてから大沼公園にあるユースに入った。と、Kさんたちも偶然にそこにやってきた。

北海道をユースを利用して旅すると、こうやって旅人同士があちこちで再会することは日常茶飯事のようである。だいたい訪問するルートは似ているから、ずっと一緒に行動せずとも、ひょっこりと知り合いになった旅人と再会するのである。
これも北海道が人気である、ひとつの理由かもしれない、と感じた。
Kさんの連れは、あまり旅慣れていないらしい。二人は、コンピューター関連の仕事をしていて、どちらかというと、部屋にこもってパソコンの前での作業がほとんどだという。Kさんの場合は、昔から旅好きだが、連れはひっぱってこられたようだった。お腹をこわして、辛そうにしている、という。夕食もパスするらしい。
そんなわけで、夕食はKさんと二人で近くのレストランに出かけることになった。というのは、このユースでは夕食が出なかったからだ。シーズンオフには、夕食を出さないユースというのもたくさんあった。
仕事の話や旅の話をしながら、食事した。
「あっ、そうだ。例の清里でのこと、彼がユースの部屋に書いてましたよ」と、通信画面を見せてくれた。コンピューター使いの上手な人は、ブック型のパソコンを旅行にも持ち歩いて、旅先から通信する人も多い。どうやらKさんは、函館でのおしゃべりのあと、ユースの部屋の書き込みをチェックしたらしい。
「清里ユースで、京都から一人旅をしている女性に出会いました。偶然にも、ニフティのネットワーカーでした。運転に自信がないと言ってたけど、無事に旅を続けてるかな?」と、清里の彼が書くと、それに答えてKさんが書く。
「僕も、その女性に会いました。函館のユースでです。彼女は無事に北海道までやってきてますよ」
「おお、あなたも彼女に会いましたか。それはきっと何かいいことがあるでしょう。この次は誰が彼女と出会うだろうか」
という一連の書き込みを見せてもらった。
私の通信歴はほんの一年ほどだったが、通信仲間はときどきオフライン・ミーティング、略してオフと呼ぶ集まりをする。これは、オンラインで知り合った人達が、オフラインで出会うというものだ。私も、自分の属している会議室の関西オフにはよく出るので、通信がきっかけで知り合った仲間は、どんどん増えていた。
これは従来の人間関係を越えた人間交流の世界で、おかげで私は、年下の独身男性とともに食事することにも慣れてきていた。通信で知り合った人達が恋に落ちて結婚する、ということも、ままあるようだ。だが、むしろ恋人ほど深い関係でない男女が、自然に集まってワイワイガヤガヤの時間を共にする、という乾いたつき合いが新鮮だった。
自宅のパソコンの前で、マウスをちょこちょこっと操作するだけで、新しいグループに入っていけ、気が向いたらそこのオフに参加して、おしゃべりする。
初対面であっても、共通の文章を読み書きしているから、話題には事欠かない。現実社会での利害関係からも解放されている。いや、通信の世界では、本名を明かしたくなければ、明かさなくてもよいことになっている。それぞれが、ハンドル名という通信世界でのみ通用する名前を持っていて、通信のやり取りはハンドル名でするのだ。
人間のつき合いも、マルチメディアの発達で、お手軽になったのかもしれない。
私はこの夜、年若い男性とのお手軽な、けど楽しく充実したデートをさせてもらった。
32 とても北海道的なユース