1.私の考える伝統工芸品の加工技術について

 

伝統的工芸品も、誕生した当時は、その時代の先端技術を駆使し、自然素材の良さを巧みに利用した技術の集大成の製品であったと思います。

伝統的加工技法は、単に技術をそのまま継承していくだけではなく、新たな加工技術を恒に産み出していく事が、技術を継承する職人の使命と考えます

現代の生産技術は、大量生産時代から多品種少量生産へと変化してきていて、生産技術関連設備や加工治具、部品等も、その目的の為の物が多数存在します

手法の目的が、段取り時間の短縮を目的としたものや、柔軟なハンドリングを可能にするパーツがある事は、この伝統的工芸品のような製品の加工には、非常に有利になります

しかし伝統的工芸品の特徴は、素材は自然素材であり、多くの分業された職場で加工を加えていくという点にあり、工業社会で常識的に用いられている技術をそのまま応用する事には限界があります

けれども少しの工夫を加え、今まで手作業で培ってきたノウハウを加える事により、最新技術も利用する事ができます

そのような目を持って、現在の加工技術を進歩させていくという意気込みを常にもっていないと、千年の歴史を持つ伝統産業は、衰退していくのではないかと、常に考えています。

 

2.他の産業でも起こっている海外類似製品との競合について

 

日本の伝統産業の中でも、私たちの扱う京扇子(夏の扇の場合)等は、一品生産的なものよりも、比較的大量に商品を供給する正確の商品群の比重は大きいのではないかと思います(普及品クラス)

同じように、金属食器、うちわ、仏具、漆器、塗箸等も同様な性格の商品群があると思います。

このような商品の場合、現在、海外で生産された類似品との競合という問題が各地の伝統産業界でも起こっているのではないでしょうか

近代産業である繊維、雑貨、その他工業製品では、海外製品のシェアというものは、非常に拡大されており、それらに比べると、私たちの伝統的工芸品の相手をしている類似品は、非常に少ない割合と思われます。

最近、通販のカタログでも、made in japanと記載されていない、非常に安価な日本の伝統工芸品(類似品) がいろいろ掲載されているのを目にします。

市場において、店頭で販売されている商品では、産地表示がはっきりしていないものが多く、購入される方は、日本製品と信じて購入する場合もあると思われます。

既に衣料品、各種工業部品類、おもちゃ等の近代産業では海外製品(アジア製品等)は品質の点で問題が?というイメージから脱皮してきてその言葉は現在ではあてはまらなくなっていると思います。

事実、私も、Tシャツや、ズボン類の衣料品、おもちゃ等については、郊外の大型店でMADE IN JAPAN以外のものを購入しています。

考え方によっては海外製品はその人件費の安さにより、価格の安い底辺に値する市場を広げているのかもしれません。

しかし、伝統的工芸品は日本人の心であり、洗練された工芸品として私たちがいつの時代になっても変わらぬ品質で製造する事が、私たちの義務であると思います。

その製品が産み出された背景、何故このような加工を施す必要があるのかといった点を理解しないで、模倣した技術で作られた製品には、表面上では見えない欠陥があります

海外製品と製造コスト競争をしようとしても、あまりにもかけ離れた賃金レベルの壁があり、全く競争になりません。

その上で、国内の加工職場において、コストを削減する為の工法の安易な妥協や、洗練された製造の上の『目』を忘れる事は、工芸品の価値をますます下げてしまい、その製品の区別も付かない製品の品質での競争力をも失う事となりうる事を常に念頭においておきたいと考えます