学びアップデート
@即戦力 2018.10.31
「実学重視」期待と危惧

 「皆さんに社会で即戦力になってもらうため、この大学はどんどん変わる」。今年4月1日、亀岡市の京都学園大で開かれた入学式。学校法人理事長に昨年就任した永守重信氏は、新入生を前に意気込みを語った。

 モーターメーカー日本電産(京都市南区)を創業し、グローバル企業に育てたカリスマ経営者として知られる永守氏は、私財を投じて大学改革に乗り出す。来春に大学名を「京都先端科学大学」と改称。「実学」を重視し、モーターなどを学ぶ工学部の設置を計画する。大手英会話教室の教員を動員し、日常会話が十分にできる語学力習得も全学生に義務づける。目指すのは、専門性と国際性を身につけた、世界水準で活躍できる人材の育成だ。

 永守氏が大学運営に乗り出す背景には、偏差値や受験テクニックが幅をきかせる教育への疑問がある。同氏は「京都大や東京大の出身者が、必ずしもいい仕事をしていない。人材育成の面で、大学と企業の間でミスマッチが大きくなっている」と語る。

 変化を目指すのは同大学だけではない。日本の教育全体が、急速な国際化や情報技術革命を背景に大きく変わろうとしている。

 新たな方向性として、小中学校や高校の新学習指導要領は、従来の知識・技能に加えて、判断や表現する力、学習と向き合うといった人間性の三つを柱にすえた。中学高校では「主体的・協働的な学び」が実践される。大学入試も連動して、従来の試験にはなかった「主体性」などの評価が導入されつつある。2020年度には小学校高学年で英語が正式教科となり、成線評価も行われる。

 文部科学省の担当者は「数十年前の高度経済成長期と違い、今は将来が非常に不透明。従来のように知識を習得・表現するだけでなく、自ら見つけた課題に取り組む力や、新しい価値を創造する能力が求められている」と教育改革の狙いを語る。

 暗記で詰め込んだ知識は、今はインターネットで調べればすぐに答えが得られる。人工知能(AI)の進歩で、現在の仕事の多くがロボットなどに取って代わられるとの見方もある。旧来型の教育では激動する社会に対応できないという危機感が、教育行政にはある。

 文科省が掲げる人物像は、経済界の要望とも合致する。経団連が今年実施した企業アンケートでは、学生に求める資質として「主体性」、「課題を設定し解決を図る能力」が文系、理系を問わず上位に置する。

 新たな時代に活躍できる人の育成に教育現場が力を入る中、実学偏重を危ぶむ見方もある。大学の役割の変化に詳しい同志社大の山田礼子教授(高等教育論)は「大学には元々、研究と教育(人材育成)、社会貢献の三つの大きな使命がある。ところが近年、国や企業、社会も後の二つを強く求める傾向が強くなっている」と指摘する。「学術研究の拠点として危うくなっている大学も、すでに出始めている」 (芦田恭彦) 戦後教育 迎える転換

 日本の教育は2020年度以降、大きな転酸期を迎える。英語教育の早期化、プログラミング教育や探究的な学費の導入…。急速な技術革新や国際化、人口減少が進む中、先行きの見えない時代を生き抜ける力を育成するのが教育改革の狙いとなる。

 その象徴が、大学入試と高校教育、大学教育を一体的に改革する「高大接続改革」だ。新しい大学入試で問われる学力は「知識や技能」に加えさまざまな問題を解決するのに必要な「思考力や主体性」が問われるようになる。

 20年度には現行の大学入試センタ,謡験に代わり大学入学共通テストが開始。選択肢の中から正答を選ぶマーク式だけでなく、国語と数学の一部で記述式が導入され、自分の考えをまとめて書く力が試される。

 英語では、大学入学共通テストに民間検定が活用される予定だ。これまで中心だった読んだり聞いたりする受動的な力に加え、話したり書いたりする能動的な力が重視され、社会で生かせる英語力が評価ざれる。

 入試改革はペーパー試験だけではない。各大学は20年度から、受験生にに高校時代の調査書を入試でどう活用するかを示すようになる。紙のテストだけでは測れない主体性を評価しようという狙いだ。大学側もすでに、入学者に求める学力や教育内容を公表し、積極的に受験生に学べる内容をアピールしている。

 変化は初等中等教育にも及ぶ。20年度以降、順次新しい学習指導要領が実施されるのだ。

 小学校では5〜6年生で英語が正規の教科となり、会話重視だった授業内容に読み書きが加わる。コンピューターを使う基礎知議として新たにプログラミング教育も必修化される。中学校は21年度から新学習指導要領が実施され、各教科で「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を促す。高校では「探究的な学び」が打ち出され、22年度から始まる新必修科目「公共」に示されるように、他者と協力して主体的に課題を解決する力を育成する。

 義務教育から大学まで切れ目なく、社会で生きる力を育てる―。これが改革のシナリオだ。

 一方、こうした理念は過去にも繰り返し唱えられてきた。「知識習得」と「思考力の育成」という両極を揺れ動いてきたのが、日本の戦後教育だった。

 権威的に子どもに知識を注入する戦前の「教条主義」の反省から、子どもの感性を大切にする「経験主義」へ。高度経済成長期は基礎学力の充実を目指したが「詰め込み教育」との弊害が叫ばれると、学習量を減らして思考力を鍛える狙いで「ゆとり教育」が導入された。00年代には基礎学力低下との批判が大きくなり、10年代は一転、学習量が増えた。20年度からはさらに学習量を増やした上で、思考力や主体性を育てる方向だ。「二兎を追う」改革とも言える。

 今回の改革が狙い通り実りある教育をもたらすかは未知数だ。

 探究的な学びでは、教師力によって生徒の習熟度に差が広がる恐れがある。英語の民間検定導入で入試の公平性が担保できるのか、不安の声も強い。大学が育てようとする人材業企業が求める人材とをどうマッチさせるかも問われている。

 一筋縄では解決しない課題をはらみながら、戦後教育の「アップデート(更新)」が始まった。(山田修裕、広瀬一隆)

A使える英語 2018.11.02
入試激変 現場に戸惑い

 「そこは間を置かず話した方が分かりやすい」「もっと自分の意見を出せるといい」。6月、南丹市の園部高であった1年生の英語の授業。自ら書き上げた英作文をスピーチする生徒一人一人に外国語指導助手(ALT)らが向き合って、発音や文章構成をチェックする。この日、指導した教員は計4人。手厚い体制に、中村明日美さん(16)は「日本語にない発音など細かく教えてもらえた」と満足そうに話した。

 同高では、1年生が毎週1回、外国人と会話する時間を設けている。「自分の考えが述べられているか」など英作文やスピーチの評価観点を整理して指導に役立てており、今後は議論など即興性が求められる英会話にも力を入れていく。「声に出すことに抵抗がある生徒もいるが、一歩ずつ自信をつけてもらいたい」と英語科主任の光木宏教諭(44)は話す。

 この学年が3年生になった時、大学入試の英語は大きく変わる。

 現行の大学入試センター試験で測られてきた英語力は、単語や文法の暗記をはじめ、読む、聞くなど「インプット」が中心だった。2020年度からは民間検定が導入される予定で、話す、書くなど「アウトプット」の力も評価される。国際化が進む中、実用的な英語力を育てる狙いがある。

 一方、入試の大きな変化は現場に戸惑いを生んでいる。

 大学入試センターが認定した民間検定は7団体8種類あり、目的は海外留学やビジネスなどさまざまだ。全国立大でつくる国立大学協会は民間検定を入試で活用する方針を示しているが、東京大は9月に「必須としない」と表明。各大学の具体的な活用方法もはっきりとは示されていない。

 京都府立高で英語を担当する40代男性教諭は「そもそも異なる検定で入試の公平・公正性が保てるのか。これだけ決まっていないことが多いと、生徒の負担があまりに大きい」と国の方針に疑問を投げかける。

 英語力など実用的な力の養成が叫ばれる中、多様な教科科目を学ぶことの大切さを訴える声も聞かれる。

 「すぐに役立つことが全てではない」。全国漢文教育学会員で、鴨折高(京都市上京区)で国語科を担当する向高亜由美教諭(50)は言う。

 日本の歴史の中で漢文は、中国などから最新の知識や情報を取り入れる際に用られた「先進的な外国語」だった。江戸時代まで知識人の教養は漢文が中心で、紫式部や清少縄言も漢文への造詣は深かった。現代日本語の根底には漢文文化が脈打っている。

 「千年前も私たちと同じよるな人間がいて、物事を深く考えていた。漢文を通し、変わることのない人間性に触れられる」と向高教諭は強調する。

 だが現代の日本の教育では、漢文の存在感は低下する一方だ。大学入試の国語でも、資料やグラフの読み解きなど実用的な力に重心が置かれつつある。向高教諭は「日本人が受け継いできた言語表現の蓄積が忘れ去られてほしくない」と語る。 (山田修裕)

B「探究」ブーム 2018.11.03
問われる課題解決力

 生徒たちが机を合わせ、互いに意見を交わし始めた。8月、京都市北区の紫野高で行われた1年生の「総合学習の時間」の授業。話し合いの議題は「交通渋滞に悩む住民の利便性のため、世界遺産に登録された渓谷に新たな橋を架けるか、否か」。実際にドイツであった議論を元に、架ける派、架けない派に分かれて話し合った。

 同高は明確な答えのないテーマについて考える学習に力を入れている。1年生で議論の仕方を学び、2年生になると地球規模の問題について自分で課題設定して研究を深める。思考力や表現力、物事に向かう主体性、仲間と協力する力を体系的に磨くのが狙いだ。細谷端さん(16)は「議論では思いもしなかった意見や視点に気づく。それに対応する『アドリブ力』は将来役立つ」と手応えを語る。

 このような授業は「探究型学習」とも呼ばれ、取り組む高校が増えている。変化のスピードが遠く、先行き不透明な社会。これからは、自ら課題を見つけて解決する力が必要になるとされるからだ。

 こうした動きを大学入試が加速させている。大学側が学力試験だけでなく、受験生の「学びに取り組む姿勢」を評価しようとしているのだ。

 全ての国立大が加盟する国立大学協会は、受験生の思考力や意欲を入試で評価しやすいよう、論文や面接を重視する「AO入試」や推薦入試などが入学定員に占める割合を、2021年度までに3割へ引き上げる目標を打ち出した。

 20年度からは各大学が、受験生に高校時代の調査書の入試での活用方法をあらかじめ示すことになった。関西学院大などの研究グループは文部科学省の委託を受け、高校での課外活動や探究学習を記録して受験生の主体性を評価するシステムを研究・開発。19年度入試から同志社大や立命館大など計11大学が一部入試でこのシステムを採用する。

 研究をまとめる尾木義久・関字大学長持命は「将来、大学入試は1点刻みのふるい落としの合否判定ではなく、思考力や学びに向かう力などを多角的に見るようになる。面接で意欲や人柄をみる就職活動のように一人一人を見つめる入試となり、大学と受験生とのマッチングの形に移行していくだろう」と指摘する。

 学習塾や予備校も対応に乗り出している。河合塾は16年度から教員向けのガイドブック「学びみらいPASS」を導入。大学生の行動パターンを卒業後も含めて追跡調査した基礎データを基に、生徒にテストを受けてもらって思考力やりーダーシップ、協働性などを可視化する仕組みをつくった。京都でも一部の高校が取り入れており、河合塾近畿本部の宮本正生本部長(57)は「生徒の数値化しづらい力を、イメージしやすくした」と説明する。

 一方、宮本本部長はこうした力の評価には慎重さが必要とも強調する。「生徒の意欲は本来、自発的なもの。『課外活動が入試で評価されるから取り組む』というように入試対策になってしまえば、本末転倒だ」と危ぐする。

 生徒の主体性や個性を評価する仕組みが、逆にその芽を摘むことにつながりかねない,。そんな矛盾をはらみながら、授業や入試は様変わりしていく。 (山田修裕)

C企業とタッグ  2011.11.04
学外での知見 深める意義 

 スーツ姿の京都産業大(京都市北区)の学生が、パワーポイントを示しつつ呼び掛けた。「商品を売り込むための戦略を立案しましょう」。右京区にあるコーヒー製造業「小川珈琲」本社。2〜4年の学生9人が同社員と3カ月かけ練り上げた研修プログラムが披露された。タイトルは「珈琲職人への挑戦」。受講生は入社1年目の社員7人だ。

 同大学の久保秀雄准教授のゼミと同社は今年、初めて社員向けの研修プログラム作成に乗り出した。大学側には、学生の学習への動機付けや社会人として必要なスキルの習得といったメリットがある。企業側は、大学のアイデアや知見を生かすことができる。

 プログラムはドラマ仕立てにした営業担当が喫茶店で、競争の激化に悩むマスターの嘆きを耳にする場面から始まる。味が変わったというクレームや値下げ要望への対応を巡り、1時間半かけロールプレイ形式で考えた。見守った久保准教授は終了後、「企業側のニーズをすくい取って、実用的な内容になったはず」とほっとした表情で話した。

 久保准教授は法社会学が専門で、企業向け研修プログラムをつくるのは初めて。同社の広報誌を約30冊読み込んで企業理念を理解した。参加した法学部4年の高橋良昌さん(21)は「大学は社会に出るためのスキルを学ぶ場所。社会人として働くイメージができた」と手応えを語った。

 大学と企業が授業で連携する試みは各地で進められている。文部科学省よると、京産大のように企業の提示した課題解決に取り組む授業のある大学は、2015年度の調査で331校に上った。

 学生たちが将来働く社会では男女格差など課題もあることから、女性の働き方に焦点を絞った授業などを用意して対処法を伝える大学もある。

 京都光華女子大(右京区)のキャリア形成学部は1年生向けに、卒後3〜30年の7人を招いて講義してもらっている。講義全体を担当する加藤千恵教授は「女子学生にとって、卒業から数十年にわたって働くというイメージは抱きにくい。実体験を語ってくれる『お手本』が必要」と説明する。

 7月にはオフィス機器メーカーに勤めるOG松浦莉穂子さん(26)が約100人を前に、働く経験を講演した。「将来産休を取得しやすいよう、会社から必要とされる人材になる努力をしています」「礼状を欠かさないなど、気配りが大切」と心掛けを伝えた。受講した学生からは「男性と 比べて女性にハンディがあると思った。でも働くイメージもできた」などの声が聞かれた。

 京産大の久保准教授は「企業と協力して課題に取り組んでも、実際に働いて学ぶ内容には及ばないでしょう」と一定の限界を認める。しかし企業と協力して行う授業の意義に疑いはないという。「学生は、授業で学んだ問題解決の手法が実際に企業で生かせるのか確かめることができる。学生が学外に出て知見を深めるのは学問の本道です」(広瀬一隆)

D学歴フィルター
校名か人物か 評価軸揺れ

 私立大の就職支援に携わる職員や企業の採用担当者ら約500人を前に、大企業の経営者が言葉に力を込めた。「グローバル社会では、横並びより、独創性を育む教育が重要だ」。7月、京都市中京区のホテルで開かれた「全国私立大学就職指導研究会」のセミナー。学年支援や採用に向けたヒントを探ろうと、会場からは盛んに質問が飛んだ。

 いま、企業は採用にあたって学生の知識だけではなく、他者と協調する力や、自ら物事に取り組む姿勢といった「人間力」を重視する傾向にある。経団連による企業の採用選考に関する昨年度の調査でも、採用で特に重視する点のトップが「コミュニケーション能力」 、次が「主体性」だった。

 京都市内に本社を置く大手企業の採用担当者は「学外でさまざまな社会的体験をした学生が魅力的に映る」と話す。別企業の担当者は「会社で必要な力は入社後に教育できる」とし、学業成績よりも人物重視を強調する。

 一方で、採用時に学歴を重視する企業はいまでも多いとみられる。

 「所属している大学で説明会を予約したら満席と表示されたが、難関大学の名で予約をしたら席があった」。企業の人事に関する調査を行うHR総研(東京都)が6月に就職活動生1658人を対象に実施したアンケートでは、所属大学によって差別的な待遇を受けたという学生の証言があった。

 就職活動で、特定の難関大学の学生を優先的に取り扱うことは「学歴フィルター」と呼ばれる。HR総研のアンケートで、「学歴フィルター」を感じたことがある」と回答した学生は45%に上った。

 HR総研によると、企業側は重点的に採用したい大学を「ターゲット校」として設定するケースがあるという。同総研が145社の採用担当者らに聞いたところ39%が設け、大企業では50%に上った。長年、就職戦線を見てきたHR総研の主席研究員松岡仁さん(55)は「(就職活動で)学歴が利用される現状は依然としてある」と指摘する。

 背最には、就職活動でインターネットの活用が進んだことも一因にある。採用情報の人事や応募が容易になり、大手や人気企業には多くの学生が集中するようになった。その中で一定の絞り込みをかける際、大学名で選別されるという。

 松岡さんは「過去の採用で優秀な人材がいた確率論から、特定の大学に注目する企業はある。上位大学の合格者は、高校時代まで努力してきたという事実はあるし、学力格差が広がる中で最低限の教養を担保できる安心感も大きいのだろう」と企業側の心理を競み解く。

 ある大学の就職支援担当者は「コミュニケーション能力や主体性は重要だが、企業が求めている学生像はそれだけではなく多様だ」と話す。人物か、学歴か。企業によって評価軸が異なる中、学生たちはこれまで以上にさまざまな能力を身につけることが求められている。(峰政博)=おわり

取材ノートから 山田修裕 18.11.14
 授業在り方 社会で議論を

 2020年度から学校教育が、主体性や思考力を重視する方向に変わる。新学習指導要領が実施され、大学入試でもこうした力が評価される。この教育改革をテーマに「学びアップデート」を10〜11月こ連載した。取材では「日本の教育の集大盛と熱っぽく語る文部科学省や教育委員会の担当者と話したが、自分が受けた教育の記憶が頭をよぎり、「果たして理念通り中身があるものになるだろうか」という懸念が拭えなかった。

 記者(34)の高校時代。同級生が「何のために勉強するのか」と言っても、教員の答えは「とりあえず覚えろ」だった。授業は単語や文法の暗記、教科書解説がほとんど。だが教師だった両親と話をすると、「社会の変化に主体的に対応できる力の育成」という今と同じような理念が掲げられているとのことだった。高校生ながらに、そんな力を養う授業とは思えなかった。

 今回の教育改革でも理念の実現は容易ではないだろう。連載の取材では対応に苦しむ学校も多く見られた。

 授業は今後、対話や議論を取り入れた課題解決型・探究型の学習スタイルが主流になるとされる。だが課題研究として校外の文化財を訪ねたある高校の授業を取材したところ、生徒はばらばらになって案内板に書かれた説明をメモしているだけだった。

 「インターネットでも調べられることをなぞるだけで、どうやって思考力を深めるのか」。教員に尋ねても明確な答えはなく、授業づくりに苦心しているようだった。教科書に無い歴史エピソードを紹介したり、生徒が興味を持った文化財を聞き取ってさらに背景を調べるようアドバイスすれば、もっと魅力的な授業になるだろうに、と感じた。

 教科では国際化への対応のため、英語が大きく変わる。小学5、6年では正式教科となり、大学入試では民間検定試験が導入される。ただ英語を使えても、伝えるべき自らの考えが練られていなければ本末転倒だ。両者の両立に、頭を悩ませる教員も多い。

 忘れてはいけないのは、主体性や思考力といった数値化しづらい力を評価することの危うさだ。たとえば「話すのが苦手」な生徒を安易に「学力が育っていない」と評価しては子どもの「生きにくさ」につながりかねない。主体性や思考力を身につけるための教育を重視しつつ、それを評価する限界も認識する。そん繊細な心構えが、教育者には求められるのではないか。

 教育の要は教員だ。教員研修のような設定された場だけでなく、 日常的に授業のあり方を話し合い、切磋琢磨することが求められる。親もまた新しい教育に関心を持つことが必要だろう。主体性や思考力が必要なのは子どもだけではない。20年度まで1年半を切った。子を持つ親の一人として、議論の行方を注視しつつ、一緒に考えていきたい。