オバサン・ドライバーが行く 33
がっかりの北海道
(摩周湖)
函館の町をひとりでうろついていた時に感じた。函館の元町の異国情緒あふれる有名な建物を見て回ったときのことだ。
すっごい人出だったのだ。週末でもないのに、そこらじゅうに団体観光客があふれていた。旗を先頭にぞろぞろと団体さんがゆく。ひとつの団体を避けるようにして歩くと、そこには別の団体さんがいる。
それはまるで、修学旅行シーズンの金閣寺か清水さんのような人出であった。
その後松前と江差を回ったときは、どこにいってもガラーンとしている。なのに大沼公園につくと、また人の波。

以前私は、友人とレンタカーで北海道を回ったことがあった。たしか湾岸戦争のただ中で、新婚旅行のカップルが、きな臭い海外を避けるので、北海道が新婚旅行ブームになっていた。そのため各地の駐車場は、「わ」ナンバーのレンタカーがいっぱいだった。「わ」ナンバーしかいない、と言ってもいいほどだった。
ちょっと高級なホテルやレストランでは、かなり緊張した若いカップルだらけで、私たち中年は、どこにいっても浮いていた。
とはいえ、彼らも人混みを避けたい個人客であることに差はないので、それぞれの観光地での人出は、そう多くもなく、そう寂しくもない、まあまあの程よさであった。
あの頃と比べると、この状態は明らかに一線を画していた。
理由は明白だ。円高による海外指向と国内旅行の落ち込み。それが引き金になって、旅館やレストラン、バス会社のダンピング。それに乗じて、各旅行会社の安売りツアー合戦。
このごろの新聞なんかには、「魅惑の北海道、3泊4日、4万円の旅」などという広告がやたら目につく。大阪から北海道まで、往復に飛行機を使って、なんでそんなに安いねん、と思う値段である。
飛行機代のみ、ぐらいの料金で、まともな旅館の全食つきの、貸切りバスの、入場料込みで、おまけに毛ガニのお土産までついたようなツアーが、なぜ成立するのか。要するに旅館やバス会社が、「客が無いよりは、まし」とばかりに投げ売りをしているのである。
安いから、たくさんの応募がある。だからツアーあたり40人近いお客がバスに詰め込まれ、旅館では4人が相部屋、というパターンである。もっとも最近は、二人一部屋というお客のニーズにも迎合しているようだが。
天人峡温泉に泊まりたいな、と思って電話をしてみた。いつものように、直前にお願いする、「今夜、あいてませんか」パターンである。
あっさりと、断られた。また、そのセリフがいい。
「ああ、うちは一人旅はやってません」
一人旅は、はなから扱っていただけないのである。
この格安旅行ブームのおかげで、北海道の魅力は激減していた。
北海道の観光地と観光地は離れている。延々と、原野を貫く国道を走り続ける。その時は、人の多さも車の多さも感じない。快適なドライブである。そして、格安ツアーに必ず含まれるような観光地に着く。
「いったい、どこからどうやって、こんなにたくさんの人が湧いてくるのかしら」と悩むほどの人と観光バスがいる。

霧の摩周湖に着いたときは、まさにそこらじゅうが霧に覆われていた。駐車場の入口を探すのさえ難しく、私は五里霧中の道路をゆっくりゆっくりと進み、どうにかこうにか入口を発見した。
広いはずの駐車場のほんの一部にしか視界が届かない。どこに展望台があるのか、どこに休憩所の建物があるのか、と思いながらあたりを見回す。
やがて風が吹いて霧が流れた。そうやってできた、ほんの少しの霧の切れ目から見えた光景は、やっぱり旗を持ったガイドさんと、それに続く団体さんだった。
いるいる。次から次へと、旗に誘導される団体さんが、ぞろぞろと霧の中を歩いていた。
さらに霧が晴れていく。
「おおー」と思わず心の中で叫んでいた。霧が晴れて、駐車場が見通せるようになると、十台近い観光バスが一挙に視界に飛び込んできたのだった。
霧に包まれているのは、神秘的な湖ばかりでなく、たくさんのバスと団体さんなのだった。
もう、北海道はええわ、と思った。
34 一路、宗谷岬へ